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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年1月号

自治体の取り組み事例

トータルなサポートの推進~栃木市の取り組み~

清水孝之

1 “人”優先の組織づくり

栃木市では“人”優先のまちづくりをめざし、平成16年4月、福祉事務所内の組織機構を見直すことにしました。それまでは身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、生活保護法を担当する「社会福祉課」、児童福祉法、母子寡婦福祉法を担当する「児童福祉課」、老人福祉法を担当する「高齢福祉課」、介護保険法を担当する「介護保険課」の4課に分かれていて、国から地方につながる制度・機関を基にした、俗に言う縦割り状態にありました。来庁する市民はこれらの窓口から自分に必要なサービス窓口を探し出して利用しなければなりませんでした。

当時の福祉事務所が配置されていた市庁舎は、大正時代に建設された築80年以上の歴史的建造物でしたが、その1階のフロアにおいて福祉関係の業務が行われていました。その建築時期から、旧来のお役所のイメージにありますように市民とカウンター越しに接する際、高低差が著しく、あたかも見下すような状況にありました。また、狭く限られたスペースに職員がひしめき合い、窓口も分散していて、高齢者や障がいを抱えている来庁者が多い福祉事務所としては、とても不便なところであったと思います。たまたま市役所の近くのスーパーマーケットの店舗の移転に伴い、その建物を無償で譲り受けることができたため、それをバリアフリーの庁舎に改修し、新たな福祉庁舎が誕生しました。

2 窓口の一元化

新庁舎に移る際には前述した縦割りの組織機構を、福祉に関係する任意の計画や施設等の整備を行う政策的な部門(福祉政策課)と、その整備された社会資源を利用して市民に直接サービスを行うサービス部門(福祉サービス課)、それと介護保険を含む高齢者支援を行う部門(高齢福祉課)の3課組織に見直しました。

さらに福祉サービス課に福祉総合窓口を設置し、一つの窓口で対応できるように、その仕事の連動性を考えた中で市民の利便性を高めています。なかでも、開設と同時に各種の申請に必要な住民票については市民生活課の窓口に出向くことなく、その場で交付できるようにするなど、ワンストップサービスを推進しています。つまり、窓口に訪れた市民(お客様)に対し、福祉関係のことであれば福祉総合窓口で相談、申請、審査、決定、サービスの提供というように一連の対応ができる仕組みにしました。

3 要支援者を取り巻く状況

しかし、窓口の一元化を図っても、制度優先、機関優先の縦割り行政のままでサービスが提供されると、その対応は十分であるとは言えません。本来サービスを利用する当事者とすれば、横のつながりのほうが都合が良いにもかかわらず、法律や制度に基づいて縦割りになり、サービスの提供が断続的になったり、十分な活用ができなかったりします。そのため、あくまでも当事者を中心に据えた生活支援の組み立てが必要となります。

たとえば、発達障がいを抱える子どもさんの場合、病院で診断を受けて通院、訓練を続けながら、療育機関でも通園による訓練を受けています。加えて幼稚園にも通園しているような場合、一人の子どもに複数の機関によるサービスの提供がなされながらも、関係機関同士の連携がなく、バラバラな対応になりがちです。

また、重度の障がいのある子どもさんが在宅で生活をする場合、医療機器・福祉機器の準備、訪問医療機関や訪問看護ステーション、通院のための居宅介護サービスなど家族だけでは調整が困難な場合が多くあります。

さらに、保育園・幼稚園から小学校、そして中学校とライフステージの変化に伴いサービスを提供する機関や相談先が変わってしまい、サービスが断続的になってしまうことがあります。

4 トータルなサポート

このようなサービス利用者を取り巻く環境の課題を解決するため、「医療」「保健」「福祉」「教育」などの部門や関係機関、さらにはライフステージの別にとらわれない、関係機関の縦横断的なトータルサポートの考え方が本市において構想されてきました。

特にこの構想については、日向野義幸市長が平成15年に選挙公約に掲げてきたこともあり、市長就任後に組織化の準備が始まりました。平成16年度には、前述した福祉政策課に特定事業担当を置き、そこで「福祉トータルサポートセンター」の具体的な設置方針を関係者とともに練り上げ、平成17年度より運営が開始されたところです。サポートセンターでは、当面は乳幼児期から学齢期までの障がい児とその家族に重点的に対応できる仕組みの確立をめざしています。乳幼児期から学齢期までは、さまざまな機関の関わりが特に多い時期でもあるためです。

サポートセンターとしての役割は、次頁の■イメージ図■にありますように、個別支援計画に基づいて生涯を通した支援にあります。支援を必要とする人を中心に支援に携わる部門や機関の縦割りを廃し、ライフステージごとに一貫した取り組みを行っていくことであると考えています。つまり、制度や仕組みや機関に人を当てはめていくのではなく、その人(当事者)に対して今何が必要か、将来に向けてどう支えていくかを関係機関と連携し、コーディネートしていくことにあります。現状ではそれぞれの機関は専門性を活かして、別々に独立した体制で支援(サービス)を実施しています。しかし、各機関が連携協力して支援することができれば、各機関の機能を十分に発揮することができ、より一層の効果が期待できるのではないでしょうか。

5 これからの課題

サポートセンターのこれからの課題としては、トータルなサポートの充実に向けて現職員の相談支援のスキルを高め、それに加えて専門的な職員を配置していくとともに、関係する機関や部門がトータルなサポートの理念の下に業務展開ができるような体系をつくっていくことであると考えます。また、相談からサービス管理までの総合的なシステム作りを行い、総合窓口(福祉サービス提供状況管理)システムとの連動等の研究も課題の一つになっています。

6 福祉の理念の実現に向けて

栃木市の福祉の基本的考えは、『ふつうに(ソーシャルインクルージョン‥特別な意識を持つことなく社会の中で共に生きること)くらすことのできる(リハビリテーション‥住み慣れた所でその人らしい生活を送ること)しあわせ(QOL(生活の質・生命の質)‥その人らしく尊厳を持った、充実した生活ができること)を実感できる、しっかり支え合う地域環境をつくること』です。

今後も、“人優先”の視点に立ち、当事者と共に喜びを感じあえるような“ふ”“く”“し”の実施をめざし、着実に歩んでいきたいと考えています。それには、福祉の分野だけで取り組んでいても実現できません。医療機関、教育機関をはじめ地域のさまざまな人々との連携協力が必要です。それらの連携協力がなされて初めて「ノーマライゼーション」や「ソーシャルインクルージョン」という福祉の理念の実現がかなうと思っています。栃木市福祉トータルサポートセンターとしてもその実現を目標とし、職員一同邁進してまいりたいと思っております。

(しみずたかゆき 栃木市保健福祉部福祉トータルサポートセンター主査)