「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年1月号
新春メッセージ
障害者権利条約の実現に向けて
辻優
新年明けましておめでとうございます。
昨年9月、外務省国際社会協力部の参事官として着任致しました。今回、皆さんに着任の挨拶及び障害者権利条約につき日本政府の取り組みを述べる機会を頂きましたことを大変うれしく思います。障害者権利条約は既存の主要な人権条約では十分に確保できなかった障害者の権利を実現するものとして、現在国連においてその条約交渉が行われています。日本国内でも同条約に対する関心はきわめて高く、同条約の重要性と政府代表団として交渉にあたる責任の重みを感じております。
1 障害者権利条約に関する
これまでの経緯
障害者権利条約は、2001年の第56回国連総会において、障害者の権利に関する条約作成議論のための委員会である国連総会アドホック委員会が設置されることが決定されたことに始まります。以降、アジア、アフリカ、中南米、西欧、東欧という、いわば世界中の地域から指名された政府代表、そして世界各国のNGO代表も参加し、本格的な議論が行われてきました。もちろん日本も、国内NGOや関係省庁と緊密に協力し、条約交渉の議論に積極的に参加してきました。
2 政府とNGOとの関係
障害者権利条約の策定にあたり特筆すべきことは、我々日本政府と障害者NGOの皆さんが緊密に協力し良好な関係を築いてきていることです。障害をもつ当事者の方々の声が、条約策定過程にこうした形で反映されることは、実質的な条約策定のためにも非常に意義のあることと思います。
日本政府は、障害をもつ当事者として専門的知見を有する東俊裕弁護士(DPI日本会議常任委員)に、アドホック委員会第2回会合以降、政府代表団顧問としての参加を委任しておりますが、障害をもつ方々の観点からの有意義なご意見を頂くことはきわめて多く、東弁護士の参加を非常に心強く思っております。
また、アドホック委員会開催前には、障害者NGOの方々との意見交換会を開催しておりますし、アドホック委員会会合には、日本の障害者NGOの方々が多数参加される等、非常に有意義な形で協働関係が機能してきています。特に第6回会合では、日本より約30人ものNGO関係者が参加し、また各国のNGOとともに日本障害フォーラム(JDF)の代表がステートメントを行ったことは、日本のNGOも積極的に取り組んでいることを国際社会に対して印象付けました。
3 アドホック委員会第6回会合
昨年8月1日~12日、ニューヨーク国連本部にて障害者権利条約アドホック委員会第6回会合が開催されました。日本の政府代表団には、外務省、内閣府、文部科学省、厚生労働省から出席したほか、NGOの代表として東俊裕弁護士にも政府代表団顧問としてご参加頂きました。
第6回会合では、2004年1月に条約草案作業部会が作成した草案の各条文の交渉を、アドホック委員会第5回会合に引き続き行いました。主として教育や労働の権利等、いわゆる社会権に係わる条約草案第15条から第25条及び条文の構成について詳細な議論を行い、条約草案の第二読を終えることができました。
また第6回会合では、各条文に関する政府間の議論終了後、参加NGOに対してステートメント等の意見表明を行う機会が与えられる等、NGOの意見にも十分に配慮した議事運営が行われました。
4 今後の見通し
アドホック委員会第6回会合までに終了した第二読までの議論を踏まえ、昨年10月、条約交渉の新たなたたき台となる議長テキスト(議長案)が提示されました。次回の第7回会合は、本年1月16日~2月3日にニューヨーク国連本部にて開催され、議長テキストに基づき参加国の間で引き続き条約交渉が行われます。第7回会合に対する方針として議長より、さらなる協調精神と柔軟性を持ち、議長テキストの各条文の書きぶりを受け入れられるか否かとの観点で臨むよう期待する旨述べられました。
また、条約の早期採択のため、昨年の第60回国連総会において、可能であれば1年後の第61回国連総会での案文採択をめざし、そのためにこれまで10日間であった会期を第7回会合では15日間に延長する旨の決議が採択されました。
このような状況は、2001年より議論を重ねてきた障害者権利条約交渉に対しできる限り早期に条約を採択していこうという気運が、国際社会の間で高まってきている証左であり、第7回会合以降、条約交渉は加速化するものと思われます。
現在、我々日本政府も、障害者権利条約の早期採択を念頭におきつつ、議長テキストに対しどのような方針で臨むか鋭意検討を重ねております。また、条約である以上は国際的に多くの国が締結できるような内容でなければならず、慎重な検討も必要です。したがって早期採択と日本が望む条約内容の確保のバランスを取るべく、アドホック委員会第7回会合に臨みたいと思っております。
また、障害者権利条約を締結した際には、既存の国内法制度を条約の精神・趣旨に適う形で適切に運用していくことも不可欠です。そのために、国内の議論をさらに高め、多くの方々に障害者権利条約について関心と理解を深めてもらうことも重要であると考えています。
引き続き障害者NGOの方々とは緊密な協議や協力を重ね、これまで築かれた良好な協力関係をさらに発展させていきたいと思っております。
(つじまさる 外務省国際社会協力部参事官)