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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年1月号

ワールド・ナウ

RIアラブ地域会議報告

奥野英子

サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦等に囲まれた、アラビア湾に浮かぶ小さな島国である「バーレーン王国」において、2005年11月12日から13日にリハビリテーション・インターナショナル(RI)2005年次総会と、11月14から16日にRIアラブ地域会議が開催されました。私はバーレーン王国についてはほとんど知識がなく、ワールドサッカーとの関連でその国名を聞いたことがあっただけでしたが、会議の様子や見聞きしたことについて報告します。

バーレーン王国

バーレーン王国の人口は約400万人で、首都マナマ市の人口は約12万人です。50年前までは非常に貧しい国で、ほとんどが漁村だったと伺いましたが、その後、アラブで初めてバーレーンで石油が採掘されたことで経済的に発展し、大金持ちの国になったようです。1971年に王国として独立しました。現在は石油が底をついてきたために、他国で採掘された石油の精製や金融を中心としたサービス業に力を入れているようです。

羽田から関西空港に行き、そこからアラブ首長国連邦のドバイに飛び、ドバイからバーレーンに入国しましたが、東京からバーレーンまで約20時間かかる長旅でした。飛行場には会議受付が設置され、イスラム国家の特徴である、頭にベールをかぶり白い長着を着た立派な紳士たちが入国の手続き等をしてくれました。バーレーン飛行場を出て、車で首都マナマ市に向かうと、美しい海に囲まれ、白い土地に立派なビルが建ち並ぶ別世界が広がっていました。

バーレーンの総面積は淡路島を少し大きくしたくらいで、南北にも東西にも、車で1時間ほどで行けるそうです。RI2005年次総会は、官庁街の中にあるバーレーン会議センターで開催されました。海が見渡せ、官庁街は高層ビルであり、さらに車社会で横断歩道が全くないのにはびっくりしました。歩いている人がほとんどいない状態で、私は車がとぎれるのを待って、走って道路を横断しました。

RI2005年次総会

リハビリテーション・インターナショナル(国際リハビリテーション協会:RI)は本部を米国ニューヨークに置き、現在81か国、700団体以上が加盟しているリハビリテーションに関わる世界最大の機関です。RIの常設委員会である「健康・機能委員会」「教育委員会」「社会委員会」「仕事・雇用委員会」などが開かれたほか、事務総長報告、各種委員会報告、国連による障害者権利条約についての検討状況の報告、ICF(国際生活機能分類)に関するRIの態度表明、RIヨーロッパ地域委員会による「21世紀のリハビリテーションについてのランドマークスタディ」の発表などが行われました。

さらに、「国連障害者権利条約推進におけるRIの役割」を共通テーマとして、1.ネットワーキングと能力向上、2.アクセシビリティ、3.ハビリテーションとリハビリテーション、4.国連条約の実現化、に分かれて分科会形式の討議が行われました。2日目には、「RIの任務と目標」を共通テーマとして、1.RIのヴィジョンとミッション、2.RIの戦略目標、3.組織・構造、4.加盟団体会費と投票権、の分科会が行われました。このようなグループ討議が行われたことにより、参加者間により親密な関係が築かれたように感じました。

RIアラブ地域会議

リハビリテーションに関する国際会議がアラブ地域で開催されたのは、今回が初めてであり、画期的なものでした。参加国はアラブ地域のほか、ヨーロッパ、アジア・太平洋、アメリカ等の61か国から675人が参加しました。会議の全体テーマは「変革の世界における障害者の権利」でした。会場はバーレーン王国の宮殿やバーレーン最大のモスク寺院の前にあるガルフ国際会議場で開催され、会議場は素晴らしい設備でした。

全体会はセッションごとに、「障害者の権利」「仕事と雇用」「教育を受ける権利」「科学技術とアクセシビリティ」「健康への権利」「メディアの役割」「女性障害者」などのテーマが挙げられ、それぞれのテーマのもとで15分くらいずつでたくさんの発表が行われました。具体的な発表テーマと発表者の国を挙げると、「国連権利条約の意義」(エクアドル国連大使)、「人権における障害者の権利」(特別報告者、カタール)、「人権に関する法律は障害者に平等をもたらすか」(英国)、「障害者の社会統合のための仕事の役割」(エジプト)、「ディーセントワークの推進」(ILO)、「障害者のリハビリテーションと雇用を法的に保障するためのアラブ労働機関の役割」(エジプト)、「働く障害者の心理・社会リハビリテーション」(チュニジア)、「障害のある人の職業リハビリテーションの取り組み」(サウジアラビア)など、テーマも発表国も多彩でした。

全体会での発表のほか、ワークショップやセミナーも開催され、アラブ地域の障害者プラン、障害児を持つ親の権利、学習障害者の仕事と地域参加、リハビリテーションの質を高めるための利用者の役割、自閉症児や軽度知的障害児の母親の生活の質、ガーナにおける障害者の権利、障害者と働く機会、リハビリテーションと仕事の狭間にいる障害者など、広範囲に渡る発表と議論が行われました。

リハビリテーションセンターの見学

会議期間中に関係機関の見学ツアーが用意されており、私は国立のリハビリテーションセンターと授産施設を見学しました。利用者のほとんどが軽度の知的障害者で、中学卒業後の3年間のコースで、就職を目標としていました。センターのバス送迎により、午前9時にセンターに着き、朝食をみんなでいただき、その後、木工、塗装、手芸、金属加工などの訓練が始まり、午後1時には自宅に帰るとの説明に、あまりにも短い訓練にびっくりしました。ほとんどの修了生は単純作業の仕事に就くとのことでした。

リハビリテーションセンターの一角で道路に面したところにお店が設けられ、授産施設で制作された家具、手芸品、編み物などが販売されていました。また、パンやケーキも焼かれており、そのお店もありました。利用者たちはみなユニフォームの作業服を着ており、整然としていましたが、印象としては、職員も利用者ものんびりとした雰囲気でした。

(おくのえいこ 筑波大学大学院人間総合科学研究科)