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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年2月号

ITを使った取り組み

松坂屋におけるWebコンシェルジュサービスの取り組み

寺沢洋志邦

Webコンシェルジュサービスをはじめた経緯

今や日進月歩で情報システムは進展しています。弊社では、5年間使用したサーバーが使いづらくなったため、更新することにしました。その際、サイトへのアクセシビリティの改善をはじめ見やすい情報画面へのデザイン変更、ショッピングページのデータ入力作業や受注後の業務処理の効率化を追求する必要がありました。また新たに搭載すべきシステムの一例としては文字の拡大、音声読み上げに加え初心者向けガイダンス、商品情報コンシェルジュなどのアイデアが考えられました。

これらをもとに2004年秋、コンペを行い10社8グループからさまざまな提案をいただきました。採用した(株)アイティフォー様からは、Webコンシェルジュサービスの提案があり、顧客サービスの視点から私どもはこれに注目しました。そして幅広い提案ができる企業との認識を持ち、導入を決定しました。

松坂屋は80年代にKDD様の協力を得てパケット交換網を使い海外とVIDEOTEX(文字図形情報システム)による情報通信サービスを行った経験から、米では聴覚障害者に対する先進的な取り組みがなされていることを、耳にしておりました。

当時、米ではTemporary Able Body「たまたま健常者として生活している人」がTABと呼ばれるなど、その表現や障害者に対する考え方がとても新鮮に感じられました。そして、情報通信技術の飛躍的な進展がもたらす社会福祉への貢献を確信したのです。その頃取り組んだ大きな字で簡単操作が可能なシルバーキーボード開発はその一例です。

インターネットを使われる
お客様を対象に

百貨店ですので実にさまざまなお客様に支えられています。たとえばファッションをお求めになる方、催し物情報にアクセスされる方、お買い物の相談を事前になさる方、美術展の開催情報を入手される方、快気内祝を自宅からご注文される方、母の日にプレゼントをお求めになる方など利用方法はお一人お一人違いますが、インターネットならどれも簡単です。視覚障害者の方もお一人で、情報に気兼ねなくアクセスして、プレゼントも内緒でできてしまうわけです。

しかし、一般的に情報ページはデザイン性や印象を重視するあまりJAVAやFLASHの機能を使っていたり、できるだけ1画面の中に必要な情報を詰め込む形になりがちです。これまでも弊社はこれらを必要最小限にとどめる工夫や音声読み上げに対応する文章構成、ユニバーサルデザインを意識して運営をしてまいりました。

しかし、Web初心者の方、極度の色弱の方や老眼が進んでいらっしゃる方、インターネットショッピングの注文の方法がわからない方、操作の途中で行き詰まってしまわれる方々に対しては、必ずしも有効ではありませんでした。

そこでサーバー更新を機に何ができるかを考えました。その結果、文字の拡大、音声読み上げソフトに加え「かんたんヘルプデスク」のサービスで、インターネット上で、音声とチャットにより、お客様のパソコンを共有してサポートするシステムが必要であると考えました。

それが「人にやさしいWebコンシェルジュサービス」の始まりです。

サービスの内容

まず「拡大・読み上げアシスタント」です。導入したソフトはZoom Sightですが、これは先ほど申し上げた視力の弱い方、色の識別の苦手な方がHPをより利用しやすくするためのツールです。しかし300%に拡大するとぼやけるなど、ユーザーの画面解像度の事情もあって画面依存の難しい問題が残っています。

次に「かんたんヘルプデスク」です。導入したソフトはWeb Arrowです。リクエストのあったお客様のパソコンとブラウザを共有して、トラブル発生の原因や解決方法を音声のみならずチャットで的確にアドバイスできるシステムです。

電話ではなかなか伝えられない問題点を瞬時に視覚的に認識ができるため、対応時間は短くなりかつ顧客サービスも質的に改善できたのではと考えております。

また、「アドレス帳への登録の代行」はスタート以来続けていて定評のあるサービスですが、お客様の要望に応じてお手持ちの住所録を事前に登録しておくというものです。

このサービスをはじめ、Webコンシェルジュサービスはお買い物のコンサルタントとして目的に応じたお品選びのアドバイス、のしの選択、インターネットショッピング操作の補助などおよそ店頭での対面販売に匹敵するほどのご案内が可能となりました。

サービス開始にあたって
特に留意した点

インターネットはお中元やお歳暮期のギフト需要が高まる時期にアクセスが増加し、ご注文が増えてまいります。それに伴いコールセンターへ多数のお問い合わせをいただきますが、お客様がパソコンに不慣れな場合、電話だけでは使っておられるパソコンの環境すら不明で、対処に困るケースが続出します。

このようなお客様を何とかしたい。バリアフリーでお買い物を楽しんでいただける「快適な店舗環境づくり」をめざしたい。できるだけたくさんの方に楽しくインターネットをご利用いただきたい。このためパソコンの性能はWindows98以上でIE5.0あれば利用できることが前提でした。

結果的にWeb Arrowは、ブラウザがIE4.0以上あればおそらく有効ですし、Zoom SightもIE5.0程度で可能です。

サービスの利用状況

導入して2か月ほどですので、「かんたんヘルプデスク」のサービスはまだ十分認知されていないようです。関係者のお問い合わせやテストはとても多いのですが、実需のご利用は少数にとどまっています。

しかし、アクセス数は驚くほど多いので関心を寄せられている方はたくさんいらっしゃるようです。徐々にご利用いただければと思っています。

今後の課題

お客様に便利に楽しくお使いいただけるようになるには、一般的に「わかりやすい情報ページ」「容易な会員登録」「おいしい商品ページ」「理解しやすい注文完了までのステップ」ということになるかと思います。視覚的にかつ文章的にも訴えていかにもおいしそうに商品を表現、演出することが一般的ですが、音声でこれを表現するとするとなると、どの点に注意を払うべきか? とても難しい課題です。

「人にやさしいWebコンシェルジュサービス」に加え、現在制作中の「ご注文7つのステップ」は、全盲の方からわかりやすいという評価を頂戴できるようなステップの構築をめざしています。

HPやショッピングページでは多くの画像を使用いたしますが、必ずオルトテキストが貼り付けてあることなどWebアクセシビリティを強く認識するため、制作関係者向けの「松坂屋 ホームページ制作の指針」が2004年から準備され活用されています。

なぜ、画像がそこにあるのか?その役割をわかりやすくページ編集する必要があります。弱視の方、全盲の方が当社のサイトを実際にご覧になって「おいしい商品ページ」をどのように感じるか、いかに改善すべきかをアドバイスいただければ安心です。このため、数年来の心強い応援団、社会福祉法人名古屋ライトハウスの方々のご協力をいただきながら、サイトの一層のアクセシビリティ向上に取り組んでまいりたいと考えております。

今後もサービスをさらによいものにしていくために、お客様の声に真摯に応えていきたいと考えます。先行者がいればぜひ耳を傾け、真似ができれば真似をすることで改善が進めば結構と考えています。また、制作グループの意識向上、スキルアップにも挑戦すべき課題があります。とにかくアイデアがあればすぐにも検討していく所存です。松坂屋のキャッチフレーズである「生活と文化を結ぶマツザカヤ」がインターネット上でも実現できるように全力で取り組んでまいりたいと考えております。

(てらさわよしくに 株式会社松坂屋営業部統括本部eビジネス推進部長)