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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年2月号

ITを使った取り組み

テレビ機能付き携帯電話を利用した
視覚障害者への遠隔支援(福祉テレサポート)

雷坂浩之

1 テレサポートとは…

テレサポートとは、telephonとtelevisionのteleにsupportを加えた造語であり、視覚障害者が持つテレビ機能付きの携帯電話(以下、FOMA端末とする)のカメラで、目前にある種々の事物・事象を画像として晴眼者のサポーターに送信し、同様のFOMA端末を持つサポーターが受信した画像を解析し、その画像から得られる情報をリアルタイムに視覚障害者側に音声でフィードバックし、視覚障害者の眼の代替として要望する情報を伝達するというシステムです。

たとえば、これから結婚式に出席する予定の男性視覚障害者ユーザーがいるとします。礼服に着替えて、いざネクタイを結ぼうとしましたが、どのネクタイが白なのか分からない場面に直面しました。そんな時にこのシステムを利用します。

さて、この場面での視覚障害者の方を仮にAさんとしましょう。以下に、Aさんとサポーターとのやりとりを紹介します。Aさんは、手持ちのFOMA端末でサポーターに電話をかけます。

Aさん:「白のネクタイを探しているのですが教えてください」

サポーター:「はい、わかりました。では、お持ちのネクタイをテーブルの上に並べてください」

Aさん:「全部で4本です。これからカメラを向けます」

サポーター:「はい、ネクタイが見えました。順番に説明しますね。1番左は黒です。これはお葬式用ですね。2番目は赤と青のストライプです。あと2本は見えませんので、もう少しカメラを右に動かしてください」

Aさん:「右ですね。カメラを動かしますよ。白のネクタイが写っていますか」

サポーター:「ああ、ありました。3番目が白のネクタイです。見つかってよかったですね。ワイシャツや靴下も確認しましょうか」

Aさん:「そちらは大丈夫です。これで安心して結婚式に出席できます。ありがとうございました」

サポーター:「お役に立ててうれしいです。気をつけてお出かけください」

これがテレサポートです。

2 テレサポート・コールセンター

テレサポートの研究は、NTTドコモがFOMA端末の初代機を発売した平成13年10月に開始され、視覚障害者の生活支援に対する有効性の検証を中心とした2年間の実証実験を経て、平成16年4月20日、車両競技公益資金記念財団(※1)の建物内にコールセンターを開設しました。

当初、コールセンターには国際学生ボランティア協会(※2)の5人の学生と同協会事務局員1人が交代で常駐することとし、視覚障害者ユーザーからの依頼に随時対応できるようにしました。ただし、コールセンター自体が試験的運用であることから、サポート日を火・水・木曜日の週3日間と、運営時間は午前10時から午後5時までの7時間でした。

同年9月に待望のFOMAらくらくホンが発売されたことにより、今後ユーザーの多くが同端末を利用することが予想されたため、コールセンターにも同端末を配置しました。また、通信環境が悪い地域に居住するユーザーへの対応として、メール添付の静止画から得られる情報を音声で返答するというサポートも開始しました。

12月からは脊髄損傷者協会の事務局員および脊髄損傷当事者をサポーターに組み込み、在宅でのサポート研究を開始しました。その後、平成17年1月までの利用実態やユーザーからの要望に応えるために、運営時間を火・水・木曜日の3日間とも午後1時から8時までの間に変更しました。脊髄損傷者の在宅コールセンターの運営時間は、コールセンターを補填する月曜日と金曜日の午後5時から11時とし、これによりコールセンターは平日のすべての曜日におけるサポートを可能にしました。

3 コールセンター利用状況

(1)月別利用件数は表1のとおり、コールセンター開設後1年間の総運営日数は136日、平成17年3月までの利用件数は181件に上りました。6~7月の利用件数の伸びは、この時期点字毎日新聞にコールセンター開設の記事が掲載されたことで、ユーザー登録者数が一時的に増大したことによります。

表1 月別利用件数

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 計/平均
件数 17 18 33 15 19 14 24 16 181(件)
日数 10 14 13 13 13 10 11 10 11 12 15 136(日)

また、9月以降12月までの間、利用件数が若干上昇した背景には、テレビ電話対応の新規端末「FOMAらくらくホン」が発売されたことがあると思われます。しかし、年間を通じてのコールセンターの平均利用件数は1か月当たり15件、運営日1日あたり約1.3件にすぎず、活発に利用されたとは決して言えません。

(2)サポート内容別件数

表2は、サポート内容別件数です。文字の読み取りに関するサポート依頼が全体の6割を占めています。また、11月以降電波状態の悪い地域のユーザーを対象として、メール添付の静止画像によるサポート実験を開始したことにより、映・画像に対する解説サポートの件数が上昇しました。この二つの内容で全体の約8割を占め、次いで移動支援や買い物支援、交通利用支援などの順になっています。

ちなみに、外出時の利用が中心となる誘導支援は、ユーザーが静止した状態でのみサポートすることを原則としています。

(3)文字読み取りサポート内容比率

最も依頼の多かった文字の読み取りサポートの内容は、表3のとおりです。郵便物の宛名や差出人の確認などは、視覚障害者の場合には日常的に困難を感じているものであるため、当然のごとく依頼が集中しているのがわかります。次に多い、袋・パッケージの読み取りは、薬箱等に記された用法・食料品の調理方法や賞味期限に関する情報等の確認などで利用されています。資料・メモ文章などは、子どもが学校から持ち帰ったお知らせ、回覧板などの読み取りに利用されている例が多いようです。

新聞記事などの時事情報は、ユーザー自身がインターネットを通じて音声で確認できるため、あえてテレサポートを利用するケースはあまりありません。同様に、カード情報や通帳の残高確認などのプライバシーに関連する依頼も少ない傾向にあります。

4 コールセンターの利用方法について

コールセンターを利用するうえでの登録料などは一切無料です。ただし、サポートを受けるために生じる通信費はすべてユーザーの自己負担になります。体験会等での参加者からは、通信費が高額であることが利用の妨げとなっているという声を聞きます。しかし、障害をもつ携帯電話の利用者は、端末契約料や通信費が一般の利用者よりも優遇されています。

また、各種データの示すとおり、現状のコールセンターはまだまだ余力を持て余しているのが実情です。よって、この福祉テレサポート・コールセンターの存在や意義をたくさんの視覚障害者の方々に知ってもらい、ご活用いただければと思っています。

最後に、コールセンターのご利用までの手続き等をご紹介します。

  1. 福祉テレサポート事務局に、電話かメールにて「登録書」を請求し、その「登録書」とともに、「誓約書」や「身体障害者手帳の写」を提出します。
  2. 前記の書類が整えば、ユーザー登録の完了です。その後は、事務局からコールセンターの電話番号、サポートスタッフのシフト表などが通知され、即日から利用が可能となります。
  3. テレサポートを通じてサポーターが知り得た個人情報を第三者に開示・公表することはありません。
  4. さまざまなテレサポートの活用方法は、福祉テレサポートのホームページで紹介しています。
  5. 申し込み・お問い合わせ先
    ○福祉テレサポート事務局
    〒112―0012 東京都文京区大塚3―29―1
    筑波大学特別支援教育研究センター内
    雷坂浩之
    URL http://tele-support.net
    Eメール info@tele-support.net
    TEL 090―1884―9805

(※1)財団法人 車両競技公益資金記念財団
URL http://www.vecof.or.jp/

(※2)NPO法人 国際ボランティア学生協会
URL http://www.ivusa.com/

(らいさかひろゆき 筑波大学特別支援教育研究センター、福祉テレサポート事務局)