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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年2月号

新たな課題と提案

ホームページのアクセシビリティを中心に

杉田正幸

はじめに

視覚障害者の「情報取得」でインターネットが占める割合が急激に増える中で、ホームページが視覚障害者に利用できないケースも増えている。そこで2004年6月20日、ウェブ・アクセシビリティを規定した日本工業規格(JIS)「JIS X 8341―3 高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第3部:ウェブコンテンツ」が公布された1) 2) 3)。この中では、高齢者や障害者がホームページの利用が可能なように、企画、設計、開発、保守および運用のすべての工程において配慮すべき事項を規定している。特に自治体サイトなどの公的機関では、だれもがアクセス可能なホームページの作成が求められるようになった。しかし、多くの自治体では職員や開発企業のウェブ・アクセシビリティに関する認識のなさが原因で、障害者にアクセスしにくいページが多い。ここでは国の意見募集を視覚障害者が読めない事例から、視覚障害者への情報提供について考える。

国の意見募集で見えてきた問題

「障害者自立支援法」は今年4月に施行されるが、一般に意見募集(パブリックコメント)が昨年11月から12月に2回に分けてインターネットを使って行われた。総務省管理のホームページ「e―Gov」にこの情報が掲載された1回目の意見募集は、視覚障害者に利用困難なPDFや一太郎、パワーポイントの形式で、参考資料は図表も多用していた。

私は早速、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課に次の3点を中心に、具体的な方法を含めて改善をメールで申し入れた。

(1)ほとんどの視覚障害者はPDFへのアクセスが困難、HTMLやテキスト形式での情報提供が必要
(2)画像で作られたPDFは読むことが困難、テキスト抽出可能なPDFでの情報提供が必要
(3)パソコン利用の難しい視覚障害者のために点字や録音、拡大文字での情報提供と意見募集が必要

さらに、「e―Gov」を管理する総務省行政管理局には、HTMLでの情報提供やアクセスしやすい情報提供基準の省内での遵守、各省への徹底した指導を要望した。

これに対して、厚生労働省は、総務省の「e―Gov」側のシステム上の問題と説明したうえで、日本IBMの「らくらくウェブ散策」への対応をすると回答があったが、このシステムは弱視者や高齢者がマウスで読み上げたい場所をクリックするとその場所を読み上げるもので、全盲者には全く使うことのできないシステムである。一方、総務省は「e―Gov」上にはHTMLもテキストも掲載可能と回答。各府省がe―Govにデータ登録したものをそのまま提供しているとのことで、厚生労働省との見解が異なった。その後、厚生労働省のホームページと総務省が管理する「e―Gov」に募集期限ぎりぎりになって、視覚障害者がスクリーン・リーダーや音声ブラウザでも利用可能なHTML版の掲載が実現した。

また、2回目の意見募集ではスクリーン・リーダーでは読み上げ困難なワードのルビ付きのファイルのみが掲載され、これも視覚障害者には読めないことを指摘した後に改善が図られた。

この問題は非常に大きな問題と感じている。一つは情報提供をホームページだけで行うこと、もう一つは視覚障害者が読める形式での情報提供ができていないこと、そして、その件に関して全く国が、特に「障害者自立支援法」という重要な意見募集をしている厚生労働省が理解していないことである。視覚障害者団体はこういうことに気がついておらず、視覚障害者個人の指摘で初めて明らかになったことで、これらは問題と言わざるを得ない。

その後も、大阪府が障害者自立支援法の説明会のお知らせをルビ付きワードのみでホームページ上に掲載し、しかも説明会資料をPDF形式のみで提供していること、厚生労働省が診療報酬改定に関する意見募集で同じくPDF形式のみで情報提供していることが分かった。

国や地方自治体がJISを率先して破ることは決して行ってはいけないことであり、ウェブアクセシビリティのJISが規定されて1年、今後このようなことが繰り返されないよう、総務省を中心に国の情報提供の基準をしっかり考えてもらいたいと思う。

おわりに

最近では視覚障害者用の各種ソフトが開発されているが、視覚障害者がパソコンを習得する環境やホームページの利用のしにくさから、メールはできてもホームページの活用ができない視覚障害者が多くいるのが現状である。特に情報が得られにくい地方の視覚障害者は周囲にサポートをしてくれる人がおらず、さらに高齢者や盲ろう者、肢体障害を併用する視覚障害者などでは、情報格差が広がっている。国が積極的に障害者に利用可能な情報提供をするのはもちろんのこと、地方自治体や企業にもそれらを遵守するよう、指導していくことが重要である。新たな技術革新が障害者を排除することのない社会になるよう、今後とも視覚障害者が社会に訴えていくことも重要である。

(すぎたまさゆき 大阪府立中央図書館)

注・参考文献

1)日本規格協会編『高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス―第3部:ウェブコンテンツ JIS X 8341-3 2004』日本規格協会 2004.6

2)アライド・ブレインズ編『WebアクセシビリティJIS規格完全ガイド 自治体・公共機関・企業のためのバリアフリーなWebサイトの作り方』日経BP社 2004.7

3)杉田正幸「図書館ホームページにおけるウェブ・アクセシビリティ」『図書館雑誌』VOL.99 NO.2、日本図書館協会、2005年2月、p.92―95