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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年2月号

1000字提言

障害者リハビリテーションとアサーティブ・トレーニング

西政宏

読者の皆さんは「アサーティブ・トレーニング」という言葉をご存知だろうか。周囲の人と、継続可能な、より良い関係を築くためのコミュニケーション訓練の一つである。日頃意識しない自分の価値に気付き、気持ちの面で相手と対等な関係に立ち、自分が伝えたいことを冷静に過不足なく伝え、率直に話ができるようになることが目的である。「継続可能な関係」と書いたが、自分だけが我慢をしたり、反対に自分の要求ばかり主張していても、相手から敬遠されるようになるかもしれない。また、「冷静に伝える」と書いたが、感情を表さない訳ではない。相手とのやり取りの中で自分がどんな気持ちになったかを、言葉とボディ・ランゲージを使って伝えるのである。

具体的なイメージを持っていただくために、セミナーの基礎編の様子について、少し詳しく紹介したい。20人くらいの全体セッションと、3~4人で1グループを作って活動するロールプレー・セッションからなる。ロールプレー・セッションでは、依頼や断りの実習をする。どちらも、ごく日常的な営みでありながら多くの人が難しいと感じることではないだろうか。まずグループ内で、どんな依頼や断りをどんなタイプの相手に向かって行うための練習か場面を設定する。そして、依頼(断り)役の人とそれを受ける人、それ以外の人が観察者となる。一度ロールプレーが終わるとグループ内で振り返りの時間を設ける。振り返るに当たって、二つのルールがある。一つは、悪かった点からではなく必ず、良かった点から先に言うこと、もう一つは、改善したほうがよい点を言う時に、「こんな言葉に置き換えたほうがいい」とか「表情やジェスチャーをこのように変えたほうがもっと自然に気持ちが伝わる」など、具体的なアドバイスを必ず付けることである。このルールがあるので、ロールプレーがうまくできなくても失敗にばかり目が向かずに済むのに加え、そのアドバイスを生かして、もっと相手に伝わるコミュニケーションを練習してみようという気になる。

自尊感情の回復とロールプレーという二本柱のこの手法を、障害者のリハビリテーションにも活用できないだろうか。就労、歩行、社会啓発の各分野で、障害当事者が周囲へ積極的に働き掛けることの重要性が言われるが、それができない障害者は取り残されがちというのが現状のように思う。これでは、周囲との関係の取り方を早期に学べなかった人は「なぜ自分は人との関わりが下手なのだろう?」と悶々とした毎日を暮らすことになる。それよりも、グループの仲間とともに成長する喜びを感じながら、練習を積み重ねるごとに確実にスキルアップできるシステムがほしいと強く願っているところである。

(にしまさひろ 福岡県立福岡高等盲学校(英語科)教諭)