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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年2月号

わがまちの障害者計画 千葉県我孫子市

我孫子市長 福嶋浩彦氏に聞く
市民もサービスの担い手に、官民協働のまちづくり

聞き手:三澤了
(DPI日本会議、本誌編集同人)


千葉県我孫子市基礎データ

◆人口:132,797人(平成18年1月1日現在)
◆面積:43.19平方キロメートル
◆障害者の状況:(平成17年12月31日)
身体障害者手帳保有者 2,645人
(知的障害)療育手帳保有者 526人
精神障害者保健福祉手帳保有者 279人
◆我孫子市の概況:
千葉県北西部に位置し、利根川と手賀沼にはさまれた海抜約20mのなだらかな台地が、東西に約14km、南北に約4~6kmにわたって広がり、南東部の手賀沼沿いと北西部の利根川沿いは、平らな水田となっている。東南は印西市、西は手賀沼をはさんで柏市、北東は利根川をはさんで茨城県取手市、利根町と隣接している。昭和45年7月に市制施行、平成17年に市制35周年を迎えた。豊かな水と緑に恵まれ、都心から約40km、常磐線で35分の近距離にあることから、首都圏へ向かう住宅地としての役割が大きくなっている。
◆問い合わせ:
我孫子市保健福祉部生活支援課
〒270-1192 我孫子市我孫子1858
TEL 04-7185-1111(代) FAX 04-7183-1158

▼我孫子市の障害者施策で特に力を入れていることはどのようなことでしょうか。

我孫子市の特長も含めてお話しますと、我孫子市は市民活動が活発なまちです。市のシンボルである手賀沼は、2000年まで27年間、全国の湖沼の中で水質ワースト1を続けてきました。そのため、水質浄化の市民運動がとても活発に行われ、やがて福祉も含めていろいろな分野に市民活動が広がっていった歴史があります。

障害者分野でまず言えるのは、日中活動の場が充実していることです。現在、福祉作業所は民間8か所と公設民営が1か所あります。他に授産施設が2か所。これらはいずれも市民が育てた施設です。作業所や授産施設では、野菜の生産やパンの製造・販売、公園の清掃、パソコンの仕事、喫茶店などさまざまな活動を行っています。仕事の内容がバラエティに富んでいるので、障害をもつ人はその中から自分に合ったもの、やりたいものを探して実現できるようになっています。また、一般就労にチャレンジする拠点にもなります。

▼我孫子市はガイドヘルプなどの移動支援は、他の自治体に先駆けて取り組んでいらっしゃるとうかがいました。

以前から視覚障害者のガイドヘルプを市民の活動と連携して厚い体制で行っていました。支援費制度が始まる2年ほど前には、知的障害や全身性障害の方にもガイドヘルプを広げました。その時には、ガイドヘルパー養成のテキストを市の職員が自前で作り、養成講座を企画しました。支援費制度になった時にスムーズに移行できたのも、それまでのガイドヘルパー養成が功を奏したと思っています。支援費制度が始まった時、外出支援は他の市と比べてダントツに利用量が増えました。

先ほどお話した作業所をはじめ、これだけ市民活動が広がってきたのはもちろん市民の皆さんの力ですが、行政も積極的に応援してきました。作業所が増えたのも、県の補助制度に加えて、市独自の上乗せをして立ち上げやすい環境を作ってきたことがあります。自立支援法の中でも、これらをベースに発展させていきたいと思っています。

▼もう一つ、生活の場の問題があります。親の立場からすると公立の施設で安心して暮らすことを望んでいるかもしれませんが、地域の中に生活の場をきちんと作っていくことがこれからの大きな課題だと思います。我孫子市ではグループホームの方向性が打ち出されていますが。

まず、親や本人が本当に求めるものは何だろうか、一緒に議論して希望する中身を具体的にイメージする作業から始めました。その実現には、入所施設がいいのか、グループホームがいいのかをさらに議論して、今はグループホームを中心に整備していこうという合意ができました。高齢者分野の法人も障害者サービスのホームヘルプやショートステイ、特区制度を利用したデイサービスを実施していて、さらに現在、新しいグループホームやケアホームを計画しているところです。

ただ、自立支援法は次のステップとして、介護保険との共通化を意識していると思います。私は共通化できるところは共通化したほうがいいと思うのですが、グループホームに関しては、高齢者と障害者のグループホームは性格が全然違うわけです。障害者のグループホームは「住まい」であり、そこから社会に出て行きますが、高齢者のグループホームはミニ施設という性格が強く、日常的に地域社会に出て行くということはありません。ですから、障害者のグループホームと共通化することによって高齢者のグループホームを本来の「住まい」、社会参加していける場となるように変えていかなければならないと思っています。ところが自立支援法を見ていると、逆に障害者のグループホームを高齢者のグループホームに近づけるような議論が見られるのが、非常に気になります。

▼まったくその通りですね。私たち当事者は、グループホームで地域とかかわりを持って生活したいと考えています。また我孫子市では、療育の問題に力を入れているとうかがいました。療育と教育がスムーズに移行しないのはどの地域でも課題になっていますが、我孫子市ではどのような取り組みをされているのでしょうか。

我孫子市では、乳幼児期から学齢期の地域療育システムに特に力を入れています。こども発達センターと保育園が連携して、どんな障害があっても、原則的に小学校に入学するまでにはすべての子に統合保育を、という大方針で行っています。ですから、保育園は障害をもつ子の場合、「保育に欠ける」という入園基準を満たしていなくとも受け入れます。

こども発達センターの心理のスタッフが中心となって保育園との信頼関係を作ってきましたが、学校に行くとそれまでの関係が切れてしまうことがありました。

そこで2年前から、福祉分野の心理のスタッフを教育委員会の教育研究所に送り、アドバイザーとして各学校を回ったり相談を受けたりする体制にしました。ニーズが多く、とても喜ばれました。同時にもっと増やしてほしいという要望があります。そういう中で、教育研究所の特別支援教育部門とこども発達センターとの連携を組織的にもより強めていくことにしています。具体的には、それぞれに配置している心理相談員を統合して垣根をなくし、学齢期になっても同じスタッフが関われるようなシステムを検討しているところです。今年4月から開始の予定です。

普通学校に行った場合、普通学級でも特別支援学級でも、介助員が必要な場合は必ずつけることにしています。これは最低限の体制としてやっています。

▼卒業後の就労支援についてうかがいます。一般就労にも力を入れているのでしょうか。

市は昨年から就労支援の一つとして、無料の職業紹介窓口を設置しました。市民会館の中にあります。対象は、障害をもつ人とひとり親の特に母子家庭、それからニートと言われる若年層の人たちです。何千ものデータがあって、ということではありませんが、ていねいに一人ひとりと関わりながら、就労先を掘り起こし、相談に来た人の条件に合うように、求人の条件を変えてもらったりして、就労に結びつけています。まだ始まったばかりで窓口での実績は多くありませんが、今後充実させていきます。

さらに新年度には、市で初めて知的障害と精神障害の人を1人ずつ嘱託職員として採用します。身体障害の人はすでに活躍してもらっています。

▼今年の4月から自立支援法が施行されます。現在、自治体ではその準備でたいへんだと思います。現在の準備状況についてお話いただけますか。

自立支援法では、特に利用者の負担が気がかりです。市独自の取り組みとして、支援費の時は原則として本人所得を基準にしました。範囲を広げても配偶者と、未成年の場合の子と親の関係までです。ガイドヘルパー事業でも、本人の所得を基準にやってきました。ですから、自立支援法でも本人の自立の妨げとならないよう基本的に同じ考え方で、市独自の方法を考えています。

▼審査会の持つ意味は非常に大きくなってきます。そこに障害をもつ人たちの状況がよく分かる人や直接サービスを提供している当事者の人、相談事業を行っている経験のある人など、利用者の声を的確に伝えられる人が審査会に入るといいと思います。我孫子市の状況はいかがですか。

三澤さんがおっしゃるように、できれば障害をもつ人自身に参加してもらうのが一番いいと思っています。ただ、医師や専門家なども入りかなり専門的な議論になるでしょうから、知識があって、専門的な議論に加われる障害者の方を何とか確保できないかなと考えています。

▼それから、国の基準はまだきちんと出されていませんが、我孫子市では長時間サービスの必要な人たちへの対応をどのように考えておられますか。

国の基準と、実際に必要とされる量を見てから具体的に議論をしたいと思っています。介護保険では、居宅サービスが上限をオーバーすると全額自己負担となってしまいます。そこで我孫子市では、上限の3割増の上乗せ分までは、市が5割負担すると決めました。自立支援法でも同じような発想がありうると思います。少なくとも支援費制度での水準は自立支援法の中でも確保したいと思っています。

▼ぜひそれはお願いしたいと思います。最後に、まちづくりに関して、今後の方針をお聞かせください。

これから2007年問題として、団塊の世代がリタイアします。我孫子市は東京のベッドタウンで団塊の世代のみなさんが多く住んでいます。住宅都市で個人住民税が収入の中心ですから、市の財政構造が変わってきます。そのような中でさらに多様な公共サービスを提供するには、行政だけがサービスを提供するのではなく、コミュニティの中で市民自身が担っていくことが今まで以上に重要になってきます。団塊の世代の皆さんにいかに地域の担い手になってもらえるか、その仕組みづくりに取り組んでいます。福祉の分野もそうです。障害をもっている人もサービスを受ける側であると同時に支える側になってほしいし、その活躍を応援したいと思います。今まで以上に市民との連携を強めていきたいと思っています。

▼我孫子市が先頭を切って障害者も一人の市民として、担い手として地域で力を発揮できる、そういう道筋を太く作ってほしいと思います。本日はありがとうございました。