音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年4月号

多様なニーズにこたえる就労支援システムを

宮武秀信

この間の構造改革、規制緩和等の社会状況の変化の中で、国の障害者雇用施策、受け入れ側の企業意識など知的障害者を取り巻く雇用環境も大きく変わってきています。その変化の中でこれまで困難であった知的障害者の「働きたい」をどう実現するのか、すきっぷという通所授産施設における就労支援の取り組みから紹介します。

1 就労支援の流れ

すきっぷは平成10年に世田谷区(東京)が知的障害者の就労促進を目的に開設しました。就労支援機能を併せ持つ通所授産施設で、定員40人、2年間(1年延長可能)の利用期限があります。また、外来での就労支援も行っています。開設からの就職者数は延べ167人(平成18年3月現在)にのぼり、就職率は92%です。ちなみに昨年度はこれまでに最も多い39人が就職しました。これまでの就職先の職種としては事務(24%)、清掃(21%)、店舗・バックヤード(17%)、調理・食品(15%)、検品・包装(7%)などとなっています。また昨年は東大での初の知的障害者雇用が実現し、教育という新しい分野に進出ができました。

すきっぷの就労支援のシステムは■図1■の通りです。基本的には評価→訓練→実習→支援という流れになっています。しかし、一律ではなくあくまで個々の利用者の必要に応じてシステムの中身を活用するというコンセプトで、それが、就職までの利用期間の違いという形になってあらわれています(■図2■)。

個別支援計画:個別支援計画については「目標による管理(MOB)」の手法を導入しています。授産作業はクリーニングと印刷を行っていますが、作業評価を中心に4か月ごとの個別支援会議で達成度評価を行い、それを踏まえ次の目標設定を行っています。会議には本人、家族、保健福祉センターの担当職員、必要に応じてハローワーク職員などが参加し、目標達成に向けた支援者の役割分担も行います。就職に向けた課題を明確にするための評価項目は39項目にのぼります。4段階評価(4が高く、1が低い)ですが、たとえば作業能力の「正確性」「判別能力」「修正能力」などの一連の評価項目で、その結果が正確性が「2」で、判別能力が「4」ということはありません。正確性が低ければ判別能力、修正能力も低くなるはずです。従って評価「2」「1」の項目が改善課題となり、本人にとってもわかりやすい評価方法のようです。また評価が工賃にはね返る仕組みになっています。

体験実習:授産作業を3~6か月経験したのち、協力事業所での2、3週間の体験実習を実施します。さまざまな職種、難易度の異なる協力事業所を確保していますので、適性や実際の働く力を把握することができます。実習を通して明らかになった課題をフィードバックし改善を図ります。

生活活動:毎週水曜日の午前は生活活動(SST/社会生活技能訓練)として5単元に分かれ、社会人として必要なマナー、知識などについてグループに分かれて学習します。社会で生活する力を技能(スキル)としてトレーニングする点に特徴があり、高い効果がみられます。障害についての自己理解、ピアカウンセリングなども重要な支援プログラムの一つです。

これらを総合的に「職業準備訓練」としてとらえています。その後、就労を前提とした実習段階に移り、必要に応じてジョブコーチ支援を実施します。

2 入所者状況

入所者の状況を見ますと、50%が新卒者、25%が離職・在宅者となっています。障害程度は軽度6割、中度4割で、最近は特に自閉症、その他LDなど軽度発達障害といわれる利用者が増えています。普通教育を受け、一般で企業に就職し、うまく適応できずに離職というケースが知的障害の手帳を取得し入所してきます。新卒での入所者は卒業の時点で就職が難しかった人たちで、それぞれに就労に向けた課題を有しています。

すきっぷではクリーニング、印刷など工場と同じような機械設備、環境で作業していますが、特に自閉的な傾向があり、物事に対する強いこだわり、興奮、自傷などがある利用者は日々の労働の規律、規則正しい労働のリズムなどが情緒の安定を生み出す効果があるようで、半年ほどで激しい行動も改善されています。

3 ジョブコーチ支援とネットワーク

就労支援システムをうまく機能させるためにはマンパワーが必要です。40人の利用者に対して授産、就労支援で10人の支援員が配置されています。2つの作業班に5人ずつ支援員を配置し、1人の支援員が4人の利用者を担当し、就職・就労継続支援(アフターケア)まで行います。ですから、全員が授産の支援員であり、ジョブコーチです。

ジョブコーチは知的障害者にとって有効な支援の手法であるといえますが、全員がマンツーマンの支援が必要ということではありません。仕事のやり方などはOJTで職場の人が教えてくれるのが普通ですし、またそれが安全で効率が良いやり方でもあります。ただ、本人の障害特性に合わせた作業手順や補助具の工夫、自閉的傾向が強い場合は主に周りとのコミュニケーションでの支援などが必要です。また大手企業での特に事務系職種での雇用を実現するために、一種のアウトソーシングともいえますが、仕事の切り出しを行い、新たな仕事をつくり出すこともジョブコーチの重要な仕事です。

就職者の増加は必然的にアフターケアの増大を意味します。就労生活を支える生活支援、地域ぐるみのネットワークが必要です。世田谷区では商工会議所をはじめとした地域の団体、機関が集まり就労促進協議会が発足し活動していますが、今年度は区の新規事業として就労障害者の活動、交流の拠点が建設される予定になっていますので、地域支援のまた新たな進展が期待されます。

4 雇用の拡大に向けて

知的障害者の雇用の義務化以来、知的障害者の雇用は確実に進んでいます。その背景として、国の雇用率達成に対する企業への指導強化、就業・生活支援センター、トライアル雇用など知的障害、精神障害向けの施策の創設、社会的責任、法令順守(コンプライアンス)など企業意識・環境の変化、雇用形態の変化・非常用雇用の増大などがあげられます。また厚労省、総務省での知的障害の実習受け入れ、郵政公社による中央郵便局での雇用、東京ではハローワークでの雇用が実現するなど、官公庁、公的機関での知的障害者雇用の重い扉もようやく開き始めました。今後はさらに自治体、身近な市町村での雇用を期待するところです。地域で暮らすことは地域で働くこと、でもあるからです。

(みやたけひでのぶ 世田谷区立知的障害者就労支援センターすきっぷ施設長)