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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年4月号

日本マクドナルド社における障害者雇用の取り組み

まとめ 編集部

現在の障害者雇用の状況

現在、日本マクドナルド社で常用雇用として働いている障害のある人たちは、281人です。そのうち270人が全国の店舗で働く知的障害のある方々です。

他に正確なデータはありませんが、各店舗で働いている「クルー」と呼ばれるアルバイトの中にも障害のある方はいます。これは店舗の裁量で採用するので270人の中には入っていません。その方たちを含めるとかなりの数の障害のある人たちが働いていると思われます。

今回は、店舗で働く知的障害のある方々の雇用を中心にご紹介します。

障害者雇用の考え方とこれまでの経緯

当社が障害者雇用に取り組み始めたのは、80年代前半です。当時、小売り・飲食業では、障害者雇用は危険度も大きく難しいとされ、当時の当社の障害者雇用率も0.3%ほどで、80年代後半に、雇用率が0.8%くらいになりました。その後、障害者雇用促進法が改正されて知的障害者も雇用率にカウントされることになり、93年に店舗で働く「パート準社員」として知的障害のある人の採用をスタートしました。95年には当時の法定雇用率1.6%を達成し、2005年の雇用率は、3.28%まで引き上げることができました。

採用時と採用後の工夫点

当社では、年間の採用計画を作成しています。毎年7月頃に応募から店舗実習、面談、合否判定、そして4月の入社までのスケジュールです。店舗実習は10月~11月に2週間ほど行います。採用するかどうかの判断は、実習評価表に基づいて実習先の店長が行います。実習評価表の項目は「あいさつや返事ができる」「一人で通勤できるか」「返事がきちんとできるか」など基本的なことです。

採用までのスケジュールの中で一番重要と考えているのが、実習後に行う「4者面談」です。本人と私たちと進路担当の先生、親御さんあるいは親御さんの代わりになる関係者で面接を行います。その時に私たちが申し上げるのは、それぞれに役割があるということです。私たちは就労場所を提供して仕事の仕方やチームで働くことを教えることはできますが、その人の生活ぶりについては、進路担当の先生やジョブコーチ、ハローワークの担当者にお願いしています。

本人を中心に企業、進路の先生やジョブコーチ、親御さんといったトライアングルを築くことを取り決めて、それぞれ連携を取りながら行っています(■図■)。このトライアングルの形成は、就労支援のポイントになっています。

採用後、店舗で働く中で彼らを一番サポートしてくれているのは、平日の昼間働いている主婦パートの方々です。実際のトレーナー、パートナーとして、彼らに接してくれています。また、サポーターでありトレーナーでもあるキーパーソンの店長の存在は重要です。製造手順のマニュアルはありますが、一人ひとりに対して、どんなコミュニケーションを取るか、モチベーションを与えるかは、すべて店長の手腕にかかります。必要に応じて、職場と保護者の間で連絡ノートを使って毎日の働きぶりや生活ぶりを連絡しあうことで事前に問題解決を図ることもできます。

試行錯誤を経験して

当初は、障害のある人の雇用に対して、コミュニケーションが取れるのか、失敗はないか、事故はないかと不安が大きかったため、初年度は障害者用のマニュアルを作成しました。コミュニケーションの取り方や作業を教えるときの位置などをマニュアルに従い実際にやってみましたが、結局このマニュアルの使用は1年で中止しました。実際に働く彼らの姿を見て、障害のある人たちが店舗でのオペレーションや調理補助の仕事をきちんとできることが分かったからです。現在は、アルバイト用の共通教育マニュアルを使用しています。

もともと、だれがどこでオペレーションしても提供するものは同じであるというのが当社の考え方です。そのため、だれが作っても同じものができるという点に投資しており、難しい機械もありません。すべての商品の製造過程にDVDがあり、期間限定商品にはできあがりの写真があって、手順書がついています。一つの製品の製造過程は1時間もあれば覚えることができます。

知的障害のある人が手順を覚えることができるのであれば、健常者より時間はかかりますが、同じことを繰り返していくという点で、当社のマニュアルは非常に役立っていると考えています。しかし、この5年間でオペレーションシステムが変わりました。お客様のオーダーを聞いてから作りはじめるシステムで、カウンターで会計とドリンクをそろえている間にできあがるというものです。決められた時間内で製造できる人とできない人がいます。ピークの時間帯を避ければできる人もいます。一人ひとりの能力が違いますので、店舗でのオペレーションや調理補助の仕事のほかに、清掃の仕事や資材の搬入などを担当している人もいます。

広がる障害者理解

障害のある人の雇用は、原則的に1店舗につき1人です。つまり、全国で270店舗の店長が障害者の雇用を経験していることになります。障害のある人の店舗の移動はありませんが、そこで働く店長はだいたい2年で店舗を異動します。延べで言うと、今までに障害のある人を採用して実際にトレーニングをして、コミュニケーションをとっている社員は、1000人以上になります。自らが障害者雇用を経験したということは社員の自信になり、障害のある人のアルバイト採用に生かされます。当社の障害者雇用が促進されているのは、このような社員の経験が産んだ結果と言えます。

今後の課題

これまでの経験を通して分かったことは、修得する時間は異なるかもしれませんが、学ぶことは同じなので障害者も健常者も関係ないということです。このように発言できるようになったのは、障害のある方々が働く姿を通して私たちに教えてくれたからです。

障害者雇用を始めて約12年が経過し、勤続年数がそれくらいの方もいます。この方はカウンターで働いています。障害のある人は生産性が高い人が多く、定着率もいいです。

今後の課題として、生活相談員の育成があげられます。養護学校を卒業後、就職して10年以上経ち、30歳を迎える人もいます。私たちは終身雇用というよりは、その人の働き方を支援していきたいと考えています。マクドナルドで長く働くこともよいと思いますが、マクドナルドで働いたことがきっかけで仕事に対する自信がつき、違う仕事に就いてみたいという方には、それが実現できるよう応援していきたいと考えています。

*2006年、2007年度のパート準社員の採用の予定はございません。

(本稿は、日本マクドナルド株式会社フィールドスタッフィング部統括マネージャーの佐藤博氏にお話をうかがって、編集部でまとめたものです。)