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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年4月号

東京都「障害者地域生活支援・就労促進3か年プラン」の策定

奈良亮

はじめに

障害者自立支援法は、わが国の障害保健福祉施策の改革のグランドデザインを標ぼうして、本年4月に施行されました。この法律は、長年懸案としてきた幾つかの主要課題について明確な方向性を提示しました。

第一に、身体障害や知的障害の分野に比べて、地域生活支援等のための福祉サービスの基盤整備が立ち後れていた精神障害分野を含め、三障害共通のサービスについて身近な市町村において一元的に提供する体制を構築することです。第二に、これまで障害種類別・程度別に編成され、複雑化してきた施設体系を、利用者に提供する支援内容に応じた機能別再編により新たな事業体系に移行させようとするものです(施設の選択から支援プログラムの選択へ)。第三に、新たに法定された就労移行支援事業・就労継続支援事業等や障害者雇用促進法と相まって、障害者の働きたいという意欲や希望に、より積極的に応えていく仕組み作りを推進することです。

こうした施策の方向性の実現に向けて、都は、東京都障害者施策推進協議会の提言を踏まえ、三障害に共通の福祉サービスを区市町村が一元的に提供するためのサービス基盤と、障害者がもっと働ける支援システムを早急に整備するため、第1期障害福祉計画の策定に先立ち、本年1月、平成18年度を初年度とする「障害者地域生活支援・就労促進3か年プラン」を策定しました(■図1■)。

「地域生活支援」プランとしては、すでに、平成15年度の障害者支援費制度の導入に先立つ13年度以降17年度までの二次にわたる緊急プランにより、身体障害と知的障害の分野に係るサービス基盤の整備に重点的に取り組んできました。このたびのプランでは、新たに精神障害及び重症心身障害の分野に係るサービス基盤の整備も計画化し、引き続き施設等の整備に取り組む設置者の負担を半減する特別助成を行います。

さらに、本稿のテーマである「就労促進」の施策について、初めて計画化しました。

「就労促進」プランのねらいと事業内容

東京における障害者雇用状況の大勢を表す都内民間企業の実雇用率(昨年6月1日現在)は、0.05ポイントの大幅アップを遂げて1.40%(雇用者数約9万3千人)となり、都道府県中最下位を免れましたが、雇用率算定の基礎となる常用労働者数が全国の約37%を占めることなどから依然として法定雇用率1.8%には及びません。実雇用率上昇の要因としては、特例子会社の設立の急増(17年11月末現在98社)を背景に1,000人以上の大規模企業の雇用率の上昇(1.54%→1.60%)と、平成10年の雇用促進法改正で雇用義務化された知的障害者の雇用増(対前年増加率15.7%、身体障害者は同4.7%)が挙げられます。

一方、通所授産施設や小規模作業所等で働く障害者も、高齢化、障害の重度化、知的障害養護学校高等部の生徒増加を背景に増加し続けています(平成17年3月の在籍者数:身体授産約1,360人、知的授産約4,360人、精神授産約710人、平成16年度末の設置数:小規模通所授産施設(定員19人以下)155か所、小規模作業所・共同作業所(同)424か所)。

こうした福祉的就労の場を利用している障害者の中には、必要な支援があれば一般就労が十分に可能な方がいらっしゃることが就労支援に関わる方々によって認識されています。また、委託訓練事業やジョブコーチ事業等障害者の企業就労を後押しする仕組みの活用により一般就労に結びついた事例も増えつつあります。

以上のような現状を踏まえ、都は、たとえ障害をもっていても、働くことを通じて、一定の収入を得て自らの生活を設計する、社会の一員として役割を果たしていることに誇りを持つ、お客様が求めているサービス・商品を提供して感謝される、などの実感が得られるよう、障害者の雇用・就労の促進を重要な施策として位置付けています。

「就労促進」プランのねらいとしては、福祉的就労から一般就労への移行促進と、福祉的就労の場の経営改革の推進を掲げています。

まず、福祉的就労から一般就労への移行を促進するため、区市町村障害者就労支援事業を20か所増やし49か所に拡大するとともに、企業内通所授産事業を26か所増やして33か所に拡大します。

区市町村障害者就労支援事業は、平成12年度に都単独事業として開始したものであり、平成17年度は28区市で実施されています(うち2区で障害者就業・生活支援センター事業も実施、ほかに1区で雇用支援センター事業を実施)。

本事業の実施主体は区市町村であり、区市町村職員が直接、支援事業を担う場合のほか、本事業を社会福祉法人・NPO法人に委託するもの、法人格を持たないが就労支援の実績を有する団体に委託するものもあります。

事業目的は、特に知的障害者・精神障害者にとって必要とされる就労面と生活面の支援を一体的に提供することにより、障害者が当たり前に一般就労に就き、就職後も安心して働き続けられるようにすることです。働きたいという意欲を引き出し、実習を通して企業等で働く実感を得ていただく支援、職場開拓を含む就職活動の支援、さらに就職後の職場定着支援と働き続けるための生活支援など多様な支援を提供するこの事業は、支援者の尽力と地域の就労支援ネットワークの活用により、予想以上の成果を上げてきました(■図2■)。

しかしながら、本事業の真骨頂は、就職者の増を図るだけでなく、就職後も本人・家族と事業主等に対して継続的に支援を行う職場定着支援であり、適時適切な支援がないため離職せざるを得ない事態を回避する役割を果たしています。東京の障害者実雇用率が上昇した要因の一つに、各就労支援機関の職場定着支援が有効に働いていたことを挙げたいと思います。

本事業の担い手である支援者は、今、地域の就労支援ネットワークを通じて、福祉的就労の事業者に利用者の一般就労移行を促し、役割分担に基づく協働による就労支援・生活支援に積極的に取り組みつつあります。

次に、企業内通所授産事業は、都道府県地域生活支援事業に位置付けられた「施設外授産事業」に加えて、都独自に法定外の小規模作業所等においても実施できる事業として、平成17年度に開始しました。両事業とも、事業所に同行して、企業との連絡調整や受託した作業の実務指導等を担う指導員の人件費を補助するもので、初年度は、施設外授産を1か所、企業内授産を5か所で実施しました。実施団体からの事業報告によると、これまでの施設内での作業と違い、発注元の事業所等実際の現場に出向いて働くことの誇りと緊張感が就労の意欲を引き出すとともに、一般就労をめざすうえでの自らの課題を理解する好機として捉えることができ、実際に就職に結びついた事例も出ています。とりわけ、都の独自事業を実施する小規模作業所等において、新たな事業体系への移行に際して、就労移行支援事業の選択を促す効果を期待しています。

最後に、福祉的就労の場の経営改革では、小規模作業所・共同作業所等が新たな事業体系に円滑に移行できるよう、法内化のための施設・設備整備費の都単独の助成と、小規模作業所等の自立支援・就労支援機能を強化するための人材育成や職員の資質の向上を図る研修等事業などを、合わせて100か所で実施します。

施設・設備整備費の単独助成は、国庫補助の対象外の整備を対象とし、「地域生活支援」プランの特別助成と同様に設置者の負担割合1/4を1/8に半減するものです。

小規模作業所等の支援機能の強化では、施設職員の人材育成のほか、経営ノウハウや商品開発などの面で支援を提供するコーディネーターの派遣事業や、新たな事業体系への移行に向けたモデル的・先駆的事業や調査研究に取り組む小規模作業所等を支援する事業を都独自に実施します。

これらにより、小規模作業所等が就労移行支援事業や就労継続支援事業に円滑に移行するとともに、経営改革による生産性の向上や消費者に求められる商品・サービスの提供を通じて工賃・賃金をアップさせることをめざします。

おわりに

「障害者地域生活支援・就労促進3か年プラン」は、障害者自立支援法の理念と方向性を実現するための基盤整備の数値目標を明示したものですが、地域生活支援はもとより、雇用促進・就労支援に携わる人材の育成・確保と広域的なネットワークの形成が、今後の都の役割と考えています。

(ならあきら 東京都福祉保健局障害者施策推進部計画課課長補佐)