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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年4月号

わがまちの障害者計画 愛知県高浜市

高浜市長 森貞述氏に聞く
住民の福祉力を高める地域共生のまちづくり

聞き手:戸枝陽基
(NPO法人ふわり理事長)


愛知県高浜市基礎データ

◆面積:13.00平方キロメートル
◆人口:42,362人(平成18年2月1日)
◆障害者の状況(平成18年2月1日)
身体障害者手帳所持者 1,083人
(知的障害)療育手帳所持者 225人
精神障害者保健福祉手帳所持者 99人
◆高浜市の概況:
愛知県のほぼ中央、三河平野の南西部に位置し、南西は知多湾に面する。古くから渡船場とした発達したまち。また「三州瓦」の産地で三州瓦全体のうち60%を高浜市で生産している。近年では、自動車関連産業を中心に発展している。東西4.2キロ、南北5.5キロと市域は狭いが三河部と尾張知多を結ぶ交通の要衝。
◆問い合わせ:
高浜市福祉部福祉課
〒444-1334 愛知県高浜市春日町5-165 高浜市いきいき広場内
TEL:0566-52-9871 FAX:0566-52-7918

▼高浜市の福祉は高齢者福祉の分野で有名ですが、障害者福祉はどうなっていますか。またどのような形で推進していこうとお考えですか。

昨年の8月に行われた市長選において、私自身、初めて揚げたマニフェストの5つの重点項目の一つに「障害者福祉の推進」を上げさせていただきました。

今まで、高齢者福祉に関しては、緊急に対応しないといけない課題という認識があったので、急ぎ足でいろいろな施策や支援を整備してきました。それと同じように、障害者福祉においても体制整備をしっかりしていこうと思っています。その方法として、今後、障害者福祉に限ったことではありませんが、施策や支援を整備していく際に、できる限り住民参加型で行っていく考えでいます。

具体的には、私どもは、平成13年度に地域福祉計画と障害者計画を同時進行で取りかかりました。その際、「168人(ひろば)委員会」という地域ごとのワーキンググループを立ち上げて、それぞれの地域課題を、まさに住民参加型で考えていただきました。

この168人(ひろば)委員会には、7歳から85歳まで、実際には146人の住民がワークショップで自分たちの地域の課題を見つけ出して、グループで議論しながらやってきました。たとえば、子どもたちのグループでは「子ども市民憲章」をつくりました。これは子どもたち自身の言葉をそのまま憲章にして、それに併せて大人がまとめたものを並記しました。

障害者福祉においても、当事者の方々やそのご家族の方が仲間を集って、月1回公民館の調理室を使い、皆でごはんを作って食べるということを始めました。これは障害者ということではなくて、自分たちは地域の一員だという意識で行っていました。続けていくうちに、自分たちの居場所がほしいということから、民家の一部を改造した「みんなの家」へと発展していきました。ここでは障害者の人たちが集まって団らんをしたり、ご飯を作ったり、お試し外泊をしたりということをしています。障害のある人が自立をしていく一つのステップとして親御さんには子離れしてもらい、障害のある人には親離れしてもらうという、移行の場所ともなっています。

また平成18年度からは、親御さんのグループが中心となって、地域の支えのもとで喫茶店とパン工房を始めます。自分たちは地域でどんなことができるのかと知恵を出しあい、障害者の働く場として喫茶店とパン工房になりました。たまたま農協の跡地が使えることになったので、「南部ふれあいプラザ」という名称の小規模多機能施設をNPO法人に運営していただき、その建物に入ります。石窯で焼き上げる天然酵母の本格的なパンを提供します。

▼住民の福祉力をていねいに高める取り組みですね。行政として力を入れていることはありますか。

高浜市では従来より高齢者の問題を切り口に取り組んできましたが、その中で高齢者のデイサービスがかなり重要になると考えて、全国的にも早くから力を入れて増やす運動をしてきました。障害のある方のデイサービスを考えた時に、高浜市は、4万人規模で絶対数が多くありません。そこで障害者の方も高齢者の施設を使えないかと考えました。平成15年に構造改革特区の認証をもらい、障害のある方も使えるようにしました。

実際にやってみて、障害のある方の家族から、「うちの子が、今までは家ではしなかった、ちょっとしたお年寄りへの心遣いができたということがうれしかった」という声を聞いております。地域社会で生活していくうえで、高齢者や障害者、子どもたちが地域共生していく社会をつくっていくことが大事であろうと考え、マニフェストの中に障害者福祉政策の充実を掲げたわけです。

▼お話を伺っていると、行政がお膳立てをして何かをするというより、住民が考え実行するのを行政がコーディネートするというのが、高浜市のやり方のようですね。

私自身、障害者福祉の分野においても、支援費制度の財源が行き詰まる中、国のいろいろな検討委員などをさせていただきました。その議論に参加していて、とにかく、今後の地域福祉は、すべてを国の制度任せにせずに、地域ごとで支え合わないと財政的にも成り立っていかないと強く思いました。自助・共助・公助それぞれがしっかりした自治体にならないといけないと思ったわけです。

高齢者や障害者などを地域で支え、住民として受け入れるようになると、障害者計画や地域福祉計画を策定するときの住民のみなさんの声も大きく変わってきます。自分たちでできることは自分たちでやろうという意思が出てきます。

市民に身の回りの問題点や課題に気づいてもらい、解決策を考えていただいて、実行していただく。その手助けを行政がする。福祉だけに限らずそういう街のありように、変えていきたいという強い思いが私どもにはあります。

そういう意味では、介護保険制度にしろ、障害者自立支援法にしろ、市町村の裁量が増えるということを国から地方に丸投げされたと考えるのではなくて、チャンスだと思うようにしています。10年先を見通しながら、しっかりとやっていきたいと考えています。

行政職員の力も、行政力、地域力、財政力などのバランスをきちんと整理しながら、持続可能な仕組みにしなくてはならないと思います。

▼行政職員が主導権を持つわけでない。一般市民と同じ住民の中のひとりとして考えるということですね。

自分たちの地域の課題は、住んでいる地域住民が一番わかっています。高浜市の人口は4万人強ですので、ある意味、顔がよく見えるということです。障害者・高齢者・子どもという区分けはなく、住民であれば、困っている場合には、とにかく皆で支え合って生きていこうというのが高浜の福祉といえるでしょうか。

「五感で感じる」という言葉がありますが、住民同士がまさに眼で見て、耳で聞いて、肌で触れて、お互いを感じあえる関係性を作れば、足腰の強い、とてもいい関係が作れると思います。そういう関係を行政も一人のメンバーとなって、住民とともに作り上げていきたいのです。

▼高浜市では、三河高浜駅前の総合相談窓口がとても有効に市民福祉のセンターとして動いていますね。これは、今後の介護保険制度の地域包括支援センターや障害者自立支援法の相談支援センターなどにとても影響を与える地域実践だと思いますが

最初のきっかけは、駅前の再開発の時に市の新しい顔をどうしようか、ということでした。専門学校の誘致が決まっていましたので、高浜市としては福祉に特化して、総合相談窓口で、「ワンストップサービス」をめざし、平成8年4月にオープンしました。社協も、在宅介護支援センターも、行政も入るというように、そこに行けば高齢者の問題、障害者の問題などがすべて解決できるという状態をめざしました。特に介護保険が始まる前には、高齢者福祉に力を入れましたが、介護保険制度の地域包括支援センターが今春始まると、高齢者だけでなく障害者の相談もすべて総合相談窓口で一体的にやりたいと思っています。そのために、保健センターの保健師なども、今後はここで一緒に仕事をしていただきたいと思っています。

いろいろな分野の人たちが集まることによって、住民のみなさんに一連のサービスを提供できる体制を整えようと考えています。福祉分野でいえば、今まで縦割りになっていたものをいかに横断的にやるか、納税者でありサービスの利用者である市民のみなさんの視点でサービスを提供することが私たちの基本です。

▼総合相談窓口は、まさに市民の視点で考えられたサービスですね。このほかの高浜市独自の取り組みをご紹介ください。

平成17年度に特別支援教育のモデル事業を実施しています。高浜市では、保育園や幼稚園で統合保育などを行ってきましたが、小学校に入ると特殊教育や養護学校に振り分けられてしまいます。そういった状況を変えるために、社協の事務局長から福祉部長を経験した人材を教育長に任命しました。さらに、18年度も特別支援教育のモデル事業を受けて実施していくことになりました。

子どもの持っている力を、障害があってもどれだけ引き出してあげられるのかを考えたいし、それを地域住民全員で取り組みたいと思うのです。そこでまず教育を変えていきたいと思っています。

福祉専門学校や高校の福祉科などを高浜市は社会資源として持っているわけですから、それらを生かして高浜市だけではなくて、日本中に優れた福祉の人材を輩出したいと思っています。

また、就労支援関係では、現在新たな社会福祉法人作りを支援しています。地元の社会福祉法人の理事長が高齢になられたなどの理由で継続が難しくなりましたので、これを支援することはできないかと考えました。法人理事長には高浜市商工会長に就任していただき、障害のある方の雇用を進める社会福祉法人としてリニューアルしていただこうと思っています。

さらに、市の単独事業として、企業での体験実習時の実習手当の創出を考えています。雇用を前提としない体験実習を企業で行う場合に手当を支給するものです。これにより就労のイメージが鮮明になり、自信にもつながるでしょうし、企業側の障害者に対する理解も進むと思っています。

このほかにも、グループホームが公営住宅や雇用促進住宅を利用してできないかと思っています。地域の眠っている社会資源を掘り起こしてどのように活用するのかが行政の役割だと思います。

▼一貫して市民の視点から行政サービスを考えるのが「高浜流」ですね。高浜の地域福祉の今後を楽しみにしています。本日はありがとうございました。