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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年8月号

夢が実現、10年後の私

いつでもどこでもコミュニケーション

小川光彦

情報弱者と言われる聴覚障害者だが、何もしていない訳ではない。聞こえていたら自然に入ってくる情報も、聞こえにくいと難しい。このため聞こえる人以上に、意識的に情報を集める努力をしているのだ。人によってはコミュニケーション技術の習得や、医療による改善、機器の購入、活用等のために、膨大なエネルギー・時間・コストを費やしている。周囲の理解、環境作りも重要だ。そこまでできる人は、それこそ情報活用のスペシャリストである。並大抵の努力ではない。

生きていくうえで、また財産や安全を守るうえで必要な情報もある。これらの情報は、聞こえにくい方だけでなく、すべての人に必要なものだ。本人が情報に気付かないことがあったり、情報を得るために大変な努力や時間が必要とされるようではいけない。必要な情報が、必要な方に必要なタイミングで届くようにすることで、難聴者の生活の質は大きく改善されていく。

改善を後押ししてくれそうなのが、昨今のインターネットをはじめとする情報通信面の、著しい技術の進歩だ。「IT新改革戦略」(※1)(IT戦略本部)などで目標を示している、ユビキタス化・通信インフラの整備や、光ファイバーを中心としたブロードバンド環境、ネットワークの構築・整備(※2)などから、次のような未来が夢想される。

携帯端末の発達

現在、携帯端末は情報弱者をカバーする重要な機器だ。今後もさらに発達するだろう。燃料電池対応型の携帯電話が登場し、ワンセグによる字幕などの視覚情報が、安価に長時間使用できるようになる。補聴器対応、話速変換・音質変換等の明瞭な音声通話を補助する機能だけでなく、テレビ電話や筆談機能なども簡単にできる、マルチメディア端末になる。通話以外にも、その場で音声変換端末として使用できるようになる。それを安心して使えるセキュリティ機能、簡単操作をサポートする機能も向上するだろう。

防災・安全支援

情報が特に効果を発揮するのは、突発的な災害時だ。被害は個人の生命・安全・財産に直結する。地震・台風・洪水、はては身近な火災・防犯・事故・交通安全まで、まず「何が起きたのか」「どう対応すればよいのか」正確な情報が、ワンセグを含むデジタル放送やメールでいち早く携帯端末等に振動等で伝えられる。

緊急時には端末は自動的に起動し、携帯時は振動、屋内にあるときはフラッシュで教えてくれるので、手に取って見るだけだ。GPSで位置情報も自動的に連絡され、適切な避難情報等を受けられる。

個々に身近な所では、ICタグのようなチップが埋め込まれた「モノ」同士が互いに情報をやりとりする。音声信号を流す機器は、聴覚障害者が接近したら文字・視覚情報を流す、情報弱者に接近した自転車等は自動的に減速するなど、本人が意識しなくても「モノ」側が自動的に判断・対応することで、聴覚障害者に限らずどなたにも安全な環境作りが実現する。

聴覚障害者のコミュニケーション支援

特に発達するのが、これまで置き去りにされていた、コミュニケーション支援の分野だろう。

日常的に使用する窓口の操作端末などは、自分に合ったコミュニケーションモードを選べるようになる。ろう者なら、手話やわかりやすいサインが、中途失聴・難聴者には聞き取りやすい音声補助支援や、音声変換による文字情報など、本人が自分で好きなモードを選ぶのだ。

外出先や突発的事態等で、本人が望むコミュニケーション環境がない、用意できない場合は、手持ちの端末の出番である。携帯端末に内蔵された独自機能で対応できない部分は、ブロードバンド環境とワイヤレスでアクセスし、手話通訳・要約筆記や指点字、聴覚障害者支援など、人的対応を提供できる、適切な支援機関と結びつけてくれる。通訳者と共に行動するのではなく、情報が必要な場面だけ、通信網を通して通訳を受けられるのだ。電話リレーサービスの発達した、コミュニケーション支援サービスもできるだろう。もちろん個々が使い慣れたインターフェースを使用できるのである。

今はテレビ電話の互換性すら乏しくて困っているが、将来は自動的なリレーサービスネットワークが構築され、言語の壁を超えて、世界中だれとでも自由にやりとりできるようになるだろう。

このような夢が、どれだけ実現するか、10年後が楽しみである。

(おがわみつひこ (社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会・情報文化部)

(※1)IT新改革戦略
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/

(※2)次世代ブロードバンド戦略2010(案)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060627_3_an_gaiyou.pdf