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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年8月号

夢が実現、10年後の私

未来予想、10年後のある1日

麸澤孝

私は頸髄損傷による四肢の障害がある。受傷後、約30年が経った。車いす対応の完全バリアフリーマンションに10年前に結婚した妻と2人暮らしだ。

朝、8時に起床。8時には目覚まし代わりに自動でカーテンが開き、大型の液晶テレビが朝のニュースを伝える。と、同時にテレビ画面の下には今日のスケジュールと夜中に届いたメールの内容が流れる。家庭内の家電製品はホームネットワークで管理され「声」で部屋のどこにいてもエアコンやテレビ、パソコン等が制御可能だ。何より床ずれ予防エアーマットの性能が良くなりお尻や背中に掛かる圧力は、ほぼ「0」に近づき体位交換せず安心して朝までぐっすり寝られようになった。

朝起きると妻の介助で天井走行式リフターを使いそのまま浴室へ移動。シャワーを浴びる。リフターで寝室、浴室、トイレ、リビングなど移動できるよう、天井にはレールが付いている。シャワー後ベッドに戻り妻に着替えさせてもらい電動車いすに乗る。

朝食は電動車いすに付けている電動アームを使い、食事の介助は要らない。電動アームは電動車いすのジョイスティクでコントロールし、人間の手のように食事や頭を掻いたり床に落ちた物を拾うことができる。この電動アームの実用化により上肢に障害のある頸髄損傷や筋ジストロフィ等の障害者のADLは大きく変わり、生活の質も飛躍的に向上した。

テレビを見ながらゆっくり食事、妻は仕事に出かけてしまい一人になるが、電動アームでお茶を飲んだり、急の来客にも玄関外のカメラによりパソコン画面にモニターされ、玄関ドアの鍵も音声で開閉でき、安心して過ごすことができる。

私はパソコンで書類の整理を始める。パソコンの操作は、顔の動きでマウスカーソルを動かす機器と音声認識ソフトにより操作する。今ではほとんどキーボードを操作することがなくなった。紙ベースの書類や出版物は減り電子版が提供されるようになり、本や書類を「めくる」という動作が無くなった。そのため、だれでも新聞や雑誌をパソコンで楽しむようになり、障害をもった人にも使いやすく、画面で見たり読んだり、目の不自由な方には音声でも対応できる。

昼食も妻が用意していった食事を電動アームを使って一人で済ます。

午後には大学の講義がある。自宅のパソコンに向かい、インターネットカメラにより大学内の各ディスプレーに映し出され「障害者福祉」について講義する。

講義が終わると外出の準備。妻と待ち合わせ、食事をするため都心に向かう。戸締まりや家電製品の電源も玄関のモニターで確認でき、玄関ドアも電動車いすに付いているセンサーで自動的に開く。

電動車いすは、電気自動車の技術が取り入れられていて、小型軽量のバッテリーで長距離の走行が可能だ。

電動車いすで駅まで行く。駅でも乗車券を購入することなく、電動車いすで車いす対応改札を通過しただけで後日精算される。ホームと電車の段差も無くなり駅員に頼ることなく乗り降りが可能になった。駅や公共施設のエレベーターは手元の携帯電話にある赤外線センサーを向けるだけでエレベーターのボタンは押す必要ない。駅からは携帯電話のナビゲーション機能で待ち合わせのレストランまで迷うことはない。街のバリアフリーも進み道路や歩道も段差無く走りやすい。携帯電話はインターネットに常時接続し、車いすトイレや公共施設・ホテル等のバリアフリー設備の検索・表示ができ、車いす走行での危険箇所も警告してくれる。

レストランではまた電動アームを使い妻と食事を楽しむ。

こうしてある1日も終わりを迎える。

(ふざわたかし 東京頸髄損傷者連絡会)