「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年8月号
フォーラム2006
住生活基本法の解説
国土交通省住宅局住宅政策課
1 はじめに
今般、国民の豊かな住生活の実現を図ることを目的とし、今後の住宅政策の基本となる法律として、住生活基本法が制定されました。
これまでのわが国の住宅政策は、終戦直後の420万戸という深刻な住宅不足や人口の急増を背景に、住宅の量の確保のための新規供給に対する支援を基本としてきました。一方、最近における社会経済情勢が、少子高齢化の急速な進展や人口・世帯減少社会の到来など著しく変化する中、「住宅の量の確保」から「住生活の質の向上」への本格的な政策転換を図るための新たな政策体系を確立する必要が生じています。
住生活基本法は、このような観点から、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を推進する基本となる法律として、本年6月8日に公布・施行されました。その主な内容について、以下に概説します。
2 基本理念
基本理念は、次の四つの柱で構成されています。
1.少子高齢化の進展等社会経済情勢の変化に的確に対応して、現在及び将来における国民の住生活の基盤となる良質な住宅の供給等が図られること。(第三条)
2.自然、歴史、文化等の地域特性に応じて、環境との調和に配慮しつつ、住民が誇りと愛着をもつことのできる良好な居住環境の形成が図られること。(第四条)
3.民間事業者の能力の活用及び既存住宅の有効利用を図りつつ、住宅購入者等の利益の擁護及び増進が図られること。(第五条)
4.住宅が国民の健康で文化的な生活にとって不可欠であることにかんがみ、低額所得者、高齢者、子供を育成する家庭等の居住の安定の確保が図られること。(第六条)
1は、住宅単体についての「質の向上」を図り、良質な住宅ストックの形成をめざすべきことを規定するものです。「良質」とは、住宅の安全性、耐久性、快適性、省エネ性等のほか、バリアフリー化等の高齢者や障害者の方への配慮など豊かな住生活のために必要となる住宅の品質または性能を備えていることです。
2は、国民の豊かな住生活を実現するためには、住宅単体のみならず、良好な景観や地域住民の利益施設・福祉施設等の整備など地域の居住環境の「質の向上」を図るべきことを規定するものです。
3は、1、2により供給・管理されている良質な住宅及び良好な居住環境を前提として、国民一人ひとりがそれぞれのニーズに合った適切な住宅が選択可能となるよう住宅市場の環境整備を通じて、その利益の擁護・増進を図るべきことを規定しています。
4は、住宅の確保が3により整備された住宅市場を通じて自力調達で行われることを基本としつつも、低額所得であること、高齢者や障害者であることなどさまざまな理由で自力調達が困難である者に対しては、公的賃貸住宅などの住宅セーフティネットの構築により居住の安定の確保を図るべきことを規定しています。
これらの基本理念についてまとめていうと、1、2が良好な居住環境を備えた良質な住宅というモノの「質」の向上を図り、3でそのモノを流通させる市場環境の整備を図り、4でその市場を補完する住宅セーフティネットの構築を図るという構成になっています。これら4つの基本理念は、相互に関連しあって、国民の豊かな住生活の実現をめざすものとなっています。
3 責務等
住宅は、私有財産としての性能を有するものの、都市や街並みの主要な要素として、社会的性格を有するものです。基本理念の実現のためには、行政のみならず、住宅関連事業者の主体的な取り組みや居住者等住生活に関連するすべての関係者の総合的な対応が必要であり、以下のとおり各主体の責務を規定しています。
1.国及び地方公共団体は、基本理念を達成するために必要となる施策を策定・実施していく責務を有すること。(第七条)
2.住宅関連事業者は、自らが住宅の安全性その他の品質・性能の確保について最も重要な責任を有していることを自覚し、住宅の設計、建設、販売及び管理の各段階において必要な措置を適切に講ずる責務を有すること。(第八条)
3.国、地方公共団体、住宅関連事業者のほか居住者、保健医療・福祉サービスの提供者等住生活に関わるすべての関係者が相互に連携し、協力するよう努めなければならないこと。(第九条)
4 住生活基本計画
「住生活基本計画」は、全国的課題について政府が閣議決定して定める「全国計画」と地域の実情を勘案して都道府県が定める「都道府県計画」で構成されます。計画期間を10年とし、住生活の「質の向上」に係る成果指標をできる限り導入しつつ、アウトカム目標を定め、5年ごとに政策評価を行い計画を見直していくこととしています。
最初の全国計画は、本年秋頃に策定予定ですが、現段階における計画骨子と成果指標(※)の案については、以下のとおりです。
(1)住宅の品質・性能の維持・向上
住宅の基本的性能(安全性、耐久性、快適性、省エネ性、デザイン、環境配慮等)について、住宅性能水準に掲げる品質・性能に関する各項目の水準向上をめざします。
※新耐震基準適合率
※省エネ対策率(二重サッシ使用率等)
※共同住宅の共用部分のユニバーサルデザイン化率等
(2)住宅の管理の合理化・適正化
既存住宅の有効活用を図るため、戸建て、共同、持ち家、借家の別を問わず、所有者等が維持管理の重要性を認識し、適正な維持管理とリフォーム等が行われることをめざします。特に、分譲マンションについては、計画的な修繕の実施など管理の適正化、円滑な建て替え等を進めます。
※リフォーム実施率
※マンションの適切な維持管理率(適切な修繕積立金を設定しているマンションの割合)
(3)良好な居住環境の形成
地域における居住環境の維持向上を図るため、安全性・利便性・快適性・持続性等「住環境水準」の各項目の向上をめざします。特に、密集市街地の整備改善、水害等の自然災害に対する安全性の向上をめざします。
※危険な密集市街地の整備率
※地震時に危険な大規模造成地の箇所数
※利便性、快適性等の成果指標は都道府県で目標設定
(4)住宅市場の環境整備
国民の多様なニーズに応じた適切な住宅の選択を可能とするため、適正な取引と住宅の円滑な流通を実現する市場環境の整備をめざします。特に、住宅取引における正確・適切な情報の提供、既存住宅の売買や賃貸、リフォームを促進します。
※新築住宅性能表示の実施率
※既存住宅の流通量
※住宅の利活用期間(平均寿命等)
※子育て世帯の誘導居住面積水準の達成率
(5)居住の安定の確保
低額所得者、被災者、高齢者、子育て世帯、障害者、DV被害者等の居住の安定の確保を図るため、住宅セーフティネット機能の向上をめざします。特に、「最低居住面積水準」未満世帯の解消、高齢者の居住する住宅のバリアフリー化、不合理な入居者限定をしない民間賃貸住宅の普及を図ります。
※最低居住面積水準未満世帯率
※高齢者の居住する住宅のバリアフリー化率
5 おわりに
住生活基本法は、人口減少社会が到来し、住宅政策が新たな局面を迎える今、国民一人ひとりが真に豊かさを実感できる住生活の実現を図ることを目的とするものです。
今後、高齢者、障害者等が施設ではなく住宅で生涯を過ごし、安心して自立した生活を送るために住宅が果たす役割は一層大きくなります。このため、住宅のバリアフリー化や介護、看護など多様なサービスが利用しやすい居住環境の整備が重要になってきます。
国土交通省としては、時代のニーズに応えるため、住宅政策と福祉政策の緊密な連携ができるよう、住生活基本法を的確に運用してまいります。