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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年11月号

本人の地域生活を支える制度になりうるのか
―成年後見制度の現状と課題―

池田恵利子

1 成年後見制度6年目の現状
―最高裁判所事務総局家庭局の発表資料から―

介護保険制度に間に合わせて2000年4月に成年後見制度が導入され6年が経ちました。しかし、いまだに成年後見制度がどのように役立つ制度なのかというメリットが十分理解されないまま、お金も時間もかかり面倒な制度らしいという見方が先行してしまっていて、十分に活用されているとは言えないように思えます。

ここでは制度活用がどういう状況なのかを、最高裁判所から発表されている資料を参考にしつつ見てみましょう。(表1~4http://www.courts.go.jp/参照)

制度の申立件数はここ6年増加し続け、平成17年3月までにすでに後見の開始が76,418件に及んでおり、これに保佐、補助類型の合計13,267件を合計すると89,685件になります(表1)。この数字は、日本の全人口に対する比率としては約0.07%程度となりますが、欧米ではだいたい人口比1%であることを考えると決して多いとは言えない数字です。

表1 成年後見関係事件申立件数表
横棒グラフ 成年後見関係事件申立件数表拡大図・テキスト
(注)各年度の件数は、それぞれ当該年の4月から翌年3月までに申立てのあった件数である。

その制度利用が広がらない理由として考えられているものについて、見てみましょう。

まずお金がかかる「高い」と言われていることについてですが、報酬については統計が発表されていません。しかし報酬については、利用者側に任意後見との混同があり、制度が正しく理解されていないきらいがあります。

法定後見制度の報酬は、裁判所がご本人の資産の多寡と後見人の職務の内容で審判が出るもので、無資産者であれば報酬がないこともありえます。それでも人権の面から、ご本人のために受任している専門職などもいます。しかし、福祉関係者等が成年後見制度とご本人を結びつける際に「必要ではあるが報酬が月3万円もかかるから」といった任意後見の標準額である3万円等が一人歩きしてしまい、本人には資産がないからと、最初から低所得者に関しては利用を諦めさせている現実があります。また鑑定費用については、統計ではすでに5万円以内が全体の40%で、10万円以内が58%を合わせると98%となるのに、2、30万かかると思っている方もいます。

2番目に審判までの時間がかかり「遅い」と言われていることについては、申立から3か月以内で審判が下りているものが56.7%です。第三者による財産への侵害など緊急性のあるものであれば、審判前の財産保全の申立など他の手立を講じるより速やかに対処することもできるのです(表2)。

表2 鑑定期間別割合
円グラフ 鑑定期間別割合拡大図・テキスト
(注)後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任事件のうち、鑑定を実施したものを対象とした。

2 成年後見制度利用の本来のメリットとは
―本人の権利擁護の視点から―

成年後見制度を申立るメリットは何でしょうか。利用が進まない状況の理由には、成年後見制度の本来の理念(1.自己決定の尊重、2.ノーマライゼーション、3.残存能力の活用と保護の調和)が理解されず、それにふさわしい後見がなされているのかという問題に突き当たります。また本当に、本人のための制度となっているかという疑問も出てきます。

こんな話が障がい者の親から聞こえてきました。「本人名義の定期預金を解約したいのに金融機関に〈後見人でなくてはだめ〉と言われて仕方なく後見人になった。申立も面倒だったけれど、その後も裁判所からやれ「報告をだせ」だとか、それについての「説明をせよ」だとか言われて、もう預金の解約はできたので後見人をやめたいと言ったら今度は〈勝手にやめてはいけない〉と言われ、もういやになっちゃう」というものでした。

これまでの制度利用は、このような財産管理上の問題が引き金となり、ご家族が何の研修も受けないまま、ともあれ申立をしてという例が多いようです。現実に成年後見制度の申立理由で一番多いのは、やはり遺産分割等を含めた財産管理処分関連の問題で、統計でも67.6%と全体の3分の2を占めています。介護保険契約や身上監護を理由とする率は伸びてきてはいても、20.5%とまだ全体の5分の1です(表3)。

表3 成年後見関係事件における申立ての動機別割合
円グラフ 成年後見関係事件における申立ての動機別割合拡大図・テキスト
(注1)後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任事件の終局事件を対象とした。
(注2)「本人の生活状況について」(昨年度の「成年後見関係事件の概況」資料7)は今年度から集計を行っていない。

このようなことから「成年後見制度は資産のある方の財産管理のための制度であり資産のない者には必要がない、福祉で対応すればよい」と、今でも公言し信じている方もいます。また成年後見人は、親や子他親族の受任が78.9%というのが現在の状況です(表4)。

表4 成年後見人等と本人の関係別割合
円グラフ 成年後見人等と本人の関係別割合拡大図・テキスト
(注)後見開始、保佐開始及び補助開始事件のうち、認容で終局したものを対象とした。

本来、この制度利用のメリットは、後見人がご本人の人生の伴走者として、その方ご本人の最善の利益を守り、法律行為である契約や財産管理を行っていくというところにあります。後見人が、ご本人の側に立って考え、選択して決定し、契約という法律行為にのせ、その履行を見守り資産を利用してその支払いをしていく。今の介護保険や障がい者施策、そして医療制度を考えても、すべてが契約による法律行為とその自己負担として、費用についての利用者側の判断を必要とします。そして、それはその時だけの関わりでなく、知的障がい者関係の方の言う「縦のマネジメント」永続的な対人支援を行うことが目的のものなのです。

しかし、福祉制度の利用形態等が変わってもこれまで同様に、家族が本人に代わって契約を行い財産管理をしている状況は変わっていません。その延長上で先例のように、ご家族が何の研修も受けることなく後見人になり、今まで通りの発想のまま報告をして、裁判所から注意を受け「どうして? 何が悪いの?」ということもあるのが現状でしょう。

今後の超高齢少子社会において、成年後見制度は「親亡き後の問題」と言われてきたように、これまでのように家族が障がい者や認知症高齢者の後見的役割を果たしていけるのか? 今、大丈夫であっても10年20年後ではどうなのか? そして、大丈夫でなくなる時は、突然やってくる場合も多いもので、筆者である私への相談や依頼も、その時をまだ遠い先と考えていた親や配偶者からの病や事故によるものです。

家族だけに頼るのではなく、社会で地域で本当に障がい者や認知症高齢者を支えていくために、そしてできるだけ地域社会での生活を可能とするため、成年後見制度が今、本来の権利擁護制度としてのメリットを理解され活用されることが必要だと考えられます。

3 課題
―日本社会でも、地域生活を支える制度として機能させるために

ここでは誌面の都合上、筆者が、成年後見制度が障がい者や認知症高齢者等が地域社会で暮らせるための制度となる課題を整理し、指摘するにとどめます。

1.地域福祉とノーマライゼーション推進のために制度利用を促進させること

a.地域において制度利用が必要な方をきちんと制度へつなぐシステムの必要性

後見制度は本当に必要な方が自分でその必要性を判断し、手続きをとるのは困難なものです。地域社会との関係でだれが申立をするのか、家族がいないなどの場合にはきちんと地域社会の中で自治体関係者などが発見し、市町村申立等で制度利用につなげていくことが必要になります。日常生活圏域に責任を持つ地域包括支援センターができ、その役割が少し明確になってきました。自己決定自己責任自己負担が原則の介護制度等は、このような支援がないと独居の認知症の方などは利用できないことになります。

b.後見制度とともに社会的支援としての生活支援等の充実が必要なこと

地域社会での生活のためには、まず日々の生活を支えるヘルパー制度などの充実と、社会的参加を支えるスウェーデンのコンタクトパーソンのような存在(これについては、千葉の育成会においてすでにコミュニティフレンドとして同様な試みがされている)が望まれます。それがあってこそ、それらとの連携のうえに法律的支援や財産管理を中心にした後見人の支援が活きると思われます。

2.低所得者にも人権保障として利用を保障すること

後見制度は、資産の多寡にかかわらず人権として「どこでどのように暮らすか」という自由権を本人保障するために必要なものです。措置制度ではない当事者主体という考え方において、介護や福祉のサービスが他の社会サービス同様「だれでも不利なく主体的に利用できる」ためにも必要です。お金持ちの資産管理でよいという考え方は間違っています。障がい者にも認知症高齢者にも、人間の尊厳に関わる自己決定権は人権の基本である自由権とつながり保障されるべきものです。声高に主張する者の言うことは聞かれるが、声になりにくいこれらの者の声は無視されがちです。しかし、自分の人生を軽々と他者に決められたり従わされたりして良いものではありません。この人権保障であるという考えのもとに、海外ではパブリックガーディアン(公後見人)の必要性が認識されています。

3.制度そのものの改善と制度を支える人材の問題

a.医療同意権等の問題

b.補助制度の活用促進と市民後見人の活用により、制限的でない関わりの整備が必要です。

おわりに

利用者中心、当事者主体という理念を建前だけでなく「お上に任せる」事を至上とするのではなく、自己決定自己責任、そして自己負担の制度利用のもとでも能力が低下した本人側の主体性をどう担保するのかを考えていくと、成年後見制度につながります。判断力が低下している者の立場に立ちアドボケート(権利擁護)し支えていくのが、後見人の役割ですが、前述したように、成年後見人だけで地域社会での生活を支えることができるわけではありません。家族だけに頼るのでなく、家族しか信じられないのではなく、社会で支えるシステムが今こそ必要になっています。

日本ではまだ未成熟なこれら地域社会での生活を支える社会システム。この全体をとらえ、学者や法律家だけでなく、私たち自身が理解し考え改善していくのだという姿勢を持つことが必要だと考えています。

(いけだえりこ いけだ後見支援ネット)