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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年11月号

宮城福祉オンブズネット「エール」の活動

赤松實

1 「エール」の概要

宮城福祉オンブズネット「エール」は、宮城県内の高齢者、障害児・障害者とその家族、福祉サービス事業に関わる職員の権利擁護と福祉サービスの質の向上を目的として活動しているボランティア団体です。仙台市を拠点として平成13年11月から活動を開始し、平成17年6月にNPO法人になりました。弁護士、医師、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、介護福祉士、看護師、消費生活相談員、一般市民など約30人のスタッフが中心となって運営しています。虐待、多重債務、消費者被害などの相談支援、成年後見制度の利用推進、施設職員等に対する研修、コンプライアンス(法令等の遵守)の普及啓発、介護サービス情報の公表、「ろうすくーる」の運営などの事業を行っています。

2 「エール」の特色

「エール」の第一の特色は、多様な専門職のスタッフが連携して問題解決に当たっていることです。高齢者や障害者には、教育、雇用、住宅、医療、介護、虐待、サラ金債務、詐欺商法による被害などさまざまな問題を抱えて苦しんでいる方が少なくありません。これらの問題を解決し、高齢者や障害者の生活を支援するためには、多様な専門職が連携して関わり、その専門知識を有機的に活用する必要があります。

たとえば、息子と2人暮らしの認知症のお年寄りが、息子から継続的に暴力や年金流用などの虐待を受けて健康を害し苦しんでいる、息子もサラ金債務で首が回らないというようなケースでは、別居している娘の協力を得て、看護師がとりあえず往診専門医に診察をしてもらったり、介護支援専門員が介護保険サービスの受給につなげたり、社会福祉士が成年後見の申立手続きを支援して後見人に財産管理をしてもらったりします。

また、息子のサラ金債務については、弁護士と消費生活相談員が任意整理(利息制限法による組入れ計算をして元本額を確定し、業者と分割払いや過払い金返還の示談をする債務整理方法)や自己破産の手続きをとって解決するよう協力します。

このように「エール」の組織や活動そのものが多様な専門職のネットワークであるだけでなく、弁護士会、社会福祉士会、介護福祉士会、社会福祉協議会、司法書士会、児童虐待やDV対策のボランティア組織など多くの外部団体とネットワークを構築したり、これを強めるよう努力しています。

「エール」の第二の特色は、高齢者・障害者本人だけではなく、その家族や福祉サービス事業で働く職員の権利擁護をはかることを活動目的としていることです。先に述べた息子と2人暮らしの認知症のお年寄りのケースやいわゆる老々介護のケースでは、本人だけではなく家族も借金、介護の負担、病気などで苦しんでいることが少なくありません。このような場合には、家族全体にトータルな支援の手を差し伸べなければ本当の解決をすることはできないと考えられるからです。

また、福祉サービス事業で働く職員の人たちは、給与や休暇などの待遇が必ずしも恵まれていない状況で過酷な労働を強いられたり、専門知識の不足のために悩みを抱えながら仕事をしている場合もあるでしょう。

「エール」は、少しでもそのような職員の方々の力になりたいと考えているのです。職員の人たちが明るく元気に働いて良いサービスを提供してくれれば、高齢者や障害者にとってもたいへんうれしい結果になるからです。

「エール」の第三の特色として、福祉サービスの質の向上のために、宮城県から指定を受けて、介護サービス情報の公表機関の仕事をしていることと、コンプライアンス・ルールの普及啓発活動をしていることがあげられます。

公表機関の仕事は介護サービス情報をインターネットのホームページに掲載し、いつでもだれでも見られるようにして、利用者が自分に合った良い事業者を選べるようにするものです。公表される情報には、サービス事業者が自ら公表する基本情報と、県指定の調査機関が確認して公表する調査情報の二つがあります。平成18年度から全国的に始まったばかりの制度ですが、利用者の選択とサービスの質の向上のために、今後大いに活用され、障害者に対するサービスの分野にも広げていってほしい制度です。

また、コンプライアンス・ルールは、福祉サービス事業者が事業を行うにあたっての実践的・倫理的な活動指針を自ら定めて公表し、サービスの質の向上を図ろうとするものです。これは、もともと欠陥車隠しや食品の偽装表示などの企業不祥事の再発防止と消費者保護のために導入されるようになったものですが、高齢者や障害者のように一般の消費者以上に被害を受けやすい立場の人々が、生活に欠かせない福祉サービスを選んだり利用したりする場面では、なおさら必要性が高いというべきものです。現在、県内5事業所のほか県外の1事業所でモデル的に導入されています。今後、少しずつでも着実に広げていきたいと考えています。

「エール」の第四の特色は、「遊老学校(ゆうろうがっこう)・宮城ろうすくーる」を設営して、中高年齢者が老後を強く楽しく安心して暮らせるためのお手伝いをしていることです。一般のカルチャースクールとは違い、「自分の意思でたくましく生きる」ことにウエイトをおいて、医師、看護師、弁護士、社会福祉士、僧侶、ミュージシャンなど多彩な講師陣が、健康管理、相続・遺言、成年後見、介護保険、年金、高齢者虐待、尊厳死、葬儀、墓地などについて実践的な講義をしています。

3 「エール」の課題

「エール」の課題として、マンパワーと財源不足の問題、活動の方向性の問題があります。前に述べたように、「エール」は組織と活動そのものが多様な専門職によるネットワークであり、外部の個人や団体とのネットワークも生かして、高齢者や障害者の複合的な問題についてワンストップでサービスを提供できる強みがあります。

しかし、多くのボランティア組織がそうであるように、「エール」でもほとんどのスタッフが本業を持っており、専従職員が1、2名しかいないため、増加する相談に十分に対応しにくい面があります。また、一部のスタッフの負担が重くなり過ぎていることも否定できません。

その対策としては、有能なボランティアにスタッフの助手として行動をともにしてもらい、実践的に相談員としての力を身につけてもらうこと、パートの事務職員を採用すること、弁護士や社会福祉士の専門職チームとのネットワークを強化することなどを考えています。

また、財源不足の対策としては、会員の増強、各種補助金・助成金の獲得、出版物の発行、寄付金税制の活用などを考えていますが、なかなか実効性のある対策がないのが実情です。また、活動の方向性の問題としては、県指定の福祉サービス公表機関の受け入れ、県や市からの相談バックアップ業務の受託などにより、ケースによっては行政もたたくという創立当初の「闘う集団」としての性格が薄れてしまったことが指摘されています。

なお、成年後見制度の利用推進については、個別相談案件の解決のために、スタッフが成年後見申立の代理や手続きの支援を行ったり、成年後見人に選任されたりしていますが、必ずしも十分ではありません。今後、激増が予想される第三者後見人や法人後見人の需要に対して「エール」がどのように応えていくかも、大きな課題の一つになると思われます。

以上「エール」の活動について述べてきましたが、社会構造の変化や福祉予算の抑制に伴い、高齢者・障害者の権利擁護が、国民全体の最重要課題の一つとして、その重みを増していくことは間違いありません。「エール」としても、今後ネットワークを一層強化して、高齢者・障害者の権利擁護のための活動に地道に取り組んでいきたいと考えております。

(あかまつみのる 「エール」理事長、弁護士)

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