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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年11月号

東京都「成年後見活用あんしん生活創造事業」

武笠安史

東京都では、昨年度、「成年後見活用あんしん生活創造事業」を創設しました。その概要について、ご説明します。

1 事業の目的

知的障害者、精神障害者、認知症高齢者などの方で、判断能力が不十分な場合、地域で安心して生活するためには、成年後見制度の活用が重要です。

平成12年度に制度がスタートしてからの6年間で、年間の申立件数が2.5倍以上になるなど、徐々に制度が活用されてきてはいますが、制度そのものが広く知られていないことや、申立に費用がかかるといった理由から、制度の活用がまだまだ十分には進んでいないのが現状です(図1、図2)。

図1 東京都内の申立件数
棒グラフ 東京都内の申立件数拡大図・テキスト
東京家庭裁判所調べ(数字は概数)

図2 成年後見制度に関するアンケート調査(あなたは「成年後見制度」を知っていましたか)
円グラフ 成年後見制度に関するアンケート調査拡大図・テキスト
東京都老人総合研究所アンケート調査(平成16年4月)より

そこで、東京都では、住民に身近な区市町村での制度の活用を図るため、区市町村への支援を中心として、この事業を創設したところです。

2 事業の内容

事業は、区市町村の取り組みに対する支援と東京都による環境整備の二つに大きく分けられます。

(1)区市町村の取り組みに対する支援

1.地域の中で、きめ細かく成年後見制度を推進する体制を整備するための機関として、「成年後見制度推進機関」の設置を進めており、この推進機関の立ち上げや運営に必要な経費の補助をしています。

現在、全49区市の約半分にあたる24区市が、推進機関の立ち上げや運営を始めていますが、一日も早くすべての区市で運営を始めることができるよう、引き続き取り組みを進めていきます。

2.このほかに、推進機関が法人後見を行う場合や、区市町村で申立経費や後見報酬の助成を行うといった、独自の取り組みを行う場合にも補助をしています。

このうち、法人後見は、本人に頼りにできる親族がおらず、後見業務の内容が複雑で広い範囲にわたる場合などが適応ケースであり、推進機関の役割として期待しているものです。

また、申立経費や後見報酬の助成については、国の助成事業があるので、基本的にはその助成を受けることになりますが、一定の条件でそれが難しい場合に、東京都としての補助をするものです。

(2)東京都による環境整備

東京都では、区市町村の取り組みをバックアップするために、次の取り組みを行っています。

1.制度の普及・PR

これまでも、講演会やシンポジウムなどを行ってきましたが、今後もホームページを都民の視点から読みやすく、わかりやすい内容にしていくなど、さらなる普及・PRを進めていきます。

2.関係機関や推進機関との会議の開催

会議を通じて、家庭裁判所や弁護士会、司法書士会、社会福祉士会といった、成年後見制度と深い関わりを持つ機関との連携を深め、情報交換を図るとともに、制度の活用に係る課題の解決をめざしていきます。

3.親族や専門職以外の後見人の養成

(3 親族や専門職以外の後見人の養成を参照)

4.担当職員からの相談への対応

5.担当職員への研修

3 親族や専門職以外の後見人の養成

(1)目的

現在、後見人をされている方の約80%が親族で、残りの約20%もそのほとんどが弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門職です。

このことから、信頼できる親族がおらず、必要な後見業務の内容が専門職にお願いするようなものではない方にとっては、現在の成年後見制度が使いにくい状況になっているということが考えられます。

このような状況を打開し、だれもが安心して後見人を頼めるようにするためには、専門職でない第三者の後見人(東京都では、「社会貢献型後見人」と呼んでいます)を広く養成することが重要だと考え、「後見人等養成事業」を行うこととしました(図3)。

図3 社会貢献型後見人の養成に関するフローチャート
図3 社会貢献型後見人の養成に関するフローチャート拡大図・テキスト

(2)昨年度の取り組み

区市町村の推薦を受けた方と、一般公募から選ばれた方を合わせて、50人の方を養成する予定で取り組みを始めましたが、一般公募で300人以上の方から申し込みをいただくなど、豊かな経験と意欲にあふれた方が多く、予定を超えた60人の方に対して、基礎講習を受講していただきました。

(3)今年度の取り組み

60人の基礎講習修了者は現在、区市町村において実習活動を行っています。具体的には、地域福祉権利擁護事業の生活支援員として、判断能力に問題がある方の日常的な金銭管理をするなどの活動をしています。

今後、さらに実習を通して経験を重ね、多くの方が一日も早く後見人として活躍できるようになることを期待しています。

また、今年度も、約50人の方の養成を目標に一般公募を行い、選考で合格された方を対象として、来年1月に基礎講習を行う予定です。社会貢献型後見人の養成は、まだ緒についたばかりであり、東京都全体で後見人を必要としている方の数に比べれば、まだまだ十分な養成数とは決していえません。

東京都としては、世田谷区がすでに区として独自に後見人の養成を始めているように、今後、多くの区市町村でもそれぞれ後見人の養成を行っていくことを期待しています。

4 おわりに

このように、東京都では「成年後見活用あんしん生活創造事業」を通じて、成年後見制度が多くの方に活用されるようにしていきたいと考えています。

判断能力が不十分な方が、必要な支援を受けることで、地域で安心し、自立して生活できるよう、今後も取り組みを進めてまいります。

(むかさやすし 東京都福祉保健局生活福祉部地域福祉推進課推進担当係長)

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