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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年11月号

わがまちの障害福祉計画 東京都練馬区

練馬区長 志村豊志郎氏に聞く
ずっと住み続けられるまちづくり

聞き手:成田すみれ
(横浜市総合リハビリテーションセンター、本誌編集委員)


東京都練馬区基礎データ

◆面積:48.16平方キロメートル
◆人口:690,785人(平成18年9月1日現在)
◆障害者の状況(平成18年3月31日現在)
身体障害者手帳保有者 16,927人
(知的障害)療育手帳保有者 3,170人
精神障害者保健福祉手帳保有者 2,904人
◆練馬区の状況:
練馬区は東京都23区の北西部に位置し、北東から南にかけては板橋区、豊島区、中野区、杉並区に接し、西から南西にかけては西東京市、武蔵野市との境をもち、北は埼玉県の新座市、朝霞市、和光市に接している。緑被率は20%超と都区部でも高く、武蔵野の面影が残っている。現在、都営地下鉄大江戸線の延長、区の基幹交通である西武鉄道の立体交差・複々線化など都市計画事業の促進により、便利で安全な生活環境が整備されつつある。
◆問い合わせ:
練馬区健康福祉事業本部福祉部障害者課
〒176―8501 練馬区豊玉北6―12―1
TEL 03―3993―1111(代) FAX 03―5984―1214

▼まずはじめに練馬区の特徴、魅力についてお聞かせください。

練馬区は都内でも緑豊かな住宅都市と言えますが、畑や屋敷林、憩いの森など武蔵野の面影を残す地域、私鉄沿線の閑静な住宅街、そしてグラントハイツ跡地に開発されたニュータウン光が丘など多様なまちの姿がみられます。

人口は70万人近くを抱える中核都市レベルの規模ですが、区民は市民意識が高く、区で公募委員を募りますと、定員を超える応募をいただきます。みなさんに「自分たちのまちのことは自分たちで決めていきたい」という意識を持っていただいていることは、うれしいですね。もちろん、国政への関心も積極的です。

▼区長は障害のある方たちの地域生活支援について、どのように取り組んでいこうと考えておられますか。

だれもが社会の一員として支え合いながら、地域でともに生活をする社会こそ当たり前の社会であるというノーマライゼーションの考え方を尊重しながら、一層の推進を図っていきたいと考えています。

やはり一番大事なのは、障害のある方に対する周囲の理解で、それを区民の総意にまで発展させなくてはならないと思います。それには、地域の連携連帯が不可欠です。今、練馬区では、「自分のまちは自分で守る」「自分の命は自分で守る」ということを一つの考え方として、推進しているところです。障害のある方だけのことではないのですが、たとえば、住民への防災施策などを通じて、障害者や高齢者など災害要援護者の存在を意識していただくことが、障害者への理解や連携連帯する気持ちを持った地域づくりへとつながります。行政もそのように働きかけていきたいと思っています。

▼練馬区における障害者施策の特徴はどのようなものでしょうか。これからの方向性の中で、これは大事にしたいということなどもご紹介ください。

今、障害者施策は方向転換が求められている時期にきていると思っています。これからは、障害当事者の方が何を望んでいるのかをきちんと受け止め、そのニーズに対して行政が的確に動いていかなくてはなりません。従来のような大型施設の整備や現金給付的サービス中心であった施策のあり方を見直さなければならないと考えています。

まずは、障害のある方の地域活動を支援していく仕組みづくりが必要だと思っています。障害のある方々がいろいろな生き方や生活スタイルを選択できる場や支援形態、環境などを検討しているところです。

それぞれの方には得意分野があるはずです。知的障害の方などは一つのことに対して集中することができます。その中から良いものが出てくるはずです。良い指導者も必要ですが、活動できる場所も必要です。

また、グループホームは地域で多様な生活を実現するためにはとても良い仕組みだと思います。生活寮も必要であると思っています。

今まで東京23区は、自ら公営住宅を作る必要はありませんでした。ところが現在、東京都から都営住宅の移管を受けています。今後練馬区が設置者となれば、古い住宅を建て替えるときに、いずれグループホームや生活寮を備えた公営住宅として建て直しをしたらよいのではないかと思っています。一般住宅、賃貸住宅の他にグループホームといった使い方があってもいいのではないでしょうか。このように多様な手法を取り入れながら実践していきたいと思います。

それから、自立の問題です。障害者一人ひとりに見合った自立を考えると、その人なりの「生活の糧」をどのように保障していくのか、多様な就労形態を視野に入れた就労促進などの支援は大きな意味を持っています。現在練馬区では、「練馬区障害者就労促進協会」という外郭団体が区と協力をしながら事業を展開していて、就労に力を入れています。はじめの数か月は支援者とともにマンツーマンで一緒に働くことからはじまり、最終的には職場定着をめざしています。

▼そうすると、地域生活支援、グループホーム、就労支援がキーワードになりますね。実際のこれらの事業はどのような内容になりますか。

従来の施設を地域に開かれたものにする取り組みとして、福祉園に喫茶コーナーを作って、地域の人たちとの交流を図ったり、余暇活動など日中活動を充実させるために移動支援にも力を入れているところです。

一方、グループホームは、入所施設や親元からホームへの移行利用が円滑にできるよう、宿泊訓練の場として生活寮を充実させて、2~3年利用するという方式を予定しています。そしてその後の長期的生活の場として、公営住宅や公有地の活用を考えています。併せて、グループホームを設置する民間法人への支援体制も整備する予定です。

先ほど施設の見直しについて触れましたが、区の施設では卒業というものがなかなかできません。就労することや、働くことに馴染んでもらう場としての作業所が、結局、最終的な行き場がないために高齢化が進み、メンバーが固定化してしまう現状が見られます。このような課題解決のためにも、一般就労に向けた支援が非常に重要となります。

障害のある方も何らかの形で働いて社会に認められることは大切です。そういう機会をつくることも私たちの役割です。区では、平成16年に貫井福祉工房(愛称:就労サポートねりま)というパン工房を作りました。通常で言う福祉作業所です。見学することもできますし、彼らが作ったパンを買うこともできます。おかげさまでとても好評です。自分が作ったパンが売れて、みんなが喜んでくれれば本人も満足感が得られます。こういった場の提供はとても大切だと思います。

▼専門性のある人たちがその人の隠れた能力を引き出すことは大切ですね。さて、障害者自立支援法は4月から一部施行となり、10月からは全面施行となりました。障害福祉計画の策定状況はいかがですか。

今年度中に「障害福祉計画」の策定と、現行の「障害者計画(平成15~22年度有効期間)」の改定を一体的に実施する予定です。

この作業にあたっては、公募区民、障害者福祉団体、事業者、学識経験者ら25人で構成される「練馬区障害者計画懇談会」を設けて4月から内容の検討を行っています。また、別途障害者関係17団体へのヒヤリングや区内4か所の会場でタウンミーティングを開催し、さまざまな方々からのニーズや要望の把握に努めてきたところです。

計画づくりの中でぜひ盛り込みたいと思っていることがあります。それは、障害者自立支援法には自立の定義がありません。練馬区としては、重い障害のある方々の自立を支えることも、自立支援であると考えています。計画の基本的な考え方としては、「障害のある方の一人ひとりの人権を尊重し、どんなに障害が重くとも、地域の中で自分らしい自立した生活ができる社会をめざすこと」が重要だと認識しています。

▼障害者自立支援法に対する区独自の対応はありますか。地域生活支援事業などは自治体の特色が出る施策ですが、いかがですか。

区では、10月からの地域生活支援事業の実施に当たり、移動支援事業の対象として、障害のある子どもの通学の確保、また、保護者の負担軽減を図るために、小学校・中学校、養護学校への通学介助を実施することとしました。障害のある方が外出しやすい状況を作るためには、それぞれの障害に応じたサポーターを確保することが必要です。そのために、NPO法人など民間から支援者を募ることにも力を入れたいと思っています。

また、通所施設の昼食の負担金について、利用者が急激な負担増により通所を控えることがないよう、利用者全員に対する負担軽減策を実施しました。

私は、障害者施策は「これ」という絶対的なものがないと思っています。ですから多様な施策が必要と考えます。その多様さを行政の中でどう実現するかがこれからの大きな目標です。


(インタビューを終えて)

「練馬区は、従来から障害者の自立と社会参加を目標に、特に重度の障害のある人々への支援を、介護やデイサービス、福祉工房など在宅を支える施設の整備や経済的支援などにより支えてきました。

障害のある人々の一人ひとりの人権を尊重し、どんなに障害が重度であっても、地域で自分らしい生活ができる社会をめざすことが基本的理念です。

今後は、より一層、障害者の自立を進めることで、障害のある人々が、自らまたは支援により意思を表明することで自分らしい生き方の実現や、その存在が社会を成熟させる力となるような施策展開を図っていきます」という言葉に、練馬区の今後の障害者施策の展開を熱く見守っていきたいと実感しました。

自立支援法関連による煩雑で多忙なこの期に、快く取材を受け、調整を図ってくださった関係職員の方々、またいろいろと丁寧にお話をしてくださった志村区長さん、本当にありがとうございました。