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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年11月号

ワールド・ナウ

AMIN(アミン)に期待
―興奮した盲人マッサージセミナー

佐々木憲作

はじめに

私は現在、ベトナム・ホーチミン市の日越友好視覚障害者マッサージ・トレーニング・スクール「ニャックアン」で日本あん摩を教えています。ニャックアンは、2004年9月、神戸の視覚障害者(以下、視障者)を中心にしたグループ「ベトナム視覚障害児の夢と未来を支える会」(会長・福井照久)がベトナム視障者の職業的自立をめざして設立した日本あん摩を教える学校で、期間は2年間です。

今回、国際視覚障害者援護協会(IAVI)の山口和彦事務局長に勧められて参加した、第8回WBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)盲人マッサージセミナー(主催:社会福祉法人日本盲人福祉委員会・国立大学法人筑波技術大学、特別協賛:日本財団)について報告します。

マッサージセミナーの概要

マッサージセミナーは、9月22日(金)~25日(月)の4日間、茨城県のつくば国際会議場で、「マッサージの質の向上と働く場の拡大―知識と技術の交流を通して」をテーマに行われ、14の国と地域から36人が参加、連日300人を超す人たちで、会場は熱気で溢れました。

内容は盛り沢山でした。

22日(金)は開会式、ヘレンケラー・サリバン賞授賞式(グレース・チャン氏〔香港〕が受賞)、記念講演「日本伝統医療の科学」(前筑波技術短期大学学長 西條一止氏)、特別講演「タイ式マッサージ師養成制度の現状と将来」(タイ盲人雇用促進財団理事長 ぺチャラト・テチャバチャラ氏)、カントリー・レポート13本、歓迎レセプションでした。

23日(土)は研究発表15本、実技セミナー9種、イブニング・レポート「フランスにおける視覚障害者マッサージ師の教育と業の現状」(フランス・バランタン・アユイ盲人福祉協会リハビリテーションセンター所長 フィリップ・チャザル氏)がありました。

24日(日)は、研究発表7本、ミニ・シンポジウム「沖縄プロジェクトの成果と課題」、筑波技術大学国際シンポジウム「アジアにおけるマッサージ教育の課題と展望」、閉会式、送別レセプションがありました。

最終日25日(月)は、アジア視覚障害者マッサージ指導者協議会(AMIN)設立準備会議が開かれました。経過説明の後、事業計画案、意見交換がなされ、最後にアピールが読みあげられました。またセミナーと並行し、鍼灸・電気治療器・書籍などの展示販売、市民向けにアジアのマッサージ体験コーナーも設置され、多くの人たちで賑わいました。

記念講演・特別講演

西條氏の記念講演は、人間が立つこと・横になることが、循環器・呼吸器(交感神経・副交感神経)と関係し、座位で気持ち良いあん摩をすると副交感神経の機能を高めるというものでした。

特別講演では、タイの視障者の仕事は宝籤(たからくじ)売りが中心でしたが、現在はタイ式マッサージが中心であること、免許証は3種類あり、視障者は医療マッサージは認められていないこと、厚生省と労働省の2種類の認定基準があるがどちらからも理解を得られず、晴眼者との競争もあり、医療マッサージを認めさせることが大きな課題であることが報告されました。

カントリー・レポート

カントリー・レポートは、興味深いもので耳を皿にして聞きました。まだ国内の視障者マッサージ師は10数人しかいない、マッサージが一般化しておらず、道路に出てデモンストレーションをしているというバングラデシュを始め、モンゴル・カンボジア・ベトナムなどからは、指導者・学校・教科書のいずれも不足している状況が報告されました。

タイ・インドネシア・フィリピンからは数十年前から視障者マッサージが始まったこと、インドネシアでは、マッサージと言えば視障者と国民が思うほどマッサージが普及している状況が報告されました。しかし、晴眼者との競争も厳しく所得は低いようです。そのような中で、健康マッサージ(疲労快復やリラクゼーション)だけでなく、医療マッサージをしたいという要求が高まっていますが、指導者や教科書が不足しており、基礎医学からの教育システムの整備が大きな課題だそうです。

80年以上前から視障者マッサージをしている日本・韓国・中国・台湾などでは、医療あん摩を実施しており、教育システムが整備されています。日本のヘルスキーパーの存在は各国の関心を集めました。

ミニ・シンポジウム

ミニ・シンポジウム「沖縄プロジェクトの成果と課題」では、フィリピンやカンボジアなどで、沖縄プロジェクト(アジア太平洋地域の視障者マッサージ関係者を沖縄に招き、半年間で基礎医学・東洋医学・あん摩実技・経営などを指導)で研修を受けた人たちが自国に帰り、国内の課題をはっきりさせ、行動計画を立てて、視障者マッサージの改善と普及に努めていることが報告(フィリピン)されました。現在、11か国21人の研修生が各国で活躍しており、今後もこのようなプロジェクトの必要性がシンポジストからも強調されました。

沖縄プロジェクト支援ネットの中本事務局長からは、あん摩技術だけでなく、基礎医学・経営・リスク管理などについて、同じレベルで学んだ人たちが各国でがんばっていること、各科目で英語のテキストが完成したなどの成果が報告され、プロジェクト終了後のあり方、さらにはネットワーク作りなどについて討論されました。

研究発表とイブニング・レポート

研究発表は、日本・韓国・中国などから出され、多彩でした。珍しかったのは、室町時代には日本でも行われていたという足で行うあん摩の臨床報告、「月経困難症に対する足力あん摩の効果=ワン・ハン(中国)」でした。また、「経絡あん摩の診察・治療・評価=笹田三郎」「足底部の指圧刺激が腰下肢の皮膚温に及ぼす効果=和田恒彦」「あん摩療法は誰にでもできる簡単な療法か―施術者の習熟度がもたらすあん摩施術の心身への効果の違い=殿山希」など、臨床にすぐに役立つ研究も多く出されました。

実技セミナーは、私はタイ式マッサージの実際と実用新オイルマッサージに参加しました。タイ式マッサージでは、旬のものを良く食べて血液循環を整えるのが基本です。指圧が中心で、手部・足部に手技を行い、身体をリラックスさせてから治療を開始します。タイ独特の経絡に似たものがあり、独特の母指圧迫法や動脈を圧迫し血流を止め、20秒程度で手を離し、血液を一気に流す手技などは大変参考になり、ベトナムで教えている生徒たちに紹介しようと思います。オイルマッサージは、手全体に圧を加え移動させるもので、見ているだけで気持ちよさそうでした。

イブニング・レポートでは、フランス視障者の理学療法士(日本のマッサージ師といってよいもの)について報告がありました。フランスでは、学校への入学は晴眼者と比べ緩やかで法的な保護を受けているようですが、免許証は晴眼者と同じで、対等に働いているようです。やはり視障者にとって大変重要な仕事になっており、マッサージ業団体がしっかり組織されて、政府との交渉などにも力を持っています。日本も含め参考になることがたくさんありそうです。

筑技大国際シンポジウム

筑波技術大学国際シンポジウムは、座長・形井秀一筑波技術大学教授によって進められ、今回のセミナー全体のまとめとも言えるものでした。マッサージは視障者の仕事に適しています。それは、基本的に手と触覚でする仕事だからです。視障者の職業として確立するためには、マッサージ技術の底上げと視障者の雇用を拡大すること、マッサージ教育の水準を引き上げ、医療マッサージの従事を各政府に認めさせることです。助言者のグレース・チャン氏は「これらの課題を克服することは大変困難なことですが、私たちが努力を続ければ必ず実現できるでしょう。アジア視覚障害者マッサージ指導者協議会の設立が、当面の大変重要な課題です」と話を結ばれました。

AMIN設立準備会議

最終日は、アジア視覚障害者マッサージ指導者協議会(AMIN)設立準備会議が行われました。各国からの期待が高く、主催者が予定していた人数の倍の70人が参加しました。石井靖乃氏(日本財団)は、AMINを成功させるためには目的を明確にし、意見交換を盛んにすることと挨拶され、主催者からは、各国のマッサージ指導者育成、マッサージ師養成の支援、英語テキストの作製と各国語への翻訳などの活動が提起されました。参加者からの意見は主催者側で集約し、次回の会議で報告することにして、長い長い4日間のセミナーのすべてが終了しました。

さいごに

このマッサージセミナーは、実技セミナーとレセプションを除き、すべての会議で5か国語同時通訳がありました。IAVAなどの長年の努力により、多くの留学生が育ち、ボランティアとして同時通訳で大活躍しました。日本語しか分からない私にとってはこれが一番助かりました。各氏の発言を興奮しながら聞き、AMINの組織づくりが成功すれば、5年、10年後には、セミナーのテーマである「質の向上と働く場の拡大」が大きく進むと思います。そのためには、各国リーダーの主体的関わりはもちろんですが、筑波技術大学と日本財団の協力はどうしても欠かせません。また、視障者・マッサージに関連する種々のプロジェクトが情報を提供し、連携し合う関係づくりが重要だと痛感しています。

(ささきけんさく 「ニャックアン」代表教師)