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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年11月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会設立

矢野耕二

聴覚障害者相談支援業務の専門性認知をめざして

身体障害者手帳を保持する聴覚言語障害者は、全国で40万人近くいると言われています。この中には、生まれつき耳が聞こえず手話を言語として持っている人から、高齢になって耳が遠くなり補聴器の申請をした方まで、「聴覚障害」でひとくくりにしても、個々の生活実態は大きく違っています。

特に、幼少時に聴覚障害をもち、音声がほとんど入らないために、視覚で情報を得ながら人生を過ごしている人にとっては、音声言語(要するに普通の日本語)を普段のコミュニケーション手段とする一般社会で生活していくのは、大変な苦労があります。

一言でわかりやすく説明する手段を知らないのですが、もし、皆さんが中近東で暮らし始めたと仮定してください。周りは、アラビア語が飛び交っており、新聞や雑誌を見てもすべて右からなぞっていくアラビア語、そして、生活習慣も日本と全く違う、こんな中で、生活問題をどうやって解決していけばいいのか、だれに相談すればよいのか。

そして、ここは、日本です。国籍を同じくしているのに、手話を言語として持っている聴覚障害者は、音声言語(日本語)を言語として持っている日本の大多数の人と、意思疎通ができにくいのが現状です。

手話通訳を介してではない、相談支援業務を

なお、ご存知のように、最近は手話通訳者の派遣事業が充実してきており、聴覚障害者も日常生活の場面で、手話通訳をお願いしながら社会参加を実現してきています。相談支援事業でも、手話通訳をつければいいのではないかという考えが、行政の担当レベルでもかなり根強くありまます。しかし、相談支援というものは、本来通訳を通すような性格のものではなく、直接コミュニケーションをとるというのが、最低条件であるはずです。

ケースワーカーや福祉事務所などの職員の皆さんは、聴覚障害者に対して違和感を持ったことがあると思います。話が通じたような通じていないような、本当にわかっているのか、このような違和感は、コミュニケーションが直接とれないことと、生活習慣が違うことが大きな原因と思われます。

また、聴覚障害者のほうでも、言葉が通じないということは大きな壁であり、ケースワーカーや福祉事務所の職員の前では、ただただ、うなずくか首を振るかしかせず、面接が終わってろうあ者同士になったとき、堰(せき)を切ったように、手話で話し始めるという例は、枚挙に暇がありません。

こうした聴覚障害者に対して、直接手話で対応でき、本人が抱えている生活問題を解決していく努力を、専門知識を持って側面支援していくことが必要だと、2年くらい前に、聴覚障害をもつか聴覚障害者に対する相談支援を行っている社会福祉士や精神保健福祉士が集まり、聴覚障害者に対する専門的な相談支援に関する団体を立ち上げることにしました。

7/22設立総会

2006年7月22日(土)、東京都港区にあるヒューマンプラザで、40人の出席のもと、日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会の設立が、満場一致で承認されました。この協会は、聴覚障害をもつか聴覚障害者相談支援に関わっている社会福祉士または精神保健福祉士を正会員とし、この協会活動に賛同する者を準会員、そして、社会福祉士または精神保健福祉士をめざしている学生を学生会員とする、専門職能集団です。

幸い、財団法人全日本ろうあ連盟および社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会の全面的な賛同も得られ、7月22日と23日の両日開催された「聴覚障害者精神保健問題研究会」の会場をお借りして、総会を開催することができました。

今後は、倫理綱領作成、成年後見制度の研究、などを通して、聴覚障害者の相談支援についてより専門的な対応ができるように研究していきます。また、季刊ではありますが、会報も発行して、皆さんに情報提供していかれればと思っています。なお、2007年3月24日と25日には、第1回目の研究発表会を開催する予定ですので、ぜひ、協会へ入会のうえ、ご参加をお待ちしております。

一緒に活動しませんか

聞こえない人は、非常に誤解されていることが多いように思います。聞こえないために声の調整ができず、聞こえる人にとって違和感を感じる聞こえ方になったり、声を出して人を呼ぶことができないから、肩をたたいたり机をたたいたりして呼ぶために、聞こえる人はびっくりしたりします。

また、自分の悩みを聞いてほしいあまり、手話のいきおいや表情が強くなり、日本人はあまりそういうことに慣れていないため、びっくりしてしまうこともあるようです。

みなさんは聴力障害者に対して、このように思ったことはないでしょうか。

怖いのは、こうしたことが、聴力障害者の人間性の判断につながることです。そうした先入観から相談支援に入ってしまうと…。

こうした問題を、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。ぜひ、入会をお願いします。

(やのこうじ 日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会事務局長)


(設立目的)

本協会は、聴覚障害者支援に関わるソーシャルワーカーの資質の向上を図るとともに、普及啓発等の事業を行い、聴覚障害者の社会的地位向上と福祉のための専門的・社会的活動を進めることにより、聴覚障害者の福祉に関する理解の増進に寄与することを目的とする。

(事業内容)

1 社会福祉の専門支援を必要とする人々の生活と権利の擁護に関すること

2 聴覚障害者支援に関わるソーシャルワーカーの職務に関する知識及び技術の向上に関すること

3 聴覚障害者支援に関わるソーシャルワーカーの倫理及び資質の向上に関すること

4 聴覚障害者福祉及び聴覚障害者支援に関わるソーシャルワーカーに関する調査研究に関すること

5 聴覚障害者福祉向上のための情報発信と啓発に関すること

6 国内外の社会福祉専門職団体やその他の関係団体との連携に関すること

7 その他目的達成のために必要なこと

(役員)

会長 野沢克哉(聴覚障害精神保健問題研究会代表)

副会長 稲淳子(精神保健福祉士 大阪府大東市障害者生活支援センター相談員)

顧問 奥野英子(社会福祉士 筑波大学大学院人間総合科学研究科教授)

事務局長 矢野耕二(社会福祉士 社団法人東京都聴覚障害者連盟理事)

会計 一色峰与(社会福祉士 札幌市南区保健福祉課ろうあ者相談員)

理事 秋山なみ(精神保健福祉士 神奈川県立平塚ろう学校教諭)

理事 高山亨太(精神保健福祉士 筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程)

理事 原順子(言語聴覚士 四天王寺国際仏教大学教授)

理事 師岡ふみ(社会福祉士 埼玉聴覚障害者福祉会春里どんぐりの家)

監事 田中美紀(社会福祉士 社会福祉法人東京愛育苑金町学園生活支援員)

(事務所所在地)

〒150―0011
東京都渋谷区東1―23―3
東京聴覚障害者自立支援センター1階
TEL 03―5464―6058
FAX 03―5464―6059
Eメール office@jaswdhh.org
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