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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年1月号

ほんの森

『はれのちくもり』
―ピアス物語―

評者 野中由彦

作画/バベットしもじょう
樹心社
本体/1,300円(税別)
〒186-0003
東京都国立市富士見台1-7-1-5-403
TEL 042-577-2778
FAX 042-577-2758

『はれのちくもり』は、精神障害者リハビリテーションと、日本が世界に誇るコミック文化との、本邦初のコラボレーションとみた。病院で暴れ回っていた悩み多き青年が、社会就労センターピアスを利用するようになり、徐々に希望を持ち、働くことに目覚めていく。その過程でさまざまな人が登場し、物語が展開していく。

漫画だから気軽に読める。しかし、その中身は気軽なものではない。そこには、精神障害を抱えた人たちの、悶えや、叫びや、ため息や、歓喜などが充ち満ちている(それに軽いジョークやギャグも)。

その中でも、作中の「ヤンさん」の台詞がたまらなくいい。「ボクの知ってる人みんな言うね。病院も病気もキライだって。タバコ1本、ジュース1本、ゴハン1杯にケンカしながら死んでいったね。ボクその人たちのコト忘れないために絵を描くね。死んでいった人たちのたましい守るためにね。キミ、カベけるのもうやめるね。カベの向こう側で生きるコト考えるね。そしてボク、キミのこと守るね」

こういう台詞は、精神障害者の生活の実態を身に染みてわかっている人にしか言えない。これは、実在する方がモデルになっていると作者から聞いた。この作品には、実際にあることとコミックとしての虚構とが解け合っていて、独自の世界が創りあげられている。

2006年9月30日、出版記念パーティーが、作中に出てくるピアスで開かれた。70人もが集まって祝った。バベットしもじょうさんと、スタッフのインタビューコーナーというのもあった(この作品を元として音楽をバックに朗読する狂歌絶叫なるステージもあった)。この作品を世に出された形に仕上げるまでに3年かかったという。最終シーンの台詞は、最後の最後まで議論が重ねられて、出版直前に大きく修正されたりもしている。それほどに、力も気も込もっている。感度のいい読者は、その波動を感じ取られることだろう。

この作品をきっかけの一つとして、これから精神障害者リハビリテーションを物語る作品が溢れ出てくることを期待している。というのも、精神障害のある人々が集う所は、それこそストーリー(原作)のネタがいっぱいだと思うからである。その意味でも、この作品は、後の世に、その扉を開いた画期的、歴史的作品として評価されるようになるかもしれない。

(のなかよしひこ 障害者職業総合センター主任研究員)