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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年2月号

東京都荒川区における独自の利用者負担軽減策

荒川区


荒川区の概要

(平成18年12月1日現在)

面積:10.20km

人口:191,479人

障害者:精神障害者保健福祉手帳所持者数 692人
   :身体障害者手帳所持者数 6,479人
   :(知的障害)療育手帳所持者数 853人


1 区独自の軽減策導入の経緯

障害者自立支援法が平成18年4月に施行され、平成18年10月から本格的に実施となった。国では、障害者自立支援法の着実な定着を図るため、利用者からさまざまな意見を受け、平成18年度補正予算で、事業者に対する激変緩和措置を行い、平成19年度予算では利用者負担の新たな軽減策を予定しているところである。

この背景には、障害者自立支援法により応能負担から定率負担となり、これまで以上に利用者の負担が大きくなったことが要因の一つと考えられる。

現在、障害福祉サービスを利用する場合、原則1割の利用者負担が発生する。支援費制度から自立支援へと制度が変わったが、在宅サービスの利用者にとっては、負担のみ増えた形となった。

荒川区では、障害者団体から、利用者負担の軽減について強い要望を受けるとともに、利用者の実態が、1.収入の認定範囲を本人から同一世帯に拡大しているが、家計の実態はこれまでと何ら変わらないこと、2.今まで利用者負担がほとんど無料であったことを踏まえると、国及び都の利用者負担軽減策では不十分であり、家計に与える影響が極めて大きいことから、区としても何らかの対策を行う必要があると判断した。

荒川区長は、就任以来、「区政は区民を幸せにするシステム」であるとのドメインを掲げ、荒川区が障害のある方もない方も、すべての区民の笑顔と笑い声で満ちあふれ、区民一人ひとりが幸せを実感できる街となるよう、全力で区政運営を行っているところである。

こうした区長の障害者福祉に対する信念と区議会のご支持を受け、区独自の軽減策を導入した。

2 荒川区の利用者負担軽減策

(1)在宅サービス利用者への負担軽減

軽減策については、東京都でもホームヘルプサービスの利用者負担を10%から3%に軽減する独自の軽減策を実施したが、対象が低所得1と2の住民税非課税世帯だけであるため、半数以上の世帯にとって負担軽減が受けられないのが実態である。特に、収入の認定範囲が本人から同一世帯に拡大したことにより、支援費制度においては、ほとんど無料であったサービス利用者が有料になった。

荒川区の軽減対象
図 荒川区の軽減対象拡大図・テキスト

さらに所得に応じた4つの区分(生活保護、低所得1、低所得2、一般)のうち、課税世帯である「一般」世帯への占める割合が決して少なくないことが、利用者負担の変化のシミュレーションを行った結果判明した。たとえば、家族と同居している20歳以上の利用者の場合、所得区分が「一般」世帯となる。しかも、この世帯が多いことから、区としては、全部の世帯に対する軽減策を実施しなければ効果が薄いとの判断で「一般」まで拡大し、利用者負担の軽減を行った。

利用者負担の変化シミュレーション
〈知的障害者更生施設に通所する場合:月22日(現行事業費:158,800円)〉

負担区分 自立支援法施行前 18年4月~ 区軽減後
食費 定率負担額
生活保護 0円 5,060円 0円 5,060円 2,530円
低所得1 0円 5,060円 15,000円 20,060円 7,294円
低所得2 0円 5,060円 15,880円 20,940円 7,294円
上記以外 0円 14,300円 15,880円 30,180円 11,914円

具体的な軽減策の内容としては、

1.在宅サービス(ホームヘルプやショートステイ、在宅からの通所施設利用など)利用者には、期間限定(平成20年度まで)であるが、利用者負担10%を3%に軽減した。

2.通所施設利用者に食事を提供した場合には、期間限定(平成20年度まで)で食費を国の想定額の50%に軽減した。

3.全身性障害者など在宅サービスを多く利用する障害者に対し、月額負担の上限額を50%に軽減した。具体的には、国が定めた低所得1(15,000円)、低所得2(24,600円)、一般世帯(37,200円)に適用し、それぞれ、7,500円、12,300円、18,600円と上限額をそれぞれ50%軽減した。この上限額の軽減策は継続的に対応するということで、期限を設けていない。

前記の軽減策を実施することにより、たとえば知的障害者更生施設に通所している低所得2(障害基礎年金1級相当)の利用者の場合、食費を含めての利用者負担は、月20,940円の負担になるところ7,294円に減額され、負担はおおむね3分の1程度になった。

(2)地域生活支援事業の軽減策

平成18年10月から、障害者自立支援法に基づき、区が創意工夫をこらしながら事業を展開する「地域生活支援事業」がスタートした。

荒川区では、次の事業について軽減策を行った。

1.コミュニケーション支援事業(手話通訳派遣事業)

聴覚、言語機能、音声機能、その他の障害のため、意思疎通を図ることに支障がある障害者に、手話通訳等の方法により、相互に意思疎通を仲介する手話派遣を1人月10回まで無料とした。

2.日常生活用具給付等事業

重度障害者に対し、自立生活支援のために日常生活用具を給付または貸与の利用者負担は、所得税の課税金額に基づく応能負担とした。

3.移動支援事業(ガイドヘルパー派遣事業)

屋外での移動が困難な障害者等について、外出のための支援を行うことにより、地域における自立生活及び社会参加を促す移動支援事業の利用者負担は無料とした。ただし、必要時間については、区のケースワーカーの調査により必要量を決定する。

4.訪問入浴サービス事業

家庭において入浴することが困難な重度の心身障害者に対して、巡回入浴車を派遣し、入浴の機会を提供することで清潔の保持及び健康維持を図る事業についても利用者負担は無料とした。

3 これからの障害者自立支援

区独自の軽減策が新聞の全国版に掲載されてからの反響が大きく、全国の自治体や議会からの問い合わせ、視察があった。また、自治体等とは別に障害者団体からの視察もあり、多くの団体から賛意が寄せられたことが、当区の軽減策の意義を表していると考える。

現在、荒川区では、障害者の高齢化、障害者の介護にあたる家族の高齢化、障害の重度化、中途障害者の増加等、障害者自身の状況も変化している中で、障害者一人ひとりが、住み慣れた地域の中で、生き生きと安心して暮らし働き続けることができるよう、きめ細かい多様な施策に取り組んだ障害プランの構築を目指しているところである。

これからも、障害者自立支援法が、利用者にとって利用しやすいように、区としてもさらなる制度の定着に向けて実施していきたいと思っている。

(荒川区福祉部障害者福祉課)