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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年2月号

障害者自立支援法に伴う自治体独自軽減施策についての調査報告

赤松英知

1 はじめに

2006年10月31日、東京の日比谷公園には「出直してよ、障害者自立支援法(以下「自立支援法」)」の声が響き渡りました。全国から集まった1万5000人の「応益負担は中止してください」という願いは、障害者運動の歴史上、最大のフォーラムを実現し、厚労省と国会に迫ったのです。それから約2か月が経った12月26日、国は1.利用者負担のさらなる軽減、2.事業者に対する激変緩和措置、3.新法への移行等のための緊急的な経過措置の3点にわたって、大幅な改善策を示しました。10月1日の全面施行からわずか3か月弱の段階でのこうした動きは異例中の異例と言っていいでしょう。これも、応益負担がもたらす耐え難い痛みに対する、当事者と関係者の必死の訴えの成果です。

しかし、この改善策をもって矛盾が解消されたかというと、決してそんなことはありません。改善策は「法の枠組みを守りつつ、3年後の見直しまでの措置として」講じられており、換言すれば、応益負担の枠組みを堅持したままの期限付き措置に過ぎないのです。一部に「国も改善策を示したのだから、もうよいではないか」という向きもありますが、当事者と家族の不安が払拭されたわけではないのですから、今後の動向を注視すると同時に、応益負担の撤回を求める動きはさらに強めていかねばなりません。

きょうされんは、一貫して応益負担は撤回するべきだという立場で発言をしてきていますが、併せて、自立支援法の矛盾を示す客観的なデータを重視する立場から、いくつかの調査に取り組んできました。その中で今回は、応益負担の激痛を少しでも和らげるために、全国の地方自治体が独自で行っている負担軽減施策の実態についての調査結果の一部を報告するとともに、そこから見えてくる今後の課題について考えることとします。

2 調査の目的、方法

自立支援法によって2006年4月から、制度に基づく支援を利用した場合に費用の1割を自己負担とする応益負担が導入されましたが、その前後から、全国各地で大幅な負担増を苦にしたと思われる親子心中事件が、例年にないペースで報道されるようになりました。また、応益負担による負担を少しでも減らすために、必要な支援の利用を辞退するケースも多数報告されるようになり、問題は日を追うごとに深刻化する感があります。

厚労省は2006年10月の全面施行に至るまで、こうした実態を正しく把握することなく、「十分な負担軽減措置を講じているので無理な負担にはならない」という立場を崩しませんでしたが、全国の地方自治体では当事者と家族からの訴えを受けて、負担を少しでも減らし地域生活の後退を防ぐために、独自の負担軽減施策を設けるところが見られるようになりました。

こうした動きの広がりは、障害のある人やその家族の実際の負担を減らすという点で大いに評価できると同時に、軽減施策のある自治体とない自治体を生むことになり、結果として自立支援法が目指している地域間格差をなくすという方向とは逆の方向へと進んでいるのではないかと指摘されています。

そこできょうされんでは、全国1840の市区町村を対象として、独自負担軽減施策の実態を把握することとしました。調査期間は2006年10月26日~11月28日で、政令指定都市、中核市、特例市、一般市、特別区の計802自治体には郵送で、町村の1038自治体にはFAXで調査を依頼し、1075市区町村(58.4%)から回答を得ました。返信のなかった765市区町村についても「前回調査(2006年5月31日に発表)と変更のない場合は返信不要」「独自施策を未実施の場合は返信不要」としたため、有効回答としています。

3 調査結果の概要

(1)義務的経費給付事業関連

まず、国が義務的経費事業として実施する訓練等給付事業と介護給付事業の負担軽減措置について見ることにします。

これについては、国の制度としても一定の軽減措置がありますが、それとは別に自治体独自の軽減施策をもつ市区町村は411か所(22.3%)、検討中のところは103か所(5.6%)でした(グラフ1参照)。前回調査から約半年が経過しており、実施市区町村は168か所(9.4%)の増加です。その後、市区町村の12月議会でも新たに軽減施策を確定したところもあるので、その数はさらに増えているものと思われます。

グラフ1 何らかの独自軽減施策をもつ市町村の割合
円グラフ 何らかの独自軽減施策をもつ市町村の割合拡大図・テキスト

京都府ではすべての市町村が何らかの軽減施策を実施しており、次いで愛知県が77.8%、神奈川県が74.3%の自治体が実施しています。逆に、この時点で軽減策を実施している市町村が1か所もなかったのは、岩手県、山口県、佐賀県でした。また、関東・中部・関西地方では実施比率が高く、東北・四国・九州地方では低いという傾向が見られました。

次に、事業別の実施状況をグラフ2に示します。これによると、福祉支援の利用者負担軽減策のある市区町村は213か所(11.6%)でした。その内訳は、市区が75.6%、町は23.0%、村は1.4%と、ほとんどが市区に集中していました。この利用者負担軽減策の実施比率が高いのは東京都、京都府、神奈川県で、逆にこの時点で実施している市町村が全く無かったのは青森、岩手、群馬、山梨、山口、香川、佐賀、長崎の8県でした。

グラフ2 義務的経費給付の事業別軽減施策の実施状況
棒グラフ 義務的経費給付の事業別軽減施策の実施状況拡大図・テキスト

また、障害者自立支援医療の精神通院医療への軽減策も213市区町村で行われていましたが、この時点でこれの実施市町村が全く無かったのは青森、岩手、三重、滋賀、山口、徳島、高知、佐賀、熊本、鹿児島の10県でした。

(2)裁量的経費事業関連

次に、市区町村が実施する地域生活支援事業のうちの必須事業の利用者負担について見ることにします。なお、裁量的経費事業については今回が初めての調査ですので、回答のあった1075市区町村についての報告ということになり、回答のなかった765市区町村は有効回答とはしません。

この裁量的経費事業については、自立支援法上は利用者負担の規定はありませんが、今回の調査によって、ここにも応益負担が導入されていることが鮮明になりました。必須事業(相談支援、コミュニケーション支援、日常生活用具、移動支援、地域活動支援センター)において1事業でも応益負担を導入したのは969か所(90.2%)にも及びました。いずれの事業も自己負担なしと答えたのは、青森県風間浦村、長野県原村、岐阜県白川村、愛知県北名古屋市、京都府亀岡市、鹿児島県さつま町の6か所(0.5%)にとどまっています。逆に、すべての必須事業で「1割負担」と答えたのは9市町村(0.8%)でした。

事業ごとの特徴を見てみると、相談支援事業では95.3%、コミュニケーション支援事業では89.1%の市区町村が「負担なし」としているのに対し、日常生活用具給付事業と移動支援事業では82.3%が「1割負担」と答えています(グラフ3参照)。また、日常生活用具で「1割負担」と答えたところの約9割が、移動支援においても「1割負担」と答えるという相関関係が見られました。

グラフ3 日常生活用具給付事業の利用者負担の有無
円グラフ 日常生活用具給付事業の利用者負担の有無拡大図・テキスト

地域活動支援センターについては、「負担なし」が444か所(41.3%)なのに対して、「1割負担」が208か所(19.3%)、「応能負担」が7か所(0.7%)、その他271か所(25.2%)などとなっており、最もばらつきが見られる結果となりました。「その他」と答えた中には、備考欄で細かな利用者負担のあり方を記入しているところが多く、何らかの負担が生じているところがほとんどでした。

4 まとめ

(1)自治体間格差の広がりが鮮明に

今回の調査によって、義務的経費給付事業については22.3%の市区町村で何らかの負担軽減施策があり、約半年の間に9.4%増加していることが分かりました。そして、今後もこの傾向は広がる可能性がありますが、今般の国の改善策が全面実施される2007年4月の段階で市区町村がどのような判断をし、それが独自負担軽減施策にどのような影響を及ぼすかが、今後の大きな注目点になります。

いずれにしても、現段階では、独自の負担軽減施策をもつ自治体ともたない自治体の間では、自立支援法の目的とは逆に、利用者が享受する施策の水準に格差が広がっていることが鮮明になったと言っていいでしょう。それぞれの自治体では当事者や関係者の訴えに耳を傾け、応益負担が暮らしにもたらす負の影響を薄めるために軽減施策を設けたわけですから、この格差の要因が応益負担にあることは明らかです。今般の改善策のように、いくらかの手直しを繰り返したとしても、応益負担の枠組みが残る限り、この傾向は続くでしょう。

(2)地域生活支援事業における応益負担の広がりについて

一方、市区町村が実施する地域生活支援事業に関しても、法的には義務でないはずの応益負担が広がっている実態が鮮明になりました。その理由は「他の福祉サービス(応益負担が義務付けられた義務的経費給付事業を指す)との整合性を取るため」と説明されますが、日常生活用具や移動支援といった応益負担の比率の高かった事業は、いずれも障害のある人には不可欠な支援です。各自治体においては機械的に整合性を図るのではなく、当事者及び関係者の声をさらに受け止め、この点を改善することが求められています。同時に、国においては自治体が十分な施策を実施できるだけの財源保障を本格的に行う必要があります。今般の改善策にも地域生活支援事業への追加の補助金が盛り込まれましたが、これで幕引きということではなく、引き続き実態を把握し、必要な施策を講じていくことが求められています。

(3)自治体独自施策の役割

以上のことから、自治体による独自軽減施策には二つの役割があると言えます。一つは応益負担による実害を薄めるという役割で、これは当事者と家族の暮らしを考えれば待ったなしに重要な側面です。そしてもう一つは、自立支援法とりわけ応益負担の問題点を、より現場に近い地方から告発するという役割です。今般の国の改善策に関しても、自治体の独自軽減施策の広がりは少なくない影響を与えたはずですが、応益負担の枠組みが残る限り、この告発は続くことでしょう。

(あかまつひでとも きょうされん常任理事・知的障害者通所授産施設第2つくしの里(福岡県田川市)施設長)