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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

予算の概要を見て

障害者自立支援法円滑施行特別対策および19年度予算の概要を見て

加藤真規子

1 障害者自立支援法の位置づけ

障害者自立支援法の真のねらいは財政負担の軽減である。この制度では障害者は自立することが阻害され、ますます小さくなった社会保障費を障害者同士、障害者と事業者で奪い合う構図が明白になってきた。また障害者自立支援法では原則1割の定率負担の応益負担制度が導入され、新たな利用料負担が発生した。障害者自立支援法の顕著な問題点はこの応益負担制度である。そして評価される三障害統合の内容は、立ち遅れていた精神障害者の福祉サービスを身体・知的障害の水準に引き上げるのではなく、精神障害者の福祉サービスの基準に他障害を引き下げてしまった。

さらに、障害者自立支援法は「自立」の概念を、1981年の国際障害者年以前の、わが国の高度経済成長期の1970年代の「就労自立」に逆行させてしまった。訓練等給付における新施設体系は就労可能者・希望者と地域生活支援を希望する者を差別しているし、事業者が何人雇用に結びつけることができたか、いかに高い工賃を利用者に支払うことができたかで運営費に格差がつく。

2 退院支援施設について

社会的入院は社会的排除であり、長期入院により起きる施設症は精神病院や施設では治すことができないことを、一番明確に示したのが、ノーマライゼーションの思想である。脱施設化が目指すのは、地域社会に対等な人間関係を築くことである。障害者がどのような特性を持つかではなく、周囲がその特性にどのような意味を与え、関わるかが問われる。

厚生労働省が2003年から2004年にかけて開催した精神障害者地域生活在り方検討会では、大阪府から始まった退院促進事業のような長期入院者の社会復帰意欲を促す仕組み、市区町村を中心とした地域生活支援体制、利用者への情報提供と質の評価等の具体的な提案が示された。にもかかわらず医療費削減と病床削減のために、社会的入院者を減らす手立てとして、厚労省が地域移行型グループホームを提案してきたのが06年4月であり、退院支援施設を提案してきたのが5月であった。退院支援施設についてはパブリックコメントにおいても8割の人が反対しているが、厚生労働省は2007年度実施の構えを崩していない。

3 「私の人生の主人公は私自身である」ことを支援するシステムの重要性

精神障害がある人々が人権を確立して、地域生活を形成するためには、何よりも生活の主体者として自らの権利を認識して主張していくこと、自らの意思によりサービスを選択し自己決定することを支援することが重要である。まさに「ピアサポートの強化」を推進することとは、精神障害がある人々の自己決定を真に尊重し、「私の人生の主人公は私自身である」ことを支援するシステムが必要である。

長い間、保護者制度のもと精神病院や施設での生活を強いられたり、夥しい数の欠格条項が社会的保安処分の機能を果たしている地域社会で息をひそめるように生きてきた精神障害がある人々は、人生の大切な時間をわが国の隔離収容主義の精神保健福祉政策に奪われてしまったといっても過言ではない。そのうえ極めて劣悪で受動的な環境に置かれてきたために、自らの感情や希望や目標が明確化できなくなっていることが多い。それゆえに精神障害がある人々が重い無力感に悩みながらも、ピアサポートやピアカウンセリングの場で、自らの主張や視点を積極的に発言し、その声を聴き、受け止める活動は、大変意義深い営みであり、その極めて日常的で平凡な営みこそ、権利主張・権利擁護の基盤となる。

4 障害者自立支援法円滑施行特別対策および19年度予算の概要を見て

筆者は25歳の頃、埼玉県のやどかりの里を中心に開催されていた共同住居で暮らす人々やその支援者の全国交流集会に参加していた。あの当時から今日まで精神障害者の当事者活動の悩みは、「活動の活性化」と「経済基盤の脆弱さ」であることに変わりがない。当事者活動は生活保護を受けてやるか、比較的経済的に恵まれている当事者しかできないという現実が続いている。活動資金を助成せずに「当事者活動は無力である」と決めつけるのはあまりにも不当である。

もし行政が「ピアサポートの強化」を本気で考えるのであれば、「パソコン教室を行う場合のパソコン購入」などのためではなく、一にも二にも人件費を保障すべきである。当事者活動に安定した活動が行えるだけの予算をつけて実践させてから、実力を評価するのが正当であろう。

一方、精神障害者退院促進強化事業も専門家養成や基礎理解の研修にとどまっている。社会的入院の人々が退院して安心して暮らせる社会環境を整備するためにこそ予算をつけるべきである。つまり社会環境を変え、当事者の社会参加と自己決定を促すための予算こそ、必要としているのである。ところが障害者自立支援法をはじめ、日本の社会制度には根本的にその視点が欠落している。翻って「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に関する医療体制の整備」を見ると、150億円もの予算がついている。隔離収容主義だけが一層強固になっていくのかと慄然とする。

(かとうまきこ NPOこらーるたいとう代表)