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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

予算の概要を見て

「未来を創るために」
~平成19年度障害保健福祉関係予算を見て~

伊藤あづさ

昨年9月2日、地元仙台で「発達障害者支援法に未来を創る討論会」を開催した。「発達障害支援を考える議員連盟」に加盟してくださっている先生方にもご参加いただき、国政報告とともに保護者の声に熱心に耳を傾けていただいた。来年度の予算編成作業が進んでいる時期でもあり、「今ならまだ間に合う」との想いから、他障害との違いから来る「特化」した支援が必要であることを丁寧に説明し、理解を求めた。

あれから半年。何か「変化」は起きているのだろうか。「未来」は見えるようになってきたのだろうか。その答えが平成19年度障害保健福祉関係予算(案)の概要として示され、ほぼその概要を踏襲する形で2月初旬から中旬にかけて宮城県・仙台市では来年度予算が首長から発表された。その内容については後述する。

我々発達障害児・者の保護者は、年明け早々に「発達障害 支援を拡充」という大きな見出しで、学校現場を中心としたお金を伴う支援策が検討されていることを、新聞各紙の記事を通して知り、期待に胸を膨らませた。特に、支援員増配に繋がる予算が概算要求時に計上されたということ、教育行政における発達障害児への措置予算が大きく増額されたことは、「共に学ぶ」ための環境整備が整わない現実(特に人的サポートによって解決できる課題が「個」への対応が実現しにくいために未解決のまま推移してきたこと)が、少しでも良い方向に開かれることを期待するのに十分であった。

また、平成19年度障害保健福祉関係予算(案)の概要を観(み)ると、「発達障害者支援施策の拡充」として9.6億円が計上された。障害者自立支援法絡みの全体枠9,004億円から見ればその割合は貧弱なものである。しかし、発達障害者支援法が施行する前は対象外であった「見えない障害」である私たちの子どものために「光」が当たり、国としての支援を具体化させる財源が確保されたことは大きな前進と考えたい。

大切なのは、こうして計上された財源をいかに有効活用し、地域での安心した生活の実現に繋げるかを、市民の立場として監視し、評価する視点である。

では、実際にこれら国で構想された予算は、生活基盤である個々の「地域」で、本当に役に立つ運用が叶うのだろうか?

発達障害者支援法は、成立時3年の見直しが前提にあり、当初から地域間格差が鮮明に映し出される法律であることが懸念されていた。さらにほぼ同時期に障害者自立支援法が施行され、この法律の対象とならなかった知的な遅れを伴わない発達障害児・者にとっては、この発達障害者支援法の条文一つ一つに具体的に示された支援策に自立への拠り所を求めたものの、実際、具体的な施策は全国的に進んでいない。

こうした中、発達障害者支援施策が「拡充」されそうな雰囲気を数字の上からは伺い知ることができる。しかし、何よりも財源の主たるものが「地方交付税」であること。そして市町村事業の色合いが強いことに大きな懸念を感じる。このことは、県や政令指定都市、市町村での担当部局と担当者が、いかに発達障害者が日常的に抱える生活上の不自由さを理解し、新しい法律を活かし、重点施策として取り組む気概を有しているかという「姿勢」に依存せざるを得ないことに起因する。

以下に、私が住む「地域」を実例に現状を紹介してみたい。

仙台市は、政令指定都市として独自の予算編成を行い、また障害福祉に関しては非常に前向きに事業展開を行っている。一方宮城県においては、首長の交代もあり県の施策が大きく転換したこともあって福祉施策の予算は年々削減されている。さらに、国の「手上げ」方式の新規事業へのノミネートは県の重点課題分野でなくなった現在は、福祉事業に関してはなかなか進まない。

この行政の姿勢の違いを具体例として、平成19年2月14日現在示されたものを下表にまとめてみた。

発達障害者支援関係予算(19年度)

区別 事業概要 要求額(千円) 備考
宮城県 ○発達障害者支援センター事業費 24,000 相談・就労支援等
仙台市 ○発達障害児(者)支援体制整備事業 33,754 高機能自閉症等の発達障害者の宿泊型訓練施設関係
・発達障害児(者)自立訓練施設モデル事業(新規) 4,397
・その他の発達障害児(者)支援体制整備事業 29,357
○特別支援教育推進事業 111,122 (全事業費)
・特別支援教育教育指導補助プラン 77,177 小・中学校の通常の学級に在籍するLD、ADHD、高機能自閉症等の児童生徒の学習や学校生活を支援するため、指導補助員を配置する。人件費77,016千円、物件費161千円
・通級指導教室モデル事業(新規) 7,194 LD、ADHD、高機能自閉症等の児童生徒を対象とする通級指導教室の指導内容、方法、教室運営の在り方について検討するとともに、モデル校での実践的研究を行うなど。

※県の教育庁関係予算産では、国の事業の「特別支援教育体制推進事業」関連で加配の教員の人件費等か盛り込まれているとのこと。

さてさて、この数字をご覧になって読者の皆様はどう感じたであろうか?県も市も、3月議会を経なければ確定されない予算ではあるが、同じ県内にあっても、行政区分の違いにより今流行の「格差」がマザマザと現れてしまったようには感じないだろうか?全国で比較をすることができれば、なお地域間格差は鮮明になることであろう。

「公平な未来を創る」ことが、障害者のみならずすべての国民が「安心して」生きていくためには不可欠であることを、予算編成の担当各位には重要な視点として持っていただきたい。

(いとうあづさ NPO法人みやぎ発達障害サポートネット常務理事)