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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

予算の概要を見て

応急的な対策から、根本的な見直しへ

増田一世

やどかりの里と障害者自立支援法

やどかりの里は、精神障害のある人の地域生活や働くことを支援する団体である。さいたま市内に3か所の障害者生活支援センター、小規模作業所5か所、小規模通所授産施設、通所授産施設、精神障害者福祉工場、援護寮(生活訓練施設)各1か所を配置し、グループホーム、ケアホームに入居する人、アパートでの単身生活を送る人、家族と同居している人など、214人の精神障害のある人の支援を行っている。

やどかりの里では、障害のある人、家族、職員が共に情報を共有し、障害者自立支援法のもつ大きな課題について話し合い、問題の改善を求めて行動してきた。そして、2006年5月から6月にかけて、やどかり情報館(精神障害者福祉工場)の一事業であるやどかり出版では緊急出版「これでいいのか障害者自立支援法」3部作注)を出版し、障害者自立支援法の課題について現場から発信してきた。多岐にわたる課題については、その3冊に譲るが、もっとも根幹にある問題は、介護保険との統合を視野に入れたとも思える「定率負担」(応益負担)にあると考えてきた。

堤防決壊の危機に慌てて対応策

さて、本格施行からわずか2か月での障害者自立支援法円滑施行特別対策は、異常気象で発生した台風のような自立支援法が、多くの人たちの暮らしやいのちを削ってしまう危険性に慌てて、堤防決壊を応急的に防ぐための(2年間の期限付き)対応策だ。

厚生労働省は、成立時には繰り返し、安心・安全と説明していた利用料の負担軽減の仕組みだったが、今回「利用者負担の更なる軽減」が大きな目玉となり、安心・安全は絵に描いた餅であったことが露呈した格好だ。全国の関係者の切実で緊迫した声が、与党議員の元に届いた結果であろう。

退所を考えていたり、利用抑制や利用料を滞納せざるを得なかった人たちには、ほっと一息つく緊急支援対策にはなるだろう。しかし、定率(応益)負担がもつ根本課題は何ら解決したものではなく、2年間限定の一次しのぎにすぎないことを忘れてはならない。

三障害一元化の幻

精神障害の分野では、利用料負担とワンセットで導入された日割り制度の問題が深刻だ。2006年4月から利用料負担の始まった知的障害のある人の通所施設などでは、土日の休みが減ったり、夏休みや正月休みが短くなったり、多少の体調不良でも施設に迷惑をかけるから無理に通所するといった状況が広がっている。日割り制度による減収で、施設の経営が成り立たなくなるからだ。今回の対策では、事業者に対して、旧体系における激変緩和措置だけではなく、新体系移行時における激変緩和措置として、従前の報酬単価の90%を保障することになったが、その激変緩和措置の対象施設から精神障害者社会復帰施設は外れている。運営費補助金(いわゆる箱払い)による施設運営から、日割り制度になるわけで、最も大きな変化、減収が見込まれるはずなのにだ。

精神障害のある人は、精神疾患という慢性疾患をもっているため、体調の変化があり、疲れやすい。健康を守るためには、体調変化に合わせて、働き、活動する必要がある。円滑な移行をと掛け声がかかるが、精神障害のある人と日割り制度はなじまないのである。法案審議の段階で、三障害一元化と、障害格差が是正されると喧伝されたが、これもまた叶わぬ夢、一時の幻であった。

自立支援法の改善運動をバネにして

精神障害のある人たちが、身近な地域で利用できる福祉施設は余りにも少なく、医療的ケアにとどまるか、家族が必死に生活を支えている場合が多い。立ち遅れている地域での支援態勢を整えて、はじめて三障害一元化の道が開けるのではないだろうか。

平成19年度予算を見ると、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に関する医療体制の整備に150億円の予算が計上されている。医療と福祉のバランスが大きく崩れている精神障害のある人への施策であると指摘せざるを得ない。

しかし、さいたま市内では、精神障害のある人たちが、自立支援法の改善に向けて声を上げ始め、行動している。さいたま市議会への障害福祉サービス、自立支援医療、補装具の負担軽減を求める請願署名活動の中で、地元ではなかなか声を上げることができなかった精神障害のある人やその家族が立ち上がったのだ。JR大宮駅や浦和駅で道行く人に声をかけ、自立支援法の課題を訴えた。厳しい状況下だからこそ、他の障害の人たちと手をつなぐこと、力を合わせることを経験している。逆風の吹く中で、新たな息吹が芽生えていることは確かだ。

(ますだかずよ 社団法人やどかりの里常務理事)

注)

増田一世他著『これでいいのか障害者自立支援法・1 障害のある人からのQ&A』やどかり出版、2006年

香野恵美子他著『これでいいのか障害者自立支援法・2 労働支援の現場から』やどかり出版、2006年

白石直己他著『これでいいのか障害者自立支援法・3 生活支援の現場から』やどかり出版、2006年