音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

1000字提言

知的障害児・者医療におけるノーマリゼーション

市川宏伸

最近、知的障害を伴わない“軽度の発達障害”が話題になっている。「早期診断、早期治療」がスローガンになっており、診断ができる専門医の必要性が叫ばれている。それでは、これまでの発達障害、特に知的障害の医療はうまく行っていたのだろうか?知的障害児施設の医務科に勤務していた経験をもとに考えると“否”である。

この分野の発達障害の代表であった知的障害の医療を担って来たのは、精神科医と小児科医であった。精神科医の中では、子どもを担当している児童青年精神科医であり、小児科医では小児神経科医やアレルギー科医である。精神科医の多くは、統合失調症や気分障害の成人を診療する片手間として、発達障害を診察しており、小児科医の多くは感染症などの治療の合間に発達障害を診察している。行動や情動上の問題が少ない場合や併発症の治療が中心の場合は小児科が、前記の問題が中心の場合は精神科が主として担当している。専門的に発達障害ばかりを診ている医師はきわめて少数であり、専門的医療が早急に必要とされた場合も十分な対応はできていなかった。入院が必要となるような場合は特に難しい。ほとんどの精神科病院は統合失調症を中心とした治療が得意であり、発達障害の治療はごく限られた施設のみで可能である。

知的障害者も加齢とともに身体的疾患に罹患するが十分な医療を受けられる人は少ない。

一つには、福祉の側で医療を積極的に行うことが難しい状況がある。スタッフや予算の問題があり、十分な検診ができないことである。もう一つは、医療側の問題である。知的障害者の多くは「治療に協力しないし、感謝しない存在」と判断され、治療の対象からはずされてしまうことが多い。特に外科を中心とした身体科の医師にはその傾向が強い。健常者の場合にも気付くのが遅れてしまう悪性腫瘍などは、利用者が訴えないため一段と治療が遅れてしまう。しかし、早めに気付いており、治療も可能だったのに、「知的障害があるということで、治療が十分に受けられなかった」と考えられる場合もある。

知的障害があろうとなかろうと、健常者と同等の医療が受けられなければ、医療におけるノーマリゼーションとは言えない。

発達障害者支援法の検討会の中では、発達障害児・者の医療についても論議が行われた。是非、福祉の方からも医療の充実を声高に要望するべきではないだろうか?

(いちかわひろのぶ 東京都立梅ヶ丘病院院長)