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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

生まれ変わった日本の姿
-点字『平成大合併地図』刊行-

福山博

「触地図」をご存じでしょうか?視覚障害者が指で触って位置関係を知るため「凸点」や点字により作成された地図のことです。東京ヘレン・ケラー協会では、これまでも平成11年に『日本地図』を、平成12年に『世界地図』を発行して、好評を博してまいりましたが、これは点字離れが叫ばれて久しい、点字出版業界の中においては希有なことでした。

刊行の背景

旧来、視覚障害者は「情報障害者」と言われてきましたが、それは耳から入る情報以外は、点字出版所の刊行物や、点訳ボランティアが点字器で1冊ずつコツコツ手作りした点字図書以外に情報源がなかったためです。しかし、Eメールやインターネットに象徴される情報通信技術(ICT)の発達とともに、視覚障害者を取り巻く情報環境は劇変しました。現在はパソコンはもちろんのこと、携帯電話を使ってのEメールのやりとりやインターネットへのアクセスも普通に行われ、点訳ボランティアもパソコンで手軽に点訳してインターネットを介して配信しています。

ところが、地図や図形はこのICTの網の目からすっぽり抜け落ちています。というのも普通の地図を電子的に浮き彫りにしても、情報量(ノイズ)が多すぎて触地図にならないのです。そこに、触地図が強く求められる事情があります。

地図専門出版社はもちろん大手出版社から新聞社までが発行する、多彩なキャッチフレーズを冠した「平成大合併地図」が、ひところ書店で平積みになっていました。ということは、視覚障害者にもニーズがあるということです。だれしも生まれ育った古里や、いま住む町がどのように変わり、空間的にどのような広がりを持つかは、気になるところだからです。

本書の構成

平成17年度をピークに市町村合併の嵐が、日本列島を吹き抜けました。なにしろ平成11年3月末に3,232あった市町村が、平成18年3月末には1,821(今年3月末では1,804の予定)に減ってしまったのです。市が670から777に増える一方で、町は1,994から846に、村は568から198に激減しました。平成11年の「合併特例法」改正などにより、平成17年3月末までに都道府県知事に合併の申請をし、平成18年3月までに合併すると、合併特例債をはじめとする財政的な優遇措置が用意された結果でした。

そこで、東京ヘレン・ケラー協会では、これらの新しい市町村を全掲する地図を中心に、平成の大合併に関する資料と新旧市町村の索引を併載し、大きく様変わりした日本列島を触読できる地図を『平成大合併地図』としてこのたび刊行したのです。

本書は、第1巻が「資料編」、第2~4巻が「地図編」、第5巻が「索引編」の全5巻で構成されており、まず第1巻の「資料編」では、「平成の大合併」により新設された市町村について、各都道府県の合併日ごとに、新市町村名、合併形態、旧市町村名、人口・面積、名称の由来などを掲載しました。

「地図編」は3分冊で、第2巻は北海道・東北・関東地方、第3巻は北陸・中部・近畿地方、第4巻は中国・四国・九州・沖縄地方の市町村地図を収録しました。

第5巻の「索引編」は50音順に、新市町村については地図編の掲載巻数とぺージ数を、旧市町村については新市町村名を掲載しました。

本書の特徴

日本全国の市区町村を網羅しているのも、平成の大合併後の市町村を掲載しているのも、触地図では本書が史上初です。索引には旧市町村もすべて掲載してありますので、自分の古里の現在もわかります。

「地図編」は、最初に日本全図、次いで都道府県の境界がわかる都道府県地図、続いて各都道府県ごとの市町村地図を掲載。地図は1ページ、あるいは見開き2ページを基本にし、見開き2ページでも掲載しきれない都道府県については、全図と分割図または部分図に分けて掲載しました。

「資料編」では、日付を追ってどのような合併が行われたかを都道府県別に、合併によって消滅した市町村、新しい市町村の人口と面積、名称の由来や郡の新設・消滅などの情報を掲載しました。

「索引編」では、50音順に掲載した新市町村に、地図編の掲載巻数とページ数・記号(省略名)を記載、旧市町村は新市町村名を記載し、同音の市町村については、新市町村名を先に、都道府県の掲載順に並べました。

点字図書の公費助成

点字図書は一般にとても高価です。これは、点字は指で触読する文字ですから、活字のように小さな文字で組むことができず、とてもかさばるためです。たとえばあのコンサイス英和辞典を点訳すると、B5サイズ100巻にもなります。また、触地図を作るには、まず下絵(地図)を描き、それを亜鉛原板に描き写し、その線を一点一点、凸点で刻印するという、気が遠くなるような手作業が必要な、まさに労働集約型作業です。

そこで従来は、点字図書も原本となる書籍と同じ価格で購入できるよう、国の制度として点字図書給付事業(価格差補償制度)がありました。しかし、この事業は、昨年10月1日の障害者自立支援法施行に伴い廃止されました。新制度下では、点字図書購入の際の公費助成は、日常生活用具給付等事業に位置づけられ、対象および給付額は、市町村が独自で判断し、対象となった場合でも利用者負担額は、実施主体の市町村の判断により決定されます。ただ、新制度への移行後も、内容を変えずに価格差補償制度の理念を尊重して、給付を行っている市町村があります。

(ふくやまひろし 社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所編集課長)

【問い合わせ】

『平成大合併地図』(東京ヘレン・ケラー協会編)、平成19年2月1日発行、A4判、定価3万5,000円(自己負担額7,000円・各自治体によって異なる場合があります)

発行は社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所

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