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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年5月号

管理栄養士・栄養士による肥満予防の取り組み

政安静子

はじめに

知的障害者施設や身体障害者施設においては、管理栄養士・栄養士による栄養管理によって健康管理を行うため、個々の食事摂取基準量(栄養必要量)を算定し、その基準量に応じた栄養量の食事を提供している。その結果、肥満への取り組みが数多くなされており、栄養指導を含めた栄養支援により生活習慣病の予防及び改善効果を示した事例が数多く報告されている。

また、ある入所施設の利用者の身体計測、血液性化学検査では、国民栄養調査結果と比較した場合、入所施設利用者の方が、肥満判定の指標であるBMI25以上の方が少なく、生活習慣病の判断基準となる総コレステロールや中性脂肪の数値においても適正な基準を示すものが多いという結果を得ている。

このことは、管理栄養士・栄養士による適切な栄養管理、栄養指導により生活習慣病の予防及び改善が期待できることを物語っている。

しかし、グループホーム、ケアホーム、福祉ホームや在宅で生活する障害者の中には、肥満、生活習慣病などにおいて食事・栄養に関する問題を抱え、支援を望んでいるケースも多い。このたび、支援施設の管理栄養士による栄養支援を調査したので、その一部を紹介する。

グループホーム等の取り組み例

グループホームの利用者は、平日の日中活動は通所授産施設や作業所などに通っており、世話人による朝、夕の食事の提供、健康管理、金銭管理、整容動作などの支援が行われているが、バックアップ施設の管理栄養士による食事・栄養支援により、肥満や生活習慣病の予防改善が行われている施設がある。

最初の栄養支援では、食事作りの参考資料としてバックアップ施設の献立を渡し、食事内容を検討していただく程度のものであったが、肥満等の改善が見られないので、月1回の世話人のスタッフ会議で、「食事バランスガイド」を活用した支援を行った。

その内容は、まず、利用者の身長、体重を把握し、仕事や日常生活を考え、必要な栄養量を満たす食事バランスのコマ数を示したものである。その後、提供している献立の内容を主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物に分類し、1日の食事バランスを確認してもらい、オーバーしたり不足したりしているところを是正するといった取り組みを行った。また、BMIの計算方法や腹囲の計測の仕方を指導し、肥満と生活習慣病の関係、「メタボリックシンドローム」の説明をしながら肥満に対する関心を持ってもらった。さらに、毎日の食事内容を記録してもらい、定期的にチェックを行った。

その結果、肥満が改善したり、代表的な生活習慣病である糖尿病が安定したりしている利用者が増加しており、管理栄養士による定期的な食事・栄養支援の必要性を感じている。

なお、平成18年11月に通所施設利用者の家庭の食事調査を実施した。その結果、簡単料理で副菜(主に野菜)の摂取が少なく、乳製品が少ない、果物が少ないなどバランスの悪いケースが多くみられ、食事への関心が薄い状況が考えられた。在宅者への栄養支援としては、施設の管理栄養士・栄養士が栄養・食生活と健康管理の関係をどのように伝え、さらにはハイリスク者の栄養ケア・マネジメントをどの程度行うか、が考えられる。そこで、施設職員全体で食事・栄養への関心を持っていただくよう支援していくことが必要である。

在宅障害者への取り組み例

入所施設利用者の栄養ケア・マネジメントが軌道に乗ったところで、新体系移行に向けて、グループホームやケアホームに対しての栄養支援の体制作り、通所施設利用者に対しての取り組みを行った。支援当初は、入所施設の献立を提示するだけの支援であったが、通所施設利用者を対象に、在宅での栄養支援を実施することにした。

入所施設で使用している栄養ケア・マネジメント様式を基に、在宅用に若干変更して栄養ケア・マネジメントを行った。栄養状態のリスクがある利用者のご家族と面談し、栄養状態に関心を持っていただき、一緒に栄養上の問題を考えるという栄養支援を行った。まず、通所施設所属の管理栄養士ではないことから、担当支援員を介してのご家族への連絡となることがほとんどであるので、管理栄養士が担当支援員に詳細な情報を提供し、栄養に関する知識を伝達しながら行った。必然的に栄養ケア・マネジメントの意味や効果を理解していただくよい機会ともなった。

なお、栄養状態の課題を栄養計画書に盛り込み、ご家族に説明し、かかりつけ医にはご家族に栄養計画書をお持ちいただき、医師への説明はご家族から行ってもらうようにした。そして、医師からの承諾を得た時点で計画を実行し、モニタリングを2週間ごとに行い、計画の継続を確認して行うということを医療機関との連携を密に行った結果、短期間(2か月)での栄養状態の改善が見られた。

在宅者への栄養支援の方法等、検討課題が多い中で、特に通所施設での栄養管理は以前から大きな課題となっていた。「通所施設は昼1食の提供で家庭での部分が大きいのに無理ではないか」「家族の理解が得られにくいのではないか」「食事調査の部分でプライバシーの問題が出てくるのではないか」等、栄養管理に関しては進めにくい意見が多かったのも事実である。そのうえ、通所施設所属の管理栄養士ではない部分での関わりの難しさを痛感していた中で、1年位前から、通所施設利用者の肥満傾向の改善を目的に、運動面での支援を行ってきたが効果が見られなかった。やはり、肥満予防には食事との関連性が高いという意識が支援員の中でも芽生えてきている。

おわりに

社団法人日本栄養士会全国福祉栄養士協議会では、厚生労働省の平成18年度障害者保健福祉推進事業等実施計画書の承認を受け、「障害者自立支援調査研究プロジェクト」を創設した。プロジェクトでは、栄養ケア・マネジメントの必要性やデイサービスやグループホーム等の栄養支援を目標に、障害者の栄養管理の基礎調査をしたうえで、2つのモデル事業調査(グループホーム・ケアホームの栄養支援調査、在宅障害児・者の栄養支援調査)を行った。

その結果、前述のような事例が報告されたが、これらのモデル事業は、「障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むこと」を目標に、栄養管理のシステム構築に役立てる基礎資料と考えている。

特に、障害者自立支援法では、障害者が地域で生活することを推進しており、障害者が地域で生き生きと暮らすためには、まず健康であることが第一である。その源となる栄養・食生活を提供するご家族への栄養支援体制を整備するために、できるだけご家族への負担にならないように、栄養支援ツール「食事バランスガイドを使った『らくらく食生活サポートマニュアル』」を作成して、活用しながらモデル事業を行ったところである。この栄養支援をきっかけに通所施設では、肥満対策の利用者に対しての栄養介入を進める方向にある。

障害者施設利用者においては、個々の食事摂取基準量に応じた3食の食事を提供したり、利用者及び支援職員を通して疾病等に応じた栄養指導をしたりしていることによって、適切な健康管理の一助となっている。しかし、グループホーム、ケアホーム、福祉ホームや通所授産施設、児童デイサービスなどを利用している地域で生活している通所施設利用者にとっては、栄養支援ができるシステムがまだ十分でないと思われる。

今後、障害者が地域で生活習慣病を予防し健康を維持しながら自立した生活をするために、管理栄養士・栄養士が栄養支援できるシステムを構築していくことが重要である。

(まさやすしずこ 社団法人日本栄養士会全国福祉栄養士協議会会長)