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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年5月号

「ふっくりあ」のフィットネス&トレーニング

奥西利江

はじめに

忍者の里・芭蕉の生誕地として知られる伊賀上野は、周りを山々に囲まれた緑豊かな盆地で、また古い町家が残る城下町です。2004年、合併により人口約10万人の「伊賀市」となりました。大阪と名古屋のほぼ中間点に位置し、工業団地の整備や商業施設等も増え、住民が日常生活を営むに必要な資源とサービスがコンパクトにそろっています。

障害福祉関係においても、社会福祉協議会を中心とした住民参加型福祉を進める中で、身体・知的・精神それぞれの障害のある人が利用できる日中活動の場や暮らしの場が、民間主導で、小さいながらもそれぞれ整備されてきました。

「ふっくりあ」って?

伊賀市の閑静な住宅街にあるひまわりデイセンター「ふっくりあ」は、企業の独身寮を改装して2003年にオープンしました。

現在は、1Fに授産施設、2Fに生活訓練・生活介護・地域活動支援センター、3Fに短期入所・グループホーム・ケアホーム、そしてヘルパーステーションの機能を併せ持つ複合施設として、障害のある人たちの働く場や生活の拠点となっています。

施設の名称である「ふっくりあ」は、「温もりや優しさに満ちた心地よい空間や雰囲気」を表すデンマーク語のhygge(フック)に由来した言葉で、障害のあるなしにかかわらずだれにとっても居心地のいい場所でありたいとの思いを込めて名付けられました。

重い人が利用するというデイサービスのイメージを一新!

ふっくりあを運営する社会福祉法人維雅幸育会の前身は、この地で暮らす障害のある人の親たちが作った小規模作業所です。1988年の作業所開設以来、授産施設を中心に活動を展開してきましたが、年齢や障害がさまざまなメンバーたちが増える中で、授産活動という枠の中だけでは、一人ひとりに合わせた活動ができない現実に直面し、デイサービス事業が始められました。

当時、授産施設にはまだ費用負担がなかったため、費用の伴うデイサービスを始めるにあたり、「お金を払ってでも利用したいと思うメニューづくり」というコンセプトでプログラムを検討しました。

私たちには、「デイサービスとは、仕事のできない高齢者や障害の重い人たちの活動の場」「世話がかかる人には費用負担が必要」というイメージを払拭したいという思いがあり、さらに、新しい形のデイサービスを始めることで、「デイサービスとは、一人ひとりの暮らしや心を豊かにする活動であり、日々の生活の潤いや生きる力を育む活動である」という持論を展開したいという思いがありました。

現在、このデイサービスは、生活訓練・生活介護の多機能型事業所「ふっくりあフウス」に移行して、その活動内容を継続しています。

フィットネス&トレーニングが中心の活動

ふっくりあフウスの活動は、1.フィットネス&トレーニング(ダイエット運動)、2.作業活動、3.休日夜間の余暇活動ですが、今回は特にフィットネス&トレーニングについてご紹介をします。

前述のように「お金を払って利用したいサービス」を検討する中で考案されたのが、当時メンバーたちの深刻な問題となっていた肥満や脂肪肝等の成人病対策としてのダイエット運動でした。また、養護学校等を卒業したばかりのメンバーたちについても、長時間の仕事に耐える体力がないことが指摘され、体力づくりが急務とされていました。さらに、世間の流れが健康志向にある中で、ダイエットと体力づくりのためのフィットネス&トレーニングが活動の中心におかれました。

当初は、このサービスを希望する人がいるかどうかを大変心配しましたが、たとえば、ダイエットを目的にするメンバーには目標体重をあらかじめ設定し、達成したら利用を終了して授産施設に戻るとか、新卒者については生活訓練と位置づけて、まず2年間程度の利用をしてもらい、その後利用を見直していく等の提案をする中で、スムーズに事業を始めることができました。

最近では、肢体不自由のメンバーのリハビリの場、就労している人の余暇活動の場としてもトレーニングルームが利用されています。

みんなでやれば楽しい!

現在14人のメンバーが、朝一番に体重測定をした後に、ルームランナー・エアロバイク・ロデオ等のマシンに乗ったり、筋力トレーニングやストレッチをしたり、近隣をジョギングするなどの運動をしています。

日課は、半日は運動、半日は作業や入浴サービスの利用としています。指導は、インストラクターの資格を持つスタッフが中心に行っていますが、ダンスやエアロビを取り入れたさまざまなメニューも考案されています。

運動を始めた当初は、運動をしたことで食欲が増進して体重が増えた人が多かったり、「汗が吹き出るほどの運動を続けられるのか」「通所するのが嫌になってしまうのではないか」等の心配や不安がありました。

しかし、3か月経った頃から、徐々にみんなの体重が減り始め、メンバー同士で「今日は減ったよ」「私は増えた~」等と楽しそうな会話が聞かれるようになりました。音楽を聴きながら、またみんなで歌いながらのメニュー等も入り、厳しい中でも楽しみを見つけての取り組みになっていきました。

一人ではしんどくて続かないけれど、一緒にがんばる仲間がいることが大きな支えと楽しみになっているようです。

健康づくりは食生活から~ヘルシー給食~

健康志向を大きな柱に据えるふっくりあの給食もまた、ダイエットを念頭においたヘルシーなものにしています。

1食分のカロリーも可能な限りダイエットカロリーに抑え、献立表にはカロリーを記入して、メンバーや家族にヘルシーさを意識してもらえるようにしています。

調理は、栄養士資格のあるスタッフが担当し、いろいろな工夫がされています。たとえば、ご飯にしらたきを加えて炊くことでカロリーを抑えたり、揚げ物は油で揚げずにオーブンで焼き色を付ける、炒め物は一旦ゆでた後で調味料と和える等です。また、ごはんと汁物は自分でよそって調整できるような配膳とし、サラダドレッシングやコーヒー等の砂糖もダイエット用のものを使用しています。

メンバーや家族にも機会があるたびに、これらの工夫を話し伝えることをする中で、食事に配慮したり、間食を減らす人が増えてきました。また、給食を一緒に食べる授産施設利用のメンバーの中にも、毎日体重だけを量ることで減量に成功する人もでてきました。自分の体重を意識すること、食べ物を意識すること、それだけで健康を保つことができるのだと驚いています。

年に一度は必ず健康診断を!

知的障害のある人たちの多くは主治医を持っていません。また、病院が怖くて拒否的なため、家族が通院に連れて行けないメンバーも少なくありません。

ふっくりあフウスは、運動中心の活動なので、メンバーたちの体の状態をよく知っておくことが大切なので、毎年、施設が費用を全額負担し、全員に血液検査や心電図も追加した健康診断を受けてもらっています。異常なしの診断が出る人が希少な状態はいまだ続いていますが、少しづつ改善されている感はあります。

健康への配慮は、「本人と家族にどのように意識を持ってもらうのか」ということがポイントです。私たちは、押し付けではなく、自然に意識ができるような、そして楽しみをも兼ねた取り組みを今後も考えて実践していきたいと思っています。

(おくにしとしえ ひまわりデイセンター「ふっくりあ」センター長)