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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年5月号

フォーラム2007

研修会
「開発と障害―南アジアのNGOから学ぶ」の報告

上野悦子

はじめに

途上国の障害者の支援については、障害に特化した支援を提供するだけでなく、開発全体に障害を課題の一つとして含めることが重要視されるようになってきました。開発に障害を組み入れることは国際的にも注目されてきています。2006年12月に採択された国連障害者の権利条約の第32条「国際協力」では、開発計画に障害を含めることが明確に示されており、また第2次「アジア太平洋障害者の十年」(2003―2012)の後半5年の戦略文書である、BMFプラスファイブの草案の中にも、新たな戦略として、インクルーシブ開発の推進に関しての項目が加わっています。

このようにインクルーシブな開発への関心が高まりを見せる中で2月11日、12日にJANNET(障害分野NGO連絡会)と日本障害者リハビリテーション協会は、「開発と障害―南アジアのNGOから学ぶ」をテーマとする研修会を共催しましたので概要を報告します。

近年、障害と開発についてはさまざまなところで取り上げられていますが、この研修会は、開発において障害の課題がどうとらえられているかについて、南アジアの視点で考えることをねらいとして開催しました。研修会の講師には、開発に取り組むNGOを支援するインドのNGOであるSEARCH代表のスティフン氏と、既存の開発組織が、開発に障害のプログラムを始めることを支援しているバングラデシュのNGO、CDD(開発における障害センター)の代表であるノーマン・カーン氏をお招きしました。

研修会は、2人の講演と参加者全員によるグループディスカッションで構成され、1日目は約90人、2日目には約50人の参加がありました。

SEARCHとCDD

スティフン氏は講演のなかでSEARCHの活動の変遷について紹介しました。SEARCHは、1975年に設立された、インドの南にあるバンガロールを拠点とする、開発を行うNGOを支援しているNGOです。開発に関心を持ちはじめた青年たちを集めて研修を行ったのがきっかけで設立され、社会環境に合わせて、災害救援から災害準備の活動へ、また女性のエンパワメントから女性の政治家となることを支援する活動へ、というように、ニーズの変化に応じてSEARCHは柔軟に対応しながら進展してきました。最近ではHIV/AIDSの問題にも取り組んでいます。SEARCHによるNGO支援は、研修やコンサルテーションによって行われています。

一方、CDDは開発組織のプログラムの一つとして障害を組み入れてもらうための活動をCBRとして行うため、バングラデシュで1996年に設立されました。CDDのCBRの特長は、CBRを実施するために独立した組織をつくるのではなく、既存の開発組織に実施してもらうことです。現在、CDDのパートナーとなって障害を活動に組み入れている開発組織の数は500にのぼると言われています。バングラデシュにある68,000の村のうち、CBRのプログラムは16,000の村落に広がっています。

カーン氏によると、バングラデシュで行われている開発のアプローチは基本的に共通しているそうです。コミュニティの課題は、コミュニティグループが決め、責任を持っています。お金の扱いにも慣れ、体制が整っています。そこに障害の問題を促進してもらうのは体制的には難しいことではありません。コミュニティグループに障害のことを理解してもらうための働きをコミュニティグループとかかわる開発組織がするようになります。そして、開発組織がCDDのパートナー団体になることによってさまざまな研修をCDDから受けています。

開発組織が障害の問題に継続的に取り組むことができるかどうかは組織そのものの力量にかかってきます。途中で続けられなくなる団体も少なくないようです。そうならないためにも、CDDはパートナーになる組織の選定には時間をかけています。そのためにマネジャーにまず研修を行い、組織が障害の問題に確実に取り組むと約束してもらうようにします。そして、コミュニティグループに障害のことを理解してもらう役割を担うソーシャル・コミュニケーターの研修や簡単な療法ができるようになるための3か月のスキル訓練を行います。

ここでまたSEARCHに戻りますが、組織のマネジメントに関する研修は、SEARCHの主たる活動領域です。SEARCHは活動のための原則を設定しています。たとえば、SEARCHの活動は役に立っているのか、現実に即したものかどうかの評価を行うこと。また、外部の環境は常に変化しているので、その変化から離れないようにすることなどです。SEARCHは組織の運営のために、外部資金は受けないことを設立当初から信条としてきました。プロジェクトのための資金を調達することはあっても組織の運営資金は自分たちで賄っています。途上国では組織の運営資金を捻出することは難しく、ドナーによって組織の方針が影響を受けることが少なくないので、運営資金は外部に頼らないというSEARCHの毅然とした態度は、私たちには驚きと新鮮さを伴なって伝わりました。NGOにマネジメントの研修を提供する前に、自分たちの組織作りもきちんと行っていると言えるでしょう。

CDDとSEARCHには共通点がいくつかあることが分かりました。一つは組織を常に発展させていることです。SEARCHは活動の原則の中に、学習する組織であることと組織の人材開発の重要さも含めています。CDDもまたスタッフの質の向上には力を入れています。ある程度教育レベルのある人を若いうちに雇い、研修の機会を提供しています。CDDはパートナー団体との関係性を大事にして支援を提供しているので、スタッフが成長することはよりよい支援を提供できることにつながるでしょう。

二つめは、SEARCHもCDDも中間組織としての役割を担っていることです。中間組織は、コミュニティで活動する開発組織とかかわりをもち、開発組織がコミュニティでよりよい活動ができることを研修の提供によって支え、もう一方で、政策提言を行うネットワークにもつながっているので、草の根レベルでの課題を政策レベルに移行することが可能になります。研修会でも中間組織の存在やその役割が注目されました。

研修会では、障害そのものから少し離れて、組織のあり様、研修の効果などにおけるインドとバングラデシュの経験に目を向けることにより、途上国で障害の問題に取り組むための重要な要素を理解する機会になったのではないかと思います。また、分野横断的な取り組みの重要性も改めて認識しました。

開発に障害を組み入れるための六つのキーポイント

研修会2日目には、初日の議論を受けて、参加者同士でグループディスカッションを行い、開発に障害を具体的に組み入れるための六つのキーポイントを抽出しました。

一つめは開発組織への動機付けです。これは開発組織が障害をプログラムに組み入れるようになるために必要な働きかけのことです。二つめは開発に障害を統合するための準備です。開発組織が障害を実際に組み入れるには、開発側と障害側の両方に準備のための働きが必要です。三つめは障害者を活動の中心に据えることです。そのためには、障害者の能力開発やリーダーシップトレーニングが必要です。四つめは継続性の確保です。特に資金面においてドナーの資金提供が適切かどうかと、受け手側の問題が改善されなくてはなりません。五つめは政府への働きかけが不可欠であることです。六つめはネットワーキングとアドボカシーです。ネットワークにつながることで政策への発言が可能になります。

終わりに

スティフン氏とカーン氏の話は多岐にわたり、ここでは一部しか紹介できませんが、他にもソーシャル・コミュニケーションの具体的な方法や研修のフォローアップなど興味深いお話がありました。今後は、開発に障害を組み入れるために必要な六つのキーポイントが、バングラデシュではどのように実践されているのかを、現場を訪ねてさらに議論を深める必要を感じています。

(この記事は、筆者個人の考えであり、組織のものではないことをおことわりします。)

(うえのえつこ 日本障害者リハビリテーション協会国際課)