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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年6月号

第2次「アジア太平洋障害者の十年」前半の国内施策の動向

寺島彰

わが国の障害者施策は、国際障害者年(1981年)以降、国際的な動きと歩調を合わせて発展してきた。「国連・障害者の十年(1983―1992年)」、「アジア太平洋障害者の十年(1993―2002年)」、第2次「アジア太平洋障害者の十年(2003―2012年)」に対して、わが国では、「障害者対策に関する長期計画(昭和58(1983)年度―平成4(1992)年度)」、「障害者対策に関する新長期計画(平成5(1993)年度―平成14(2002)年度)」、「障害者基本計画(平成15(2003)年度―平成24(2012)年度)」が策定され、それらの計画に基づき障害者施策が実施されてきた。

現在の「障害者基本計画」の重点課題は、表1のとおりであり、また、同計画の重点施策実施5か年計画(障害者プラン)では、前半5年間(平成15(2003)―平成19(2007)年度)に重点的に実施する施策とその達成目標と計画の推進方策を定めている。

表1 障害者基本計画の重点課題

1 活動し参加する力の向上

(1)疾病、事故等の予防・防止と治療・医学的リハビリテーション

  • 障害の原因となる疾病等の予防、早期発見・治療、交通・労災事故等の防止対策を推進する。
  • 障害の重度化を予防し、その軽減を図るため、障害の早期発見及び障害に対する医療、医学的リハビリテーションの提供を推進する。
  • 障害の原因となる疾病等の予防・治療、障害の軽減等に関する研究開発を推進する。

(2)福祉用具等の研究開発とユニバーサルデザイン化の促進

  • 障害者一人一人の多様なニーズに適合する各種福祉用具や機器等の研究開発を推進するとともに、国際標準によるガイドラインの策定等により障害の有無にかかわらず誰もが利用しやすい製品、サービスの普及を促進する。

(3)IT革命への対応

  • 急速に進展する高度情報通信社会において障害者の社会参加を一層推進するため、デジタル・ディバイド(ITの利用機会及び活用能力による格差)解消のための取組を推進する。
    特に、ITの利用・活用が障害者の働く能力を引き出し経済的自立を促す効果は大きいことから、その積極的な活用を図る。
  • また、障害者が地域で安全に安心して生活できるよう、ITの活用による地域のネットワークを構築する。

2 活動し参加する基盤の整備

(1)自立生活のための地域基盤の整備

障害者が地域において自立し安心して生活できることを基本にその基盤となる住宅、公共施設、交通等の基盤整備を一層推進するとともに、障害者の日常生活の支援体制を充実する。

支援体制は、障害者本人、ボランティア、地域住民の参加の下に関係機関の緊密な地域的協力により構築する。

また、障害者の自立に重要な役割を担う家族に対する支援策の充実を図り、家庭における障害者の自立への取組を支援する。

(2)経済自立基盤の強化

地域での自立した生活を可能とするためには経済的な基盤の確立が不可欠であり、雇用・就業、年金、手当等により経済的に自立した生活を総合的に支援する。

このため、IT等の活用や企業との連携による職業能力開発を強化するとともに、福祉、医療、教育など関係分野の連携による支援体制を構築することにより、障害者の働く力の向上を図る。

また、年金、手当等による所得保障を引き続き推進する。

3 精神障害者施策の総合的な取組

精神障害者に係る保健・医療、福祉など関連施策の総合的かつ計画的な取組を促進する。

入院医療中心から、地域における保健・医療・福祉を中心とした施策を推進し、退院・社会復帰を可能とするためのサービス基盤の整備を目指す。

この期間において注目される障害者施策は、次のとおりである。なお、第2次「アジア太平洋障害者の十年」前半5年間の国内の主な出来事は表2にまとめた。

表2 第2次「アジア太平洋障害者の十年」前半の国内の主な出来事

[平成15(2003)年]
3/28 特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(文部科学省)
4/1 支援費制度施行
4/1 「高齢者,身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律の一部を改正する法律」施行(国土交通省)
10/1 身体障害者補助犬法完全施行
[平成16(2004)年]
1/30 「小・中学校におけるLD,ADHD,高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」策定(文部科学省)
3/24 「学校施設バリアフリー化推進指針」を策定(文部科学省)
3/25 「心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会」報告書公表(厚生労働省)
6/1 「バリアフリー化推進要綱」決定(バリアフリーに関する関係閣僚会議)
6/4 「障害者基本法の一部を改正する法律」公布・施行
6/5 「国民年金法等の一部を改正する法律」成立
6/23 障害者施策推進チーム(4チーム)設置(内閣府)
12/1 中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(中間報告)」(文部科学省)
12/6 「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」公布
12/10 「発達障害者支援法」公布(議員立法)
[平成17(2005)年]
2/3 「歩道の一般的構造に関する基準」改正(国土交通省)
4/1 「発達障害者支援法」施行(議員立法)
4/20 第1回中央障害者施策推進協議会(内閣府)
7/1 「水防法及び土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の一部を改正する法律」施行(国土交通省)
7/6 「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」公布
7/11 「ユニバーサルデザイン政策大綱」公表(国土交通省)
7/15 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」施行
10/1 「国立大学法人筑波技術大学」設置(文部科学省)
10/31 「障害者自立支援法」成立
11/7 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」一部改正
11/9 「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について」決定(障害者施策推進課長会議)
12/8 中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」答申(文部科学省)
12/25 「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会」報告(総務省)
[平成18(2006)年]
3/28 「災害時要援護者の避難対策に関する検討会」検討報告(内閣府)
4/1 「障害者自立支援法」一部施行
6/21 「学校教育法等の一部を改正する法律」公布
6/21 「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」公布
10/1 「障害者自立支援法」全面施行
[平成19(2007)年]
「特別支援学校」設置

[平成15(2003)年]

平成14(2002)年5月22日に身体障害者補助犬法が成立し、平成15(2003)年10月1日から完全施行されている。同法では、盲導犬・介助犬・聴導犬を身体障害者補助犬と定義し、公的施設、公共交通機関、スーパーマーケットやホテルなど不特定多数の人が利用する施設において身体障害者が身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならないことを定めている。また、それ以外の事業所や住宅でも、身体障害者補助犬の使用を拒まないようよう努力することが規定された。

[平成16(2004)年]

平成16(2004)年6月4日には「障害者基本法の一部を改正する法律」が公布・施行され、障害者基本法が改正された。本改正により、基本的理念として、障害者に対して障害を理由として差別その他の権利利益を侵害する行為をしてはならない旨を規定されるとともに、地方自治体の障害者基本計画の策定の義務化、中央障害者施策推進協議会の創設、障害者の日を障害者週間に拡大するなどの改正も行われた。また、改正前の第6条にあった障害者の「自立への努力」の規定が削除された。

平成16(2004)年6月5日には、「国民年金法」が改正され、保険料の引き上げなどが行われたが、障害者政策関連では、厚生年金保険の被保険者期間のある障害基礎年金受給権者が65歳になったとき、障害基礎年金と老齢厚生年金の併給ができることとなった。それまでは、老齢厚生年金を受給するには、「老齢基礎年金と老齢厚生年金」を選択するしかなかったが、障害を有しながら働く人の厚生年金保険への加入実績を年金に反映させられるようにこのような措置がとられた。

平成16(2004)年12月3日には、議員立法として「発達障害者支援法」が成立し、12月10日に公布された。本法は、発達障害の早期発見と発達支援、学校教育における発達障害者への支援、発達障害者の就労の支援等について国及び地方公共団体の責務を明確にし、発達障害者の自立及び社会参加を促進することを目的としている。同法により、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥/多動性障害等が発達障害と定義され、これらの人々を障害者政策の対象とする今後の具体的な支援システム構築の基礎が築かれた。同法は、平成17(2005)年4月1日から施行された。

平成16(2004)年12月6日には、「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」が公布され、平成17年4月1日に施行された。本法律は、無年金の障害者の福祉の増進を目的としており、被用者年金の配偶者と学生で、国民年金加入が任意であったときに国民年金に未加入であったために、現在障害年金を受給できていない障害者を対象に年金に代わる給付金が支給されるようになった。

[平成17(2005)年]

平成17(2005)年7月6日には、「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が公布され、「障害者の雇用の促進等に関する法律」が改正された。改正の主な内容は、精神障害者に対する雇用率制度の適用(平成18年4月施行)やジョブコーチ助成金の創設など(平成17年10月施行)、精神障害者に対する雇用対策を強化したこと、在宅就業障害者に仕事を発注する事業主に特例調整金・特例報奨金を支給するなど、在宅就業障害者支援制度を創設したことである。

平成17(2005)年10月31日には「障害者自立支援法」が成立し、11月7日に公布された。同法により、これまでの施設を中心としたサービス体系が根本的に変更され、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)、児童福祉法の自立支援を目的とした共通の福祉サービスが市町村に自立支援給付として一元化された。また、地方自治体の実施する事業は地域生活支援事業とされ、市町村は、相談事業、権利擁護のための事業、手話通訳者等の派遣、日常生活用具の給付または貸与、障害者等の移動を支援する事業等を行い、都道府県は、専門性の高い相談支援事業や広域的な対応が必要な事業等を行うことになった。

平成17(2005)年11月7日には、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」が改正され、「精神分裂病」という呼称が「統合失調症」へ変更された。また、精神病院等に対する指導監督体制が見直され、精神医療審査会の委員構成、措置入院の定期病状報告の頻度、医療保護入院患者の定期病状報告の様式の見直し等が行われるとともに、改善命令等に従わない精神病院に関する公表制度等も導入された。さらに、平成18年4月から精神障害者保健福祉手帳に写真を貼付することになった。

[平成18(2006)年]

平成18(2006)年6月21日には、「学校教育法等」が改正された。それにより、平成19(2007)年4月1日から、盲学校、聾学校、養護学校が特別支援学校に一本化され、同校は、在籍児童以外に、小・中学校等に在籍する障害のある児童生徒の教育についても助言援助に努めることになった。また、小・中学校等においては、学習障害(LD)・注意欠陥/多動性障害(ADHD)等を含む障害のある児童生徒等に対して適切な教育を行うこととされた。

同じく、平成18(2006)年6月21日には、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」が公布された。この法律は、平成6年に制定された「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(ハートビル法)と平成12年に制定された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(交通バリアフリー法)を統合拡充したもので、旅客施設と一定の建築物に加え、一定の道路、公園、駐車場についてもバリアフリー化を義務づけている。また、連続的な移動空間を形成するユニバーサルデザインの考え方を取り入れている。

以上で述べた以外では、この時期、福祉機器のJIS化が著しい。基本規格として、2001年に「JIS Z8071 高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針(ISO/IEC ガイド71)」が定められて以降、2004年には、共通規格として「JIS X8341-1 高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第1部:共通指針」以降、個別規格「JIS X8341-2 第2部:情報処理装置」、「JIS X8341-3 第3部:ウェブコンテンツ」、「JIS X8341-4 第4部:電気通信機器」、「JIS X8341-5 第5部 事務機械」が次々に制定された。

(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部教授)