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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年6月号

アジア太平洋地域における視覚障害者活動の現状
―びわこミレニアム・フレームワークの行動目標に照らして―

指田忠司

1 WBUAPの概要

WBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)は、2000年のWBU第5回総会における地域区分の見直しの結果、従来の東アジア太平洋地域協議会に、東南アジア諸国のすべてが加わり、2001年9月、独自の定款を有する地域協議会として組織された。地理的にいえば、北はモンゴル、南はオーストラリア、西はミャンマー、東はニュージーランド及び太平洋に浮かぶ島嶼国に及ぶ広大な地域をカバーしている。対象地域がこのように広大なことから、WBUAPでは、地域を東アジア、東南アジア、太平洋オセアニアの三つの地区に分けて、それぞれの地区で活動を行っている。

WBUAPの総会はほぼ2年に1度開かれ、2001年に正式発足してから、2003年(シンガポール)、2004年(南アフリカ)、そして2007年(中国)と3回開催された。2004年の総会が地域外で開かれているのは、4年ごとに開催されるWBU総会の期間中に地域協議会の総会が開かれるためで、この年は南アフリカのケープタウンで第6回WBU総会が開かれたからである。

WBUAPが地域内で開いた総会では、毎回女性フォーラムが開かれるとともに、2003年の総会では、青年フォーラムとバリアフリーをテーマとするシンポジウムも開催された。そして、総会では、WBUAPの当面の行動目標を中心に起草された「声明」が採択され、各国代表が自国に持ち帰って、それぞれの活動の指針として活用している。これらの「声明」では、びわこミレニアム・フレームワークに掲げられた行動目標が十分意識されており、障害者権利条約の審議・採択・批准に関連した各国政府への働きかけの強化、職業問題への取り組み、点字の普及、情報通信技術の開発普及などが謳われている。

以下、こうした「声明」で重点項目として取り上げられ、かつ、具体的なプロジェクトとして展開されている地域内での取り組みの一端を紹介してみたい。

2 「当事者組織の育成」と強化

WBUは、各国における視覚障害者の当事者及びその支援者などの団体、約600が加盟する国際組織であるが、WBUAP加盟各国をみてもさまざまな国内組織がある。とりわけ注目しなければならないのは、視覚障害者自身がその意見を形成し、発言していくための当事者組織の育成・強化であろう。

この点に関する最近の変化で注目されるのは、中国盲人協会が2006年春に中国残疾人連合から独立したことであろう。これによって、国内の視覚障害者の声を結集する唯一の国内組織として、国際的にも承認されることになったからである。

また、モンゴルでも、従前の1国1組織の体制が見直され、昨年春から、国内の複数の視覚障害者団体の連合組織として、モンゴル盲人会連合が結成された。そして、今年4月から5月にかけて、障害者手当の支給条件を厳しくする法改正に対してハンガー・ストライキの抗議行動に出るなど、活発な運動を展開している。

こうした各国の当事者団体の動きと微妙に関連するものとして、2006年から始まったWBUの地域を越えた協力プロジェクトがある。具体的には、EBU(欧州盲人連合)の加盟組織、デンマーク盲人協会が開始したWBUAP地域6か国を対象とする当事者団体の能力育成・強化プロジェクトである。これまでのところ、モンゴル、ラオス、カンボジアの3か国について具体化されており、WBUAP理事会のメンバーがデンマーク盲人協会の担当者と協力して、各国の当事者団体との間でプロジェクトの調整と運営にあたっている。このプロジェクトは2009年半ばまで継続される予定である。

3 職業問題への取り組み

各国の歴史と経済状況の違いから、視覚障害者のための就業機会の拡大の目標は異なっているが、東アジア地区では伝統的にマッサージ業が注目されてきた。

こうした背景もあって、1991年、中国の西安で第1回盲人マッサージ・セミナーが開かれた。このセミナーは、当時の東アジア太平洋地域協議会を中心に、マッサージ業に従事する視覚障害者が多数存在する日本、韓国、タイなどの関係者に呼びかけて開かれたものだが、WBUAPが発足した後も、マッサージ委員会を中心にその後も継続されている。2004年には香港で第7回のセミナーが、そして、2006年には日本(つくば市)で第8回のセミナーが開かれている。

他方、2003年度から、JICA(国際協力機構)が「アジア太平洋視覚障害者職業自立支援事業」を開始し、沖縄県視覚障害者福祉協会など関係者の協力で、マッサージ業の指導者の研修を行っている。この研修コースには、モンゴル、中国、カンボジア、ベトナム、タイ、ミャンマー、フィリピン、マレーシア、フィジーなどから、マッサージの指導員を中心として22人の研修生が参加している。

また、民間団体でも、日本財団、毎日新聞大阪社会事業団、日本ライトハウスなどがそれぞれの資金やノウハウを生かして、カンボジアにおけるマッサージ業の育成のために事業を実施してきた。

こうした継続した取り組みを通じて、関係者間で知識と技能の交流が行われるとともに、各国の関係者間でネットワークが形成されてきている。

4 情報通信技術の普及と文化活動

ICT(情報通信技術)の発展は目覚ましく、アジア太平洋地域でも、この10年間でさまざまな変化がみられる。

まず第一に、パソコンの画面を音声で読むためのソフトウェアが、アジアの言語にも対応するようになったことが注目される。これはいわゆる音声合成技術の発達によるところ大であるが、こうしたニーズがアジアで高まってきていることを反映したものといえよう。筆者の知る限り、現在、日本語の他、中国語(北京官話、広東語)、韓国語、タイ語については画面の音声化が可能である。

第二に、視覚障害者の読書環境に大きな変化をもたらしつつあるデイジー(DAISY)の普及事業が進んでいることである。日本はもとより、韓国、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンなどの各国で、デイジーによる録音図書作成技術の普及に向けた研修会が開催されている。

さて、こうしたパソコンを中心とするICTの普及についてだが、この点については、2004年から日本点字図書館が実施しているWBUAP池田輝子ICT研修事業が注目される。この事業では、パソコンの使用法の研修を行うとともに、パソコン及び点字ディスプレイ装置などの一式を研修生に贈呈して、研修修了後もその技能を勉学、生活、仕事などに活かしてもらおうという。これまでに18人の研修生が、日本、マレーシアの両国で研修を受けている。

このほか、文化活動としては、点字の普及にも関係の深い「オンキヨー点字作文コンクール」がある。この事業については、本誌先月号に詳しい報告があるので詳細は割愛するが、英語という制約はあるものの、各国における視覚障害者の文化活動を推進していくうえでの目標の一つとして有効な試みといえよう。

(さしだちゅうじ WBUアジア太平洋地域代表執行委員)

写真提供:第8回WBUAP盲人マッサージセミナー実行委員会