音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年6月号

知りたいおしえ隊

僕の地元仙台のユニバーサルデザインを紹介します。

大久保健一

車いすでOK!ライブ好きな僕のお気に入りの店

仙台周辺のレジャースポットとして、3か所を紹介したい。

まずは仙台市街地の一角にあるライブハウスを紹介しよう。フォーラスというファッションビルの地下にある「仙台クラブジャンクボックス」だ。ここはエレベーターで店まで行けて、入口の段差には仮設のスロープを置いてくれる。ライブはすべてオールスタンディングなので、車いす目線では見えなくなってしまうことの対策として大きな踏み台を用意してくれて、そこに車いすのまま上げてもらってステージが見えやすい位置に案内してもらう。もちろん電動車いすもOKである。

ライブハウスは比較的バリアが多く行きづらいのだが、その中では珍しく仮設ではあるが、障害者にできる範囲の配慮をしてくれていてオールスタンディングの中でも一緒に楽しみやすい空間だ。ライブハウスなので、夜の9時過ぎからスタートして朝方まで通常のライブはあるし、時たまメジャーなバンドまでもライブを繰り広げる。私は早めに行って、広い空間で踊りながら、夜更けまで羽目を外してしまう。パートナーがなかなか見つからないのが最大課題である。

僕は若い頃に踊りが好きだったので、クラブやライブハウスをよく回ったものだが、階段などが多くてなかなか店まで入っていけないところがほとんどだった。しかしここでは車いすのままで入っていけるし、一緒に臨場感が味わえる数少ないスポットだと思う。お酒やドリンクを買えるカウンターバーもあり、車いすではドリンクを手渡してくれるので安心して飲むことができる。トイレは店内にはないが、同じフロアのカラオケ店に広めのトイレがあるのでそこを使用できるし、車いす用トイレを使いたい場合は、近くのホテルまで行って借りることができる。

東北最大のSPセンターはユニバーサルデザイン

2つ目は今年の2月にオープンしたばかりの僕の地元名取にある『ダイヤモンドシティ・エアリ』を紹介しよう。僕の家から歩いて10分程の近い場所にできた、東北最大規模のショッピングセンターだ。これは、JR名取駅から仙台空港を結ぶ新しい鉄道である、「仙台空港アクセス鉄道」の途中駅に隣接した開発地域の中核としてオープンした。三越とジャスコが両端に各店舗としてあり、その間に170の専門店が入っている。

3階建てのフロアで、その新しい駅ともペデストリアンデッキで接続されており、そのために作られた新しい道路に面していて、歩道は大変広く段差もないので、障害者の多くの利用が見込まれた。だから、設計図の段階から私たちは見せてもらって、ワークショップ形式で僕らの意見を取り入れてくれた。それにより、大型エレベーターやシネマコンプレックスでの車いす席の設置、休憩所のソファーはユニバーサルデザインにするなどの成果があった。

多目的トイレの分散化

今回特に良かった点は、トイレの分散化が実現できたことだ。多目的トイレはもちろん、トイレごとに1か所ずつ、一般トイレにも車いすで入れる便房が男女それぞれにあることで、多目的トイレがふさがっていても、車いすで一般トイレに行くことができる。そのことで障害者はトイレで待たされがちな状態が回避できる。ここはトイレの快適性にもこだわっており、子どものトイレやファミリートイレ、パウダールームなどが充実している。子どものトイレは敷居が低くなっており、親が見守りながらトイレのやり方を教えられるように作られている。オストメイト器具については壁に埋め込まれていて出っ張っていないことで、車いすなどでも邪魔にならないように工夫されている。

床はカーペット素材のほかにタイル地のゾーンが設けられていて、手動車いすでも走りやすくなっている。エスカレーターについては、ベルトの色で上りと下りが統一されており、知的障害者や子どもでもひと目で分かるようになっている。その他、介添え用呼び出しインターフォンや館内アナウンスと連動した電光掲示板などの工夫が細かくされている。障害者用駐車場については、専用スペースは遮断機のゲートがあり、移動困難者として登録した人に配布されるカードを持っていないと、そのスペースに入れないようになっているシステムが導入された。

僕たち当事者の意見を取り入れてくれた設計

映画館については、10のスクリーンがあり、車いす席は必ず2席以上設置されていて、場所は必ず中段の中央の見やすい位置になっている。いままでのシネマコンプレックスでは端の見にくい席が車いす席になっていたので、僕たちの要望を聞き入れてくれた結果、このようになった。入場料についても障害者と介助者2人まで、一律1000円の割引料金になっている。

その他主要の衣料品店には、車いす向けの段差のない、手すりの付いた試着室が設置されている。これほどまでにユニバーサルデザインが徹底された建物は東北地方にとって大きなインパクトであり、他の今後の設計上でのモデルケースになっていけばと願っている。いずれにしても、計画当初から私たちのような意見の多い障害当事者の参画を積極的に認めてくれて、素直に改善を聞き入れてくれた成果が、今回の建物にカタチとなって表せたことは、僕たちにとっても大きな成果だったし、勉強になったことだ。

なお、ここの『ダイヤモンドシティ・エアリ』は、仙台駅からも約15分で電車で来ることができる。

仙台空港アクセス鉄道の開通で名取市内に新たに3つの駅が開業した。僕たちも構想の段階から再三要望してきた結果、エレベーターが広くなったり、多目的トイレのグレードアップを図ることができたり、東北の中では比較的バリアフリーが進んだ鉄道となった。課題としては、ホームドアが設置されなかったことや1人駅員体制の駅があること、ワンマン運転という移動困難者にとって危険性が孕む問題が残されてしまった。

楽天ホームスタジアムのバリアフリー

最後に、東北初のプロ野球球団の楽天ゴールデンイーグルスのホームスタジアム『フルキャストスタジアム』のバリアフリーについて紹介したい。ここについては球団誕生が決まった当初から、オーナーや県に対してバリアフリーの充実を要望してきたところだ。球団発足以降、シーズンごとに私たちの提案で、県内の各障害者団体を集めて球団フロント側と、球場内のチェックと懇談会を持ってきた。それによって、具体的に改善されたか所を紹介しよう。

車いす席は50席分確保

まず、車いす用の席については、内野・外野・バックネットと両翼に計5か所あり、50席分くらいは確保されている。車いす席のチケットを買うと、介護者1人分が無料になっている。車いす席には地面に分かりやすく車いすマークとスペース番号が書いてあり、周りに手すりが設置され、安全に観戦できる。内野席については、開始当初ファウルボールによる事故があったことから、網で囲われており、ボールが飛んできても当たらないように工夫されている。その上、希望者にはヘルメットを貸し出している。内野席は初めはコンクリートの高さで、前の席の人が視野をさえぎって見えづらかったので、2年目からは、床を底上げしてもらい内野席からもグランド全体が見渡せるようになった。

次に、トイレについては楽天が来る前は老朽化した球場で、使いにくかったのだが、僕らの要望もあり車いすスペースの側には必ず多目的トイレが設置され、バックネット1階の球団事務所のそばと、3階にも予備的な多目的トイレが設置され、計7か所ということだ。すべてのトイレにはウォッシュレットと、半分にオストメイト設備が設置されている。2年目からは、バックネットのビルにエレベーターが2か所設置され、5階まで自由に行き来ができるようになった。試合を見ながらカフェにも行けるようになった。

障害者用の駐車場は地面に分かりやすく案内が書かれている。それに加えて、今年から障害者割引も導入され、車いす席に限らず障害者手帳を提示すれば当日でも入場料が割引になる。これは全国でも初めてだと思う。小さいスタジアムながら、バリアフリー化では力が注がれていると思うので、ぜひ多くの皆さんに来てもらって、まだまだ空いている車いす席を満杯にしてもらいたいものだ。

ちなみにアクセスについては、JR仙石線の宮城野原駅が最寄り駅でエレベーターなどは完備されている。ただ、仙台駅からのシャトルバスについては、ノンステップバスはほとんど無いので車いすでは利用できない現状だ。

当事者参画で小さな工夫で大きな成果

以上、仙台周辺のおすすめスポットを紹介してきたが、設計段階から障害当事者が参画したことが、小さな工夫で大きな成果につながったと思っている。だから、バリアフリー化は勝手に作らせるのではなく、設計段階の細かい所から一緒に作っていくことが完成後の改善にもつながると思う。皆さんの周りでもこのことを実践していけば、本当の意味でのユニバーサルデザインが全国に広まるはずだと思っている。

(おおくぼけんいち 障害者生活支援TIJ)