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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年7月号

1000字提言

言葉の力

光成沢美

夫が中途障害者になったとき、その妻が友人や家族に言われて嫌だった、とよく話題になる言葉がある。「あなたがしっかりしなきゃ」がそれだ。

テレビドラマだと、夫が交通事故に遭い、妻が動転し、友人に「あなたがしっかりしなきゃ」と言われて我に返る。これがお決まりのパターン。でも現実には、そんなにうまくはいかない。慰めるつもりで言っていても、タイミングと状況を間違えると、言われた相手は混乱している自分を否定されているように感じ、「だれも私の辛さを分かってくれない」と孤独感を感じてしまうことになる。

夫が障害を負ったことで、妻が混乱しているのであれば、まずはその気持ちをそのまま受け止めてあげたい。「あなたが動転してしまうのは、当然なこと」と。自分の辛さや動揺を受け止めてもらえれば、その人は自ら、「私がしっかりしなきゃ」と思えるようになっていく。

私も、障害のある夫の妻として、忘れられない悲しい言葉を言われた経験がある。夫と共に私の実家に帰った時のこと、近所に住むおじさんがわが家で酒を飲み、酔った勢いで言った。

「沢ちゃんのお父さんは、早う死んでお母さんが苦労してきたんじゃろう。のに、こんな目も見えん、耳も聞こえん男と一緒になって……」

言った本人は、悪気はないのだろう。後悔する風情もない。むしろすっきりした顔をしている。その場で反論すべきだったかもしれない。しかし、反論すればけんかになる。私の母を悲しませないために、夫は奥歯をグッと食いしばった。

その夜、夫は寝付けなかった。「あれは、内臓に食い込む言葉だった。理詰めで反論することはたやすい。だけど、たとえそうしても、この不快さは消えなかったろう」と後で語った。

私もあの言葉がフラッシュバックし、頭の中をぐるぐる回った。どうしてあんなことを言われなきゃならないの?どうして?どうして?……。その後、何かに脅かされるような、言いしれぬ悲しみを引きずった。

言った方は、何も感じない。言われた方は、怒りや屈辱を感じ続けなきゃならない。差別する方は、何もしなくても普通の生活が送れる。差別される方は、闘わなきゃ普通の生活も送れない。これが差別の構図なのだと初めて実感した。

言葉は人を元気付け、時に命をも救う。しかし言葉は時に人を傷つけ、尊厳を否定する。言葉のもつ力に敏感でありたい。

(みつなりさわみ 盲ろう者向け通訳・介助者)