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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年7月号

わがまちの障害福祉計画 東京都調布市

東京都調布市長 長友貴樹氏に聞く
「その人らしい自立した生活の充実」を目指す障害者福祉の展開

聞き手:指田忠司
(障害者職業総合センター上席研究員、本誌編集同人)


東京都調布市基礎データ

◆面積:21.53平方キロメートル
◆人口:214,480人(平成19年4月1日現在)
◆障害者の状況:(平成19年3月31日現在)
身体障害者手帳所持者 4,516人
(知的障害者)療育手帳所持者 896人
精神障害者保健福祉手帳所持者 982人
◆調布市の概況:
調布市は、東京都のほぼ中央、多摩地区の南東部に位置し、新宿副都心へ15キロの距離にある。市の中央部には、東西に走る京王線と国道20号線(甲州街道)、中央自動車道があり、これを中心として市街地を形成している。地形は、武蔵野台地の南部の位置にあり、北に武蔵野の面影を残す深大寺の森、南にゆるやかに流れる多摩川など、豊かな自然に恵まれている。また、スポーツも盛んで、神代植物公園内の総合体育館のほか、調布飛行場跡地に隣接する調布基地跡地に、平成13年3月に東京スタジアム(現 味の素スタジアム)がオープンした。FC東京と東京ヴェルディ1969のホームグラウンド。
◆問い合わせ:
調布市福祉健康部障害福祉課
〒182-8511 調布市小島町2-35-1
TEL:042-481-7111(代) FAX:042-481-4288

▼調布市と言えば、深大寺、神代植物園など、緑あふれるまちという印象ですが、調布市の特色はどういう点にありますか。

調布市は地形的には、北に武蔵野の面影を残す深大寺の森、南にゆるやかに流れる多摩川など、市は豊かな自然に恵まれています。平成16年度の調布市全域の緑被率(市域面積に対する緑被地面積の割合)は約33.2%という高水準にあります。また、調布市は、武蔵野の歴史と数々の史跡を持つ文化都市であり、電気通信大学をはじめ、桐朋学園、白百合女子大学などのある学園都市でもあります。

▼新宿から15kmということですが、都心に通勤している方が多いのでしょうか。

確かに都心に通勤する市民は多いと思います。その意味では、典型的なベッドタウンということになります。調布が市政を敷いたのは昭和30年で、当時の人口は4万5000人、現在は21万3000人ですから、50年あまりで約17万人増加しています。しかし休日などは多くの市民が市内で過ごし、それなりに自分のまちとして意識している方が多いのではないかと思います。また、最近はマンションなどの建設が盛んで若い人たちが増えており、65歳以上の人口割合(高齢化率)は全国平均を下回る約17%という水準です。

▼ところで、市長は障害のある人たちへの地域生活支援についてどのように考えておられますか。

私は現在2期目ですが、昨年7月の選挙では5つの重点施策を訴えました。その1つに「福祉と健康づくり」を掲げています。私は、個人が尊厳を持ってその人らしい自立した生活を送ることを支え、豊かに地域で生活できる社会をつくっていくことが行政の大きな役割だと考えています。また持続可能性のある社会保障制度を構築するためには、市民に一定の負担をしていただくことを一概に否定するものではありません。

しかし障害者福祉に関しては、これとは少し異なった考え方をしています。福祉サービスを利用しながら住み慣れた地域で暮らし続けるためには、所得の低い方などに対する配慮があってしかるべきなのではないかと考えています。

▼調布市における障害者施策として代表的なものにどのようなものがあるのでしょうか。

まず第1に、障害者が地域で暮らし続けるためには、サービス基盤をいかに整備するかが重要な柱になります。調布市では、訪問系の障害福祉サービス提供事業者は多く、事業者数の確保は図られていると思います。しかし、通所系の施設(旧法施設や小規模作業所)は自治体が先導的に役割を果しながら整備を図らなければニーズに応じた十分な基盤は整備できません。

その点から、調布市ではこれまでも、知的障害者の通所授産施設や通所更生施設の他、都内で初めての市立の知的障害者入所更生施設や市部で初めての知的障害者の体験型グループホームなどを設置してきました。

また、肢体不自由養護学校の卒業生などの通所先として、デイセンターまなびやという生活介護を行う施設が市内に2か所ありましたが、老朽化・狭隘化していました。そこで今年度この2つを統合した施設を建設し、6月に開設したところです。デイセンターを1か所にまとめると遠くから通う方も出てきますが、これは送迎をするので問題はありません。同じ養護学校で学んだ仲間と卒業後も一緒の施設がいい、という要望もありました。

しかしながら、ただこのような施設基盤を整備すれば事足りるものではありません。地域生活を支援する観点からは、その施設が実施する事業の内容も大切です。たとえば、調布市では体験型グループホームを設置しましたが、その体験終了後の支援も相談支援事業と連携しながら積極的に取り組んでいます。

第2に、障害者がその人らしい生活をするためのアドバイスや支援も重要です。障害者自立支援法ではケアマネジメントが位置付けられたとはいっても、その対象は限定的であるといえます。調布市では障害者の特性に応じた多様な相談ができるよう相談支援事業を、身体・知的・精神それぞれ法人の特性に応じて3事業所に委託し、障害福祉サービスに限定しないサービスのマネジメントに注力するようにしています。また、平成13年に立ち上げた障害者就労支援事業を中心に、さらに障害者が一般就労につながるよう相談支援事業所や他の社会資源との連携を図りながらその充実に努めています。

▼調布市では、「こころの健康支援センター」がオープンするとうかがいました。このセンターはどのようなものでしょうか。

調布市では、精神障害者の数が徐々に増加しており、手帳所持者は約980人を、自立支援医療(精神通院)利用者は約2000人を数え、これに伴い相談件数や障害福祉サービスの利用も増加しています。また、これまで相談やデイサービス等精神障害者の支援の中核を担っていた東京都狛江調布保健所が多摩府中保健所に統合されたことから、今まで以上に、より身近な市町村の役割が拡大しています。

こうした状況の中、精神障害者家族会や精神障害者通所施設等からは精神障害者の相談や就労支援、居場所作りなど総合的な支援の充実を望む声が大きくなってきました。そこで調布市では、これまで取り組みが遅れていた精神障害者に対する支援を強化するとともに、精神疾患等に対する市民の理解を深めるため、旧保健所機能を継承するとともに拡充するため、その跡地にこころの健康支援センターを開設することにしました。こうした取り組みは都内市町村としては初めてのものです。このセンターの運営は社会福祉協議会に委託し、6月1日に開所しました。今後はこのセンターを中心として、利用者に対するきめ細かい支援をはじめ精神保健福祉に関する知識の普及などにも力を入れていく予定です。

▼障害者自立支援法の円滑な施行にあたって、どのような取り組みをされていますか。

先ほど基本的な考え方をお話しましたが、私は、障害者が福祉サービスを利用しながら住み慣れた地域で暮らし続けるためには、所得の低い方などに対する配慮があってしかるべきなのではないかと考えています。

調布市としては、昨年の障害者自立支援法の定率負担の導入に合わせ、国の制度では軽減対象とならない方の独自の軽減制度を始めました。しかし、予想より対象者が少なく、効果も限られたものであったこと、低所得者に対するさらなる軽減の必要性があると考えたことなどから、利用者負担軽減制度を改正したところです。

今年度からは、居宅介護や重度訪問介護など訪問系のサービスと通所系のサービス、短期入所を利用されている方で、低所得1と2の方を対象とし、軽減額は自己負担額としました。これにより低所得者の実質的な利用者負担は0円となります。

▼利用者のニーズを的確に把握することは大切だと思いますが、そのような声を行政に届ける工夫などはされていますか。

障害者福祉担当者が現場に赴いて対話を重ねることが基本だと思います。私自身も対話の機会をできるだけ多く持ちたいので、作業所の職員や家族会の方など、自分自身で現場に足を運んで困っていることや希望を直接聞くことを行っています。また、障害者問題に特化していませんが、市政への声は「市長へのはがき」というものを市内の行政施設に置いて、市民のみなさんの声を自由に書いていただくこともしています。

▼今後の障害者施策についてはどうお考えでしょうか。

調布市では、平成17年度に、障害当事者を含む17人の委員からなる調布市障害者計画策定委員会を設置し、「調布市障害者計画」を策定しました。この計画では、障害者施策推進の基本的考え方として、「その人らしい自立した生活の充実」を掲げ、障害福祉サービスや地域生活支援事業など地域で生活するためのさまざまな施策の展開を計画しています。そして、その障害者計画の理念を継承する中、平成18年度に策定した障害福祉計画で、それらサービスの見込みや確保の方策を規定させていただきました。この障害福祉計画で掲げた目標の数値は、福祉施設へのアンケート等を行い、その結果を基に設定しました。今年度もまたニーズ調査を行うことにしています。今後は、障害者の方々のニーズを的確に捉えながら、こうした目標に向って施策を充実させていきたいと考えています。


(インタビューを終えて)

京王線調布駅から徒歩で3分ほどの市庁舎の玄関は2階になっており、庁舎に入るとすぐ近くに障害福祉課のカウンターがある。障害者のアクセスの便を考えた配置だ。長友市長はたいへん気さくな方で、障害者関係のイベントなどで挨拶するだけでなく、計画的に市内の施設を訪問して障害者と懇談するという。障害者基本計画策定前にはニーズ調査も行って、当事者が半数を占める委員会で計画を策定している。そこに、当事者のニーズを的確に捉えてよりよいまちをつくっていく市政がうかがえる。