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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年8月号

障害の定義に関する課題と提言(発達障害)

山岡修

1 障害の定義とは

「病気」の場合、治癒を目標として投薬や手術などによる治療方針を立てるために診断を行い、診断名を付ける。「障害」と名がつく場合は、現代医学において治癒が困難であり、症状が長期にわたり固定化することが前提となっており、医学的には治療というよりは、症状の緩和、機能の回復、代替手段の提供などが目的となっている。

一方、わが国においては、三障害を対象として障害の種別と程度に応じて、各種の支援が用意されており、障害のある人が支援を受けるためには、国や自治体が定めた障害の種類・程度に該当するかどうかについて、評価や認定を受ける必要がある。

国が障害の定義を定める場合は、該当する場合は何らかの支援をすることが前提であり、国が定める障害の定義とは、支援対象の範囲を定めるためのものと考えられる。

2 狭間を作らないような、緩やかな定義が必要

2005年4月に施行された発達障害者支援法による「発達障害」の定義は、法律・政令・省令で定められており、これらをまとめると以下の通りである。

「『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち言語の障害、協調運動の障害、その他の心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害とする。」

発達障害者支援法は、従来、支援の対象となっていなかった知的障害を伴わない発達障害(LD・ADHD・高機能自閉症など)や、従来、知的障害として支援の対象になっていたものの、特性に応じた適切な支援が受けられなかった知的障害を伴う自閉症などを支援の対象として位置づけ、乳幼児期から成人期までの一貫した支援を行おうとするものである。もともと、狭間の障害に光を当てようとしてできた法律であり、前記の定義もICD―10のF80・F90を参考にしつつ、新たな狭間を作らないように腐心して作られている。

このように、支援の対象を定める「障害の定義」については限定列挙的とせず、極力幅広く捉える緩やかなものとすることが必要である。

なお、発達障害者支援法が対象とする「発達障害」は、従来、医学の分野等で使われてきた発達障害とは対象・定義が異なっていることに留意する必要がある。すなわち、発達障害者支援法や行政で使用する「発達障害」は、「発達障害者支援法が定める『発達障害』」、「支援用語としての『発達障害』」として捉えておくことが適当である。

3 障害の種別・程度に応じた支援から、個々のニーズに応じた支援へ

本質的にはどの障害にも共通することであるが、特に発達障害の場合、障害名だけでは個々の人のニーズが判断できないという面が顕著である。たとえば同じLD(学習障害)という診断名であっても、計算障害、読字障害、書字障害に加えて、社会性、運動面、情緒面の困難など、個々人により抱える障害や困難はさまざまである。また、発達障害は認知能力等に凸凹があることが特徴であり、健常者との境目がはっきりしない事例も多い。

また、発達障害の場合は、障害名だけで支援ニーズが決まることは少なく、またライフステージに応じて支援ニーズが変化していくことが多い。さらに、一生涯のフルサポートは必ずしも必要ではないケースも多い。すなわち、個々の特性・ニーズに応じて、必要な時期に適切な支援をその都度認定して、提供していくような体制の構築が望まれる。

4 障害の定義や認定は緩やかに、支援は個々のニーズに応じて細やかに

特別支援教育の理念や障害者自立支援法の仕組みを見ると、わが国も「障害の種別や程度に応じた支援」から「個々のニーズに応じた支援」に転換しつつあることが分かる。このこと自体は、三障害に比して諸制度の狭間に置かれている発達障害を支援する立場から歓迎している。

しかし現行制度では、まず「障害者」としての認定を受けることが、「個々のニーズに応じた支援」の対象となる前提条件になっており、発達障害やその他の狭間の障害のある人にとっては大きな障壁になっている。障害の定義や認定はより緩やかにし、狭間の障害を生まないようにすべきである。

そして、障害の定義や認定を緩やかにする前提として、支援については障害のある人の個々のニーズを判定し、そのニーズに応じて細やかに支援を提供できる仕組みを構築していくことが必要と考えている。

(やまおかしゅう 日本発達障害ネットワーク代表)