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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年8月号

わがまちの障害福祉計画 静岡県磐田市

静岡県磐田市長 鈴木望氏に聞く
「市長早朝ミーティング」で障害者のニーズを把握、近隣市町村に先駆け利用者負担率を5%に

聞き手:工藤正
(東海学園大学経営学部教授)


静岡県磐田市基礎データ

◆面積:164.08平方キロメートル
◆人口:176,408人(平成19年3月31日現在)
◆障害者の状況:(平成19年3月31日現在)
身体障害者手帳所持者 5,126人
(知的障害者)療育手帳所持者 814人
精神障害者保健福祉手帳所持者 441人
◆磐田市の概況:
日本のほぼ中央、静岡県西部の天竜川東岸に広がる遠州灘に面している。古代約500基以上の古墳が現存し、歴史と文化に育まれた街。東海道の中間地点に位置することから交通の要所として発展し、近年は、工業都市として名を馳せる一方、農業も盛んで都市部と農村部が均衡ある発展を遂げている。サッカーに代表されるスポーツ振興のまちづくりを推進。外国人が多く住み「多文化共生推進プラン」を発表している。
◆問い合わせ:
〒438-8650 静岡県磐田市国府台3-1
磐田市役所社会福祉課障害者福祉係
TEL 0538-37-4784 FAX 0538-36-1635

▼市役所がある磐田駅を降りると、駅前再開発の様子が目に入ってきました。まず、磐田市の特色、魅力についてご紹介していただけますか。

磐田市の名前を全国区にしたのは、サッカーのジュビロ磐田で、スポーツが盛んな街です。ジュビロの試合がある時は、障害者のアクセスにも配慮しております。また、磐田市は、奈良時代の遠州遠江国の国府の所在地で、江戸時代は東海道五十三次の見付宿(上方から来て富士山が見えるという意味)として栄えた歴史文化の地域でもあります。産業活動では、工業出荷額が全国で14番目、工業にかなり特化している街と言えます。大手企業やその関連の工場が多くあります。平成17年4月には、1市3町1村が合併し、新「磐田市」が誕生しました。

▼鈴木市長は、ローカル・マニフェストを作成しており、その中で「福祉は望のライフワーク」「日本一の福祉のまちづくりの旗はおろさない」とうたっておりますが……。

私は、昭和48年に厚生省(現 厚生労働省)に入省、2年目に社会局の更生課というところで障害者行政に携わったことがあります。その頃と比べると、ノーマライゼーションという考えも進化してきており、障害があるという形態はそのままにして社会の方が変わっていく、それがユニバーサルデザインという言葉も生み出しているのだろうと思っています。障害のある人が社会との関係をもって生活できるように、そういう社会を目指していくことが大切だと考えています。

旧磐田市の標語は、30年前から「心と心の通じ合う街」でした。その精神は非常に大切にしてこれからも伝えていきたいと思っています。やっぱり福祉というのは、心と心が通じ合うというのが原点だと思います。制度的なもので、形だけやってもあまり意味がない、それよりも本当に心の部分で相手の立場に立った暖かなケアができるかどうかが重要なことです。福祉施策は、あまり後戻りさせてはいけない、後戻りできないもの、と私は思っています。ですから、突飛なことを思い付きでやってはいけない、その代わり、やったら後戻りできないという姿勢で進めていきたいと思っています。

▼「心と心の通じ合う街」というお話を伺って、先程、市役所に入ってきましたら、すれ違う職員の皆さんが明るく元気に親切に挨拶をしてくれたのが印象的だったのですが、こういうところとも通じるものを感じますね。

私は、行政はサービス業だと思っているんですよ。市民本位を第一に、サービス業の指差し呼称ともいうべき「あいさつ運動」を進めています。そして、開かれた市政を目指して、予約なしで朝8時から30分間、誰でもが市役所に来ていろいろな要望を出せる「市長早朝ミーティング」を実施しています。その要望の半分くらいは、障害者や福祉関係の団体、NPOなどからのものです。1年くらい前には、障害者自立支援法の利用者負担率10%はおかしいとの要望が多くありました。また、障害児をもつ母親から、市の療育支援をさらに充実してほしいと訴える意見もありました。

▼磐田市の障害者施策のセールスポイントは何でしょうか。サービス利用の自己負担率10%はおかしいという声に対しては、どのように対応されましたか。

私が市長になる以前から、障害児教育には一生懸命取り組んできています。養護学校が整備される前の昭和48年頃から市立小学校の中で障害児の専門教育(当時は特殊学級)を開始しました。その後、その学校は廃止となりましたが、平成17年8月には障害児の放課後児童クラブを開設、発達障害やそのおそれのある児童の専門療育施設である「発達支援センター」を平成18年11月に開設しました。

障害者自立支援法の「地域生活支援事業」については、利用者のニーズに出来るだけ沿うように近隣市町村に先駆け利用者負担率を5%としました。私も小規模授産施設を全部訪問して実際の状況を見まして、制度として広い意味で訓練を受ける施設という趣旨は理解できるところもあるのですが、法律がねらっているものと実態の間に大きな違いがあるように痛感しました。そこで、利用者負担率を10%ではなく5%ということにしました。移動支援事業、日常生活用具給付事業、日中一時支援事業(日帰りデイサービス)などの地域生活支援事業についても、やはり利用者負担率5%として提供しています。こうした磐田市の対応が、近隣市町にも波及して負担率5%にしようということになっていきました。

▼自立生活を送るうえで重要となる移動やコミュニケーションの障害に対しては、どのような支援をしていますか。

視覚障害者等の外出支援については、従来からガイドヘルプサービスを提供していましたが、利用目的が限定されるなど利用しにくい制度でした。障害者自立支援法以降、それを「移動支援事業」として位置付け、余暇利用などにも利用範囲を緩和することにしました。

コミュニケーション支援事業(手話通訳等)については、原則利用者負担なしの無料とし、これは障害者自立支援法以前から行っています。自立支援法以降、この無料利用については他メニューとの整合性の議論がありましたが、結局、無料とすることにしました。毎年、ボランティアの手話養成講座(定員20人)を開催しており、そこの修了生が通訳者となることが多くあります。

▼磐田市には、かなり前から障害児の療育実践をしている有名な施設があると伺ったのですが……。

それは、私が尊敬している井上正信さんが開設した「磐城(いわしろ)学園」です。昭和30年代から試行錯誤で障害児教育に取り組んできており、現在は「こども発達支援ホームいわしろ」と改称、児童デイサービス事業として位置付けられるようになりました。それ以前は市の単独事業として支援していました。全国から集まった自閉症などの発達障害をもつ子どもが療育訓練を受け、その多くが普通の小学校や幼稚園に戻っており大きな実績を上げています。

▼来年、総合福祉会館のオープンが予定されていますが、そのコンセプトはどのようなものでしょうか。

平成20年の11月に市役所の近くに総合福祉会館が完成する予定です。ハードの建物ということが主ではなく、「共生」や「健康増進社会」を目指した中味を充実させていきたいと思っています。その会館には、医師会、薬剤師会、歯科医師会に入っていただき、そこに行けば健康増進、疾病予防の情報が得られるようにしていきたい。また、そこには社会福祉協議会やボランティアグループにも入っていただき、民間の活動拠点としていきたい。さらに、市の福祉関係の課も入って、そこに行けば「公助、自助、共助」の連携がとれる場所としたいと思っています。この福祉会館は新しい概念を取り入れてぜひ運営していきたいと思っています。

▼これからの課題として、障害者の就労問題の解決が大きくなってきていると思いますが、市長はどのようにお考えでしょうか。

市内には、法定外の小規模作業所などが6か所あります。今年の4月に、豊田町駅近くの土地を市が提供して、パンの製造・販売をする精神障害者の共同作業所がオープンしました。これらの施設は、福祉施設の一類型として位置付けたらよいと思っています。ほかに公園の清掃、空き缶の回収作業などの委託もしています。市の職員用ホームページでは、施設が製作した製品の販売促進活動も応援しています。

また、市でも障害者雇用を検討しており、市役所業務の中で、障害者に適した業務は何か、図書館業務はどうかなど、検討作業を行っています。出来たら来年度から正職員として雇用してみたいと考えています。市役所も実行するから、企業の方も進めてほしい、企業も法定雇用率達成のためにだけ雇うのではなく、もっと知恵を絞って障害者雇用を一緒に進めていただきたいと思っています。

磐田市には、ヤマハ発動機の本社がありますが、それ以外にも多くの工場があります。この地域の特性を生かして、障害者が効率、利潤の追求というシステムのなかでも、人間性を損なうことなく働いていける仕組みが作れるのではないかと思っています。駅前の再開発ビル1階にあるヤマハ発動機の子会社の「ヤマハモーターアシスト」では、3人の障害者がコンピュータのソフトを担当して働いている良い例があります。磐田市を健常者とともに働ける職場をつくる実験地帯として全国に発信したい。そのためには、障害者も健常者も一緒にこのまちで暮らしていこうという気持ちが起きてくるような「心と心の通じ合う」まちづくりがベースになると思います。


(インタビューを終えて)

これまで都道府県が提供していたサービスの多くを市町村でする時代となってきている。磐田市は合併によって施策を展開しやすい規模となってきている面もあり、さらに福祉を充実させていこうとしていた。その象徴が来年にオープンする新しいコンセプトの総合福祉会館であった。さらに、地域特性を生かした製造業での雇用拡大や健常者とともに働ける職場をつくる実験地帯としてみたい、などの大きな抱負を伺うことができた。市長は、若い頃の障害者福祉行政での経験が原点にあり、福祉は心と心が通じ合うこと、制度的なもので形だけやってもあまり意味がない、やったら後戻りできない、という基本姿勢をもっていた。