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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年8月号

工夫いろいろエンジョイライフ

実用編●お出かけ前チェックリスト、他●

提案者:橋本圭司 イラスト:はんだみちこ

橋本圭司(はしもとけいじ)さん

リハビリテーション専門医。医学博士。東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座助教。東京医科歯科大学難治疾患研究所神経外傷心理研究部門客員准教授。神経外傷や脳認知科学に関する先端研究に従事する一方で、急性期から回復期、そして、慢性期における地域リハビリテーションにおいて、後天性脳損傷による高次脳機能障害治療の最前線に立つ臨床家でもある。主な著書に『高次脳機能障害 どのように対応するか』(PHP新書)、『高次脳機能障害がわかる本』(法研)などがある。


お出かけ前チェックリスト

後天性脳損傷後の高次脳機能障害として、発動性の低下や記憶障害を抱えるAさんは、安全なひとり暮らしを実現するために、「おでかけ前チェックリスト」を活用しています。ガスの元栓やファンヒーター、給湯器などの火の元の確認、戸締まりなどは、安全な日常生活には必須事項ですが、高次脳機能障害があると(時に無くても)、ついうっかり忘れてしまうことが多くあります。また、鍵や財布をどこかに置き忘れたり、何をチェックしたらよいか分からくなったりして、家の中を右往左往してしまう場合もよくあります。また、出かけた後に、それらのことが急に不安になって、家に引き返してきてしまうことも。Aさんは、家のドアの内側に「お出かけ前チェックリスト」を貼って、毎日必要事項のチェックをしてから外出しています。


服薬カレンダー

脳卒中や脳外傷、低酸素脳症などの後遺症として知られる高次脳機能障害を抱えた当事者は、多くの場合、高血圧や糖尿病、症候性てんかんなどの合併症を伴っており、それに対する内服薬が欠かせません。

しかし、高次脳機能障害として、記憶障害や注意・集中力の低下、遂行機能障害などを抱えるBさんは、薬の飲み忘れや2重飲みを防ぐために「服薬カレンダー」を活用しています。縦に日曜日から土曜日までの曜日が、横には朝、昼、夕の時間が記され、合計21個の薬を入れるポケットが付いている優れものです。

週1回訪れてくれる訪問看護師さんが、1週間分の薬を入れてくれます。そして毎日訪れる訪問ヘルパーさんが、その日ごとに薬が無くなっていることで内服をしたかどうかが確認できるのです。

人によっては、その日ごとの薬だけを取り出し、朝昼晩の3つに仕切られた箱に入れておいて管理している人もいるようです。

こうすることで、日にちの間違いも予防できます。


来客への対応

高次脳機能障害者のひとり暮らしは、悪質なセールスや勧誘などのリスクと隣り合わせです。ほしくもない商品や会員権の契約をさせられたり、多額の借金を背負わされたりといった事例をたまに見受けます。

高次脳機能障害として、情報処理能力や判断力、記憶力の低下を認めるCさんとそのご家族は、Cさんが一人で留守番をしている時に、やはりお出かけチェックリスト同様、ドアの内側に下記のような注意事項と表を貼ってあります。後で家族が帰ってきた時に、内容を確認することで、リスク管理のみならず、本人にとっては記憶の訓練にもなるということで重宝しているようです。

また、高次脳機能障害者の場合、病識の欠如という問題があります。このような記録を残すことで、客観的記録となり、後でその行動が適切だったかどうかの検証にも用いることができます。

高次脳機能障害の改善には、押しつけではない障害への気づきが必要なのです。