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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年9月号

障害者と人的支援―私の場合

門川紳一郎

私の活動

私は生後まもなく原因不明の病気のために視覚障害になり、4歳の頃にかかったしょうこう熱が原因で聴覚にも障害が発生し、盲ろう者となりました。以後、見えない・聞こえない状態で毎日を過ごしてきています。現在は目が視神経萎縮のため、急激に視力・視野とも低下し、聴力は全く残っていません。

5年に一度行われている国の障害者実態調査によれば、盲ろう者は日本全国にはおよそ1万3千人から1万7千人いると推計されています。

さて、私は現在、NPO法人視聴覚二重障害者福祉センターすまいるの理事長として、大阪を中心に盲ろう者の自立と社会参加の促進を目的に活動しています。もう少し平たく言うと、盲ろう者自身が地域の一員として他の人たちと同じように暮らしていける、そんな社会づくりを目指し、盲ろう者の存在を広く一般社会に知ってもらうという大きな目標をもって、さまざまな活動に取り組んでいます。具体的には、各種イベントの企画・実施から、パソコンをはじめとしたIT関係まで内容は多種多様です。

本職のすまいるとは別に、私は月に2、3回、多いときは5、6回、主に東京や埼玉で、やはり盲ろう者の福祉向上を目指して、権利擁護活動から各種委員会に出席するなど、慌ただしく過ごしています。

人生のパートナーとしての通訳・介助者

すまいるでの活動はともかく、関東への出張にはいつも悩まなければならないことがついてきます。それは、仕事をしたり、会議に出席したりするために欠かすことのできない「通訳者」の確保です。幸い、私には何人かの通訳候補者が関東にいて、この候補者リストの中から探すことができますが、通訳の内容によっては、なかなか見つからないこともよくあります。

たとえば、全国盲ろう者協会の仕事として、毎月開催されるJDF(日本障害フォーラム)の幹事会に出席しているのですが、JDFの場合、会議のテンポが早いことと、内容的に専門用語が多用されることから、通訳者の確保が大変困難です。どうしても見つからない時は、全国盲ろう者協会の視覚障害の職員が指点字による通訳に協力してくれています。しかし、1回2時間、休憩なしで進められるハイテンポの会議では一人で通訳するのは大変困難です。通訳を受ける盲ろう者もくたびれるので、休憩を入れてほしいと要望を出してはいるのですが、いまだに休憩なしの幹事会が続いています。

もうひとつ重要なことは、「通訳」といっても私の場合、情報を伝えてもらう通訳だけでなく、自分から発信するための通訳も必要となります。つまり、自分が発言する時に、「音声が相手に分かるように復唱する」ことが必要となる場合があります。ところが、この「復唱」という作業はなかなか難しいもので、経験と技術が必要です。

このように考えてくると、JDFのような場に参加するときの通訳者探しがいかに難しいかがお分かりいただけると思います。

通訳者の交通費や謝金は、全国盲ろう者協会があらかじめ予算を確保してくれていますので、こちらは大丈夫なのですが、肝心の人材がどうしても不足しているが現状です。埼玉県の所沢では年に数回、集中講義の講師をしているのですが、こちらも通訳者探しではいつも苦労しています。移動の際のガイドヘルプと違い、通訳者はかなりの経験と技術を要するため、自分に合った通訳者がなかなかみつかりません。

以上述べてきたように、外での活動や仕事などには「通訳・介助者」が必要です。なぜなら、盲ろう者が何か作業をしようとする時には、情報の保障が大変重要だからです。この「通訳・介助者」については、都道府県が実施している「通訳・介助者派遣事業」を利用することで補うこともできるでしょう。しかし残念ながら、「派遣事業」を利用するにも人材不足と制度上の問題は否定できません。とはいっても、盲ろう者の暮らしや日常の活動に欠かすことのできない「通訳・介助者」は、盲ろう者の人生のパートナーでもあるのです。人材を増やし、制度を良くすることが私たちに課された課題だと思います。これには多くのみなさんのご協力が必要です。

声を大にして、訴えよう!

2006年4月から実施された障害者自立支援法によって、障害者はヘルパーなどの利用が以前に比べて格段と厳しい状況に追いやられています。特に、自己負担金が発生することは、ただでさえ収入の乏しい障害者にとっては大変厳しいことです。しかも、障害さえなかったならお金を払う必要もなかったのに、障害があるために、ホームヘルプやコミュニケーションにお金を払わなければならないなんて、世の中の秩序がひっくりかえってしまっているとしか思えません。

一日も早く、自立支援法の見直しがなされ、障害者が暮らしやすい社会づくりを目指してほしいものです。それとともに、よりよい理解者を増やし、ヘルパーをはじめ、盲ろう者への通訳人材も確保できるようにしていきたいものです。

(かどかわしんいちろう NPO法人視聴覚二重障害者福祉センターすまいる理事長)