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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年9月号

ある統合失調症患者の地域生活

辰村泰治

自分は今年70歳ですが、統合失調症を発病したのは22歳の時です。症状は夜眠れなくなり、妄想と幻聴もありました。自分は小学生の時に父が外地で死亡し、中学生の時に母が病死しておりましたので、親戚によって育てられました。

発病当時学生でしたが、様子がおかしいということで親戚によって東京の晴和病院で診察を受け、精神分裂病(当時は統合失調症のことをこう言っていました)だからすぐ入院させなければということで、千葉県市川市の式場病院に入院しました。そこで受けた治療は薬物療法、電気ショック、インシュリン・ショックと作業療法で、1年くらいで退院しましたが、結局、22歳の時から27歳までの5年間に3回入退院を繰り返しました。3回目の退院の時から10年ばかり、薬を飲みながら働いて、一応自活することができました。

昭和51年(1976年)、今から30年前に統合失調症が再発し、その時は胃潰瘍でも苦しんでおりましたが、旅行の途中にJR大宮駅のプラットホームで倒れ、救急車で大宮市内(現さいたま市)のある民間の総合病院の精神科病棟に収容されました。翌年胃潰瘍の外科手術を受け、入院してから6年くらいで元気になりましたが、引取人がいなくて受け皿がないから、退院しないほうがよい、この病院で働けるからと、無給でしたが、毎朝病棟の掃除や炊事室の給食作業などの仕事に従事することとなり、自分は退院をあきらめておりました。

ところが、今から10年ほど前に病院の院長先生が亡くなり、精神科の先生方の顔ぶれが替わりました。新しく赴任された先生から、「辰村さんは病気が治っている、この病院の近くに「やどかりの里」という精神障害者社会福祉施設があり、またまもなくこの病院にも初めて精神科のケースワーカーが来るから、その人の世話になって退院したほうがよい」と勧められました。

まもなく見えたケースワーカーの長縄献(ながなわけん)さんからも退院を勧められましたが、自分はもう60歳でこの歳で外で暮らしていく自信がないと答えました。

すると長縄さんが「辰村さん、今あなたは60歳と言われたが、日本人の平均寿命は約80歳になり、まだあと20年あるのですよ。この20年を今までと同じようにこの病院の閉鎖病棟で暮らすのがよいか、それとも外へ出て自由な生活をするのがよいか考えてください。やどかりの里はよい所で、これから毎週1回、私がその施設に連れて行きますから、そこの職員と顔なじみになってください。退院の時は、私がお手伝いしますから」と言われましたので、「よろしくお願いします」と答えました。

それから自分を入れて3人の患者は長縄さんに連れられて、やどかりの里の作業所やグループホーム、授産施設や福祉工場、援護寮などの社会資源を見に行き、そこのメンバーやスタッフの人たちと話をして、よい所だということが納得できました。

それからやどかりの里の女性職員三石麻友美(みついしまゆみ)さんという方が初めて病院に見えて、我々退院予定の患者と面会室で顔合わせをして、自己紹介も和やかにすることができました。この三石さんという精神保健福祉士は、やどかりの里の三つの生活支援センターの一つ「見沼区障害者生活支援センターやどかり」の施設長で、やどかりの里の3人の常務理事の1人です。

それからまもなくやどかりの里のグループホームとなるアパートの部屋が空いて、長縄さんは我々3人の退院予定者を車で部屋の下見に連れて行ってくださいました。ゆったりとした環境抜群のアパートで自分たちはいっぺんで気に入りました。

退院の時は長縄さんにいろいろお世話になり、自分の荷物を運ぶ仕事をはじめ、やどかりの里の会員となりグループホームに入る契約に立ち会っていただきました。自分は入院以来さいたま市から生活保護をいただいておりますが、退院後もその継続をする手続きをしていただき、区役所の担当係の人々にも、今もお世話になっております。

また、退院後の仕事のことでも、自分の希望したやどかりの里の授産施設、食事サービスセンター「エンジュ」という高齢者や障害者に弁当を作って配達する弁当屋のメンバーの一人として働くことができるようにしていただきました。このエンジュでは、今まで7年間、施設長の香野恵美子さん、管理栄養士の山本美佐子さん、栄養士の杉山久美さん、精神保健福祉士の堤若菜さん、常勤職員で経営の現場でコーディネーターとして我々メンバーの指導をしてくださる唯一の男性職員金子猛さん、その他、車による配達と調理に従事しているパートのおばさんたち5人の方にもお世話になっております。

また、グループホームのある地域の見沼区障害者生活支援センターやどかりの施設長三石麻友美さん、ワーカーの宗野文さん、中村由佳さん、渡辺里子さん、その他非常勤職員の女性の方々にもお世話になっており、グループホームの世話人は渡辺寛之さんで、グループホームでの生活全般のお世話になっております。

やどかりの里は、現在メンバーが240人いますが、スタッフは非常勤を入れると70人くらいで、みなさん臨機応変にメンバーの生活を支援してくださっています。

(たつむらやすはる やどかりの里)