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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年9月号

わがまちの障害福祉計画 和歌山県田辺市

和歌山県田辺市長 真砂充敏氏に聞く
癒しの地域で懐深く受け入れる福祉施策を展開

聞き手:乾伊津子
(大阪市職業リハビリテーションセンター所長)


和歌山県田辺市基礎データ

◆面積:1,026.74平方キロメートル
◆人口:84,095人(平成19年7月31日現在)
◆障害者の状況:(平成19年7月31日現在)
身体障害者手帳所持者 3,913人
(知的障害者)療育手帳所持者 631人
精神障害者保健福祉手帳所持者 327人
◆田辺市の概況:
田辺市は、紀伊半島の南西側、和歌山県南部に位置している。平成17年5月1日に田辺市・龍神村・中辺路町・大塔村・本宮町が合併し、新「田辺市」が誕生した。「自然と歴史を生かした新地方都市の創造」基本目標とした新しいまちづくりを目指している。古くから熊野古道の交通の要衝として栄えた。紀州梅や紀州備長炭などが特産品として有名。
◆問い合わせ:
田辺市やすらぎ対策課
〒646―0031 田辺市湊1619―8 田辺市民総合センター
TEL:0739―26―4902 FAX:0739―25―3994

▼田辺市は天神崎トラスト運動や熊野古道などの世界遺産、歴史と伝統の中に先進性をもつまちだというイメージがありますが、田辺市の特色、地域性についてお聞きします。

平成17年5月の合併で1市2町2村が合併した結果、新田辺市は面積1,026.74kmを有し、和歌山県の4分の1にもなる広域な圏域となりました。近畿で一番の広さをもつ市です。また、日高郡・西牟婁郡・東牟婁郡の三つの郡もまたいでいて、それぞれの地域の特徴が混在しています。海・山・川という地域資源や温泉があり、自由で先進的、おおらかで懐が深いというのが地域性です。何といっても世界遺産に代表される地域であり、神が宿るところに仏教がやってきても争わないで受け入れる「懐の深さ」に代表されると思います。

▼次に、障害のある人の地域生活支援について田辺市長としての考えをお聞かせください。

合併以前から市町村建設計画を進めてきましたが、今年で合併して3年を迎え、総合計画がようやくできました。その基本理念は、「一人ひとりが大切にされて幸せが実感できる町」というものです。最近、当たり前のことが普通に保障されていないことが多くあり、一人ひとりが大切にされるというところにすべての人の人権を保障し、障害のある人もない人も一緒に一人ひとりが大切にされるという基本理念を持って市政に取り組みたいと考えています。

▼和歌山県で一番広い圏域を有することになったということですが、市町村合併や広大な圏域の中での障害者施策の推進における課題と利点についてお話ください。

利点としては地域がバラエティに富んでいて、違った良さをお互いに吸収できることにあります。課題としては、旧田辺市に代表される都市部と旧町村の山間部における障害者福祉サービスの供給量に格差があるということです。どこでも同じサービスが受けられ、機会を均等に提供することへの課題は認識しています。

しかしながら、障害者施策の利点としては広域の中で5か所の社会福祉法人があり、それぞれ特色ある事業展開を行っていることから、全体では多様な支援が可能となり、それぞれの法人の特色を生かした支援が期待できます。

▼田辺市では障害者施策として従来から積極的に取り組んでこられた事業があるとお聞きしましたが、その事業の内容と経緯をお聞かせください。

旧田辺市だけでなく、合併前の各市町村においても福祉施設や作業所への通所に関する交通費の補助事業を行ってきました。その背景には、この地域の特色として交通手段が少なく、移動が不便、施設・作業所などの選択肢も少なく、そのうえ就労の対価としての工賃も低いとなれば、障害のある人たちの積極的な社会参加につながらない。そうした実情の対応策として、平成4年より通所交通費補助事業を実施し、通所者の就労意欲の維持・向上の促進を図ってきました。

▼障害者自立支援法施行後、「利用者負担」が大きな論議を巻き起こしていますが、利用者負担について、早くにその対応策を実施されたとお聞きしています。

利用者負担については、通所交通費補助事業と同じ考え方で、高額になると利用者の就労意欲の維持・向上に結びつかないと考え、一定の工賃を確保するという視点に立ち5,000円をその金額とし、利用者負担助成事業を平成18年10月から実施しています。工賃5,000円以下の場合は負担額の全額を市が助成し、5,000円以上の場合は工賃額から5,000円を差し引いた額の2分の1を利用者負担とし、残額は市が助成するというものです。

この制度の実施にあたり周辺の福祉圏域の町にも伝えて、広域で取り組むことを提案した結果、本市と西牟婁郡・南部町を含む福祉圏域全体の自治体で助成制度が実施されるようになりました。それは、和歌山県では初の取り組みでしたが、その後、県内の市町村でも独自の助成制度が検討され、平成19年度からは日高圏域・東牟婁圏域・紀ノ川市・岩出市で新たな助成制度が始まっています。

▼田辺市は就労支援を先進的に展開していることで全国的に知られています。障害のある人の一般就労への移行支援についてお聞かせください。

全国的には、紀南障害者就業・生活支援センターの精神障害者の就労支援で知られていますが、もともと有志や家族会が集まり、社会福祉法人を設立するなどして福祉サービスを制度化するプロセスの中で、結果的に精神障害者の就労支援につながったものです。センターの就労移行の実績は平成18年度で26人(精神15人・身体4人・知的6人・その他1人)ということです。

行政のバックアップとしては、障害者就業・生活支援センターの運営補助を福祉圏域の自治体と協議し単独費用の補助を行っています。また、他の法人に対しても、施設建設のための市用地の無償貸与や要綱を設置して、国庫補助基準の施設設置者が負担する費用の2分の1や福祉機構からの利子補給の補助などを行い、就労支援事業の推進を行っています。

▼たとえば就労支援の中でも生活面での相談支援がとても重要ですが、田辺市の相談支援事業体制についてお聞かせください。

紀南障害者就業・生活支援センターでは、就業支援と生活支援も含めた取り組みを展開しています。相談支援事業は社会福祉協議会、ふたば福祉会、やおき福祉会の3か所に委託し、それぞれ生活支援事業と連携してその特徴を活かした相談体制を作っています。また、市民レベルの要請により早くからひきこもりの青年への課題にも取り組んできました。平成13年に検討委員会を設置して相談支援体制ができています。県の「ひきこもり者社会参加支援センター運営事業補助金」を活用し、居場所づくりを行い、また、就業・生活支援センターを活用して就職したケースも生まれています。

▼市として、市民に向けた就労支援や福祉を増進させる取り組みはありますか。

障害のある人を含む就労困難層に対しては、ハローワーク等の奨励金や助成金の終了後、その適用事業所に対し「田辺市雇用促進奨励金」を市独自で補助して事業所を支援しています。また、「田辺市地域保健福祉推進補助金」は、障害福祉をはじめとする保健福祉の増進を図る先導的な事業に対し補助され、過去には小規模作業所の立ち上げなどに利用されました。地域の活性化や公益に寄与するまちづくり事業を支援するものとして「みんなでまちづくり補助金」があります。植樹や町おこしのイベントなど、NPOや市民団体の活動の下支えとして利用されています。

▼最後に、障害者計画や今後の障害者施策についてお伺いします。

平成18年度に障害者計画と障害者自立支援法に規定する障害福祉計画を策定し、「だれもが安心を感じられる障害者福祉の実現」として、障害のある人もない人もお互いの個性を認め合い尊重し、それぞれの役割と責任をもって、社会の一員として安心して地域で生活を送ることができるようにまちづくりを行うことを基本としています。今後は計画の数値の実現に向けて、行政だけではなく、障害のある当事者や関係者とともに知恵を出し合い取り組んでいきたいと思っています。とりわけ就労移行の他に、就労継続支援やグループホーム・ケアホームという、いわゆる日中活動や生活の場となる場所作りが急務の課題となっています。

また昨年12月に「高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)が施行され、本市でもバリアフリー基本構想を今年度中に策定しようと、6月の議会で予算が可決されたところです。ひとつには特定旅客施設となるJR紀伊田辺駅のエレベータ設置をはじめとした重点整備地区内のバリアフリー化について、まとめられた基本構想に沿って対応していきたいと考えています。


(インタビューを終えて)

熊野古道が世界遺産として登録されたのは、この地が永く癒しの地、再生の場として自然と人間の共存の歴史がこの地の自然とともに文化的景観として評価された結果であると熱く語っていただきました。この地域にはもともと文化的な先進性、人を懐深く受け入れる精神性、ホスピタリティが根付いているとおっしゃる真砂市長の姿が印象的でした。人を懐深く受け入れ、障害のある人の施策にもそれを当たり前に実行しようとされている真砂市長。今後ともそのバイタリティで人を大切にする市政の舵取りをお願いしたいと思いました(最後に応接の机の上からいただいた梅、とても美味しかったです。本当にありがとうございました)。