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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年9月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

「人と技術を用いた高等教育のバリアフリーカンファレンス」の開催

伊藤聡知

はじめに

国内の高等教育機関(大学・短期大学・高等専門学校、以下大学等と記す)に在籍している障害をもった学生は、日本学生支援機構の調べによると、4937人で、全学生の0.16%となっています。また、そのうち、支援を受けている障害学生の比率は、2256人で、支援率は45.7%と報告されています。

この調査では、各種手帳を有している学生数、および、入学時の健康診断の際に支援等が必要と判断された学生の合計数(重複する場合は実数)で、国公立大学は文部科学省に報告している数値、私立学校については日本私立学校振興・共済事業団に報告している数値が基準とされています。

しかし、国内の大学等には、障害者手帳を所有していることを自ら大学等に報告しなかったり、健康診断で支援が必要と判断されなくても大学生活を送るにはバリアがある学生(主として軽度の障害学生)がおり、前記の数値よりもはるかに多い学生が、バリアを感じていることと推測されます。

そこで、東京大学先端科学技術研究センターと東京大学バリアフリー支援室は、障害をもった学生へ「何を支援するか」ということに加え、「どのように支援するか」という点に視点を置き、「人と技術を用いた高等教育のバリアフリーカンファレンス」を開催しました。常時支援が必要な重度の障害をもった学生から、支援のマニュアルや統計にはのらない軽度の障害をもった学生まで、一人ひとりに適切な支援を行うためにどのようにすればよいか、という点について、第一人者に講演を行ってもらいました。数字では表せない、障害をもった学生への支援の現状と、現在困難な点について多く取り上げられ、また、類似のカンファレンスではあまり取り上げられることのない、発達障害学生への支援についても現状と支援方法についての話がありました。

日本の障害学生の支援とその現状

カンファレンスの1日目は、視覚・聴覚・肢体不自由・発達障害と、各障害別に、現在、日本の大学等で行われている支援とその現状についての報告が行われました。その中でも、「支援体制」と「コーディネーター」についての講演と質疑応答が多くありました。

障害をもった学生に対し、手厚い支援体制を組んでいる大学等もあれば、支援の体制がまだ十分整備されていない大学等もあり、支援体制はさまざまです。しかし、実際に障害をもった学生が入学したとき、支援体制が十分、不十分にかかわらず、支援がないと他の障害のない学生と同じように受けられない場合が多くあります。支援体制が十分な大学等に入学したときの支援を受けるまでの流れや、不十分な大学等であっても支援を受けることができるまでに至るプロセスなどについて、画一的な方法ではなく、いろいろなケースに柔軟に対応できるよう、分かりやすく解説が行われました。

また、近年、障害をもった学生への支援を行うにあたって、コーディネーターという役割が重視されています。コーディネーターは、障害をもった学生と大学等の間で、さまざまな連絡調整を行い、専門家として必要な助言をし、人や物品の調達などを行います。コーディネーターが大学等にいることにより、障害をもった学生が、「障害」があるが故に余分に負担しなければならない事項を負担しなくてもよいため、バリアが大きく軽減され、真の意味で障害のない学生と同じフィールドに立つことができます。

現在、コーディネーターがいる大学等の数はまだまだ少なく、コーディネーターの配置校数は、日本学生支援機構の調べでわずか3.4%に過ぎませんが、現在その必要性の認識は急速に高まり、コーディネーターの配置を検討している大学等の話もいくつか聞かれるようになりました。

また、障害をもった高校生が大学等に入学するとき、どのような形で情報を収集し、どのような形で大学等と交渉を行えばよいか、という話や、支援に関する大学間ネットワーキングについても話が行われました。ネットワークについては、一つの大学ではノウハウの蓄積が難しかったり、取り組みにあたって困難がある分野についても、ネットワークを作ることによって解決する方法もある、という事例報告も行われました。

人と技術を用いた支援

カンファレンスの2日目は、「人」と「技術」を用いた支援についての講演が行われました。障害をもった学生への支援を行うにあたっては、「支援を行う人」と「さまざまな技術」、それぞれが融合しあって行われるものです。

大学等における障害をもった学生への支援は、単に支援に必要な機器を障害をもった学生に貸し与え、施設を整備するだけではなく、その機器や施設をどのように生かしていくか、という話が中心になりました。大学等では、机に座って教員の話を聞く授業だけではなく、体育、実習、実験、ゼミ形式の授業など、さまざまな形態の履修方法があります。「人」と「技術」を用いた支援は、あらゆる状況を想定して、支援に必要な機器や施設の性能を生かして、スムーズに行われなければなりません。

支援機器や設備については、各種の文献やWebサイトで数多く紹介されています。しかし、一人ひとり障害の種類や程度が異なり、また、必要とする機器や施設の使い方も異なります。講演者からは、支援機器や設備についての紹介とともに、それらをスムーズに、できる限り性能を生かして個々の障害をもった学生へ生かし、支援の現場で活用する方法についての説明が行われました。

その他、情報保障については、今まで視覚障害・聴覚障害の学生へ中心に行われていた情報保障について、肢体不自由や発達障害をもった学生へもテクノロジーを有効活用して行われなければならない、という話や、大学等の教員側、職員側が障害をもった学生へ接するにあたって配慮しなければならない事項が非常に多くあることも述べられました。

今後の障害学生支援

障害をもった学生への支援は、支援をマネジメントする大学等、実際に支援を行う支援者、その他関心のある方々が、日夜より良い支援を行うために、研究や研鑽を重ねています。残念ながら、今現在行われている障害をもった学生への支援が完璧なものとは言い切れません。今後、技術の進歩とともに、障害をもった学生への支援の内容もそれに合わせて変わってくることと思います。一人ひとりの障害に応じて適切な支援が行われることを第一としつつ、コストを抑え、質の高い支援が、将来すべての大学等で当然のように行われることを切に願うばかりです。

(いとうあきのり 東京大学バリアフリー支援室特任専門職員)