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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号

利用者

権利を保障しない「障害者自立支援法」は要らない

家平悟

2006年12月に国連で採択された障害者権利条約に、9月28日(NY現地時間)に日本政府が署名しました。私たち障害のある当事者が願うことは、「同年齢の市民と同等の権利」であり、このことを具体的に保障していく障害者政策や法制度の整備です。

では、現行の「障害者自立支援法」が、私たちの生活や自立を支えるものなのか、改めて考えてみたいと思います。

応益負担の現実

障害者自立支援法施行に伴い昨年4月から始まった応益負担(=定率負担)は、障害者、その家族の生活を苦しめました。私は、妻と当時1歳になったばかりの息子の3人暮らしでした。妻が働いているため、課税世帯となり、負担上限額は3万7,200円となりました。

私は作業所とヘルパー制度を使っていたため、毎月上限いっぱいの負担額を強いられました。10月以降の障害者自立支援法完全実施により補装具、また、移動支援や日常生活用具への原則1割負担を合わせると、昨年1年間で約50万円の利用料を払わなくてはならなくなりました。つまり、これだけ払わないと私の場合、制度が使えなくなりました。

この負担は、私の年金の半分に当たり、子育てをしている私たち夫婦にとって大変重い負担でした。

昨年、応益負担に苦しむ、全国の障害者や家族が悲痛な声を上げ、関係者と共に大運動を続けてきた結果、国は特別対策を講じざるを得ませんでした。

今年の4月から開始された、さらなる負担軽減措置によって、私の上限は9,300円に下がりました。

食費を削り、子どもの将来のための貯金を奪われ、重い負担を払い続けなければならなかった私たちは、一体何だったのでしょうか。憤りに耐えません。

抑制される制度の活用

障害者自立支援法は、応益負担の導入により障害者が制度の活用を自己抑制せざるを得ない状況をつくり出している一方で、さらに制度そのものを使えなくし、行政の負担が膨らまないようにする『制御装置の役割』も果たしています。

障害程度区分は、どの区分に分類されるかによって、使えない制度があります。たとえば、ケアホームは区分2以上、重度訪問介護は区分4以上などがそうです。その人が有する障害の困難さを何も反映しない判定基準によってです。

また、この障害程度区分により、居宅介護には国庫負担基準額が設定されており、各市町村自治体は、この基準によって給付時間のガイドラインなどを設定しています。

大阪市では、区分6の人に支給される身体介護は54時間、家事援助が22時間など、明確な基準で、給付を抑制しています。この流れは全国的に広がっています。

私はいま、東京の板橋区に住んでいます。居宅介護を132時間支給決定されていますが、これが上限いっぱいだと言われています。

さらに市町村の裁量で行うことのできる地域生活支援事業は、裁量的経費であり、国から下りてくる交付金があまりにも低かったために、特に移動支援では、支給時間を30時間程度に抑えたり、外出先を限定するなど、社会参加を抑制する動きとなっています。

大田区在住の鈴木敬治さんが月124時間の移動介護支援が、障害者自立支援法施行後、月32時間に減らされ、裁判闘争した事例は有名ですが、私の区でも月50時間が支給の上限となっていて、それ以上は支給しないというのが区の方針となっています。

抜本的見直しと大幅な予算の確保を!

このように、障害者自立支援法は、あらゆる面で、障害者の生きる権利を奪っているのは明らかな事実です。そして、応益負担に代表される方の根本的な考え方自体が、間違っている悪法だと言わざるを得ません。

なぜなら、障害者、家族は、この法律が始まって以来、常に将来の不安にさいなまれ、家族に障害児や障害者がいることを不幸に思うような制度にされているからです。

この悪法を変えるためには、まず、この法律をつくった政治家をはじめ、厚生労働省が間違いを認めることです。そして、障害者、家族が一人の人間として、当たり前に生きることのできる制度を一から再構築する姿勢を示すべきです。

その前提として、OECD諸国の中で低い位置にある日本の障害者予算を、最初から積算し直し、大幅な予算の確保を行うことです。これをしない限り、抜本的な見直しをできるわけがありません。

そして、障害程度区分のような制御装置にしかならない仕組みを廃止し、障害者権利条約が示している諸権利の保障を、具体的な政策として実行していくことが重要です。

障害者が社会的に強いられるさまざま困難を解消するために、また、いまこそ、障害のある私たちに『権利としての自立』が保障される法律への転換を強く求めます。

(いえひらさとる NPO法人日本障害者センター事務局次長)