「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号
自治体
地域で暮らす 佐賀がんばらんば宣言
佐賀県障害福祉課
アメニティフォーラムで知事による「がんばらんば」宣言
平成18年2月、滋賀県大津市で開催された第9回アメニティフォーラムinしがにおいて、古川康佐賀県知事と関係団体が声を合わせて「がんばらんば!」と拳を振り上げました。翌日の地元紙が伝えたフォーラムの記事には、「シンポジウムは浅野史郎・前宮城県知事が司会。古川知事は県の工事の入札の際に障害者の法定雇用率を達成している事業者に加点して有利に扱う独自制度を紹介。また、▽三障害を一元化した相談窓口設置を応援する▽障害者の働きたいを応援する▽精神疾患に対する誤解と偏見を解消する―ことを通じて、障害者が地域で暮らすことの実現を目指すと宣言した。」と写真付きで報道しました。
滋賀で行われるアメニティフォーラムinしが(現在のアメニティネットワークフォーラムinしが)は、浅野史郎・前宮城県知事が「みやぎ知的障害者施設解体宣言」を発表して障害者の地域移行を促したり、國松善次・前滋賀県知事が「障害者の働きたいを応援する滋賀共同宣言」を商工関係機関とともに宣言し、翌年の予算で各圏域に「働き・暮らし応援センター」を県単独で設置するという事業を実現したりするなど障害福祉等に関するアピールの場となっています。
宣言文は、佐賀の福祉を進めるネットワークという、佐賀県でチャレンジドフォーラム(第4回チャレンジドフォーラムinさがは、11月10日・11日唐津市民会館で開催されます)を主催する任意の機関が、県障害福祉課や関係機関と調整を開始し、最終的には県主導で修正を加え、知事自身が修正加筆したものです。全文は佐賀県庁のホームページに掲載しています。
(拡大図・テキスト)
図 チャレンジドのための相談窓口のあり方
考え方 | 具体策 | |
---|---|---|
親身 | 真に、障害者やその保護者の立場に立って相談に応じる。 相談に行きやすい窓口とする。 |
1.障害者本人や保護者が相談しやすい・通いやすい窓口にするための工夫のひとつとして、当事者・家族会相談員の配置を検討。 2.17時以降や土日など、可能な限り、窓口開設時間を長くする。 3.窓口は、市町庁舎など誰でも通いなれた場所に設置する。 |
中立 | サービス提供事業者等の影響を受けない相談支援体制を確保する。 | 1.市町直営やサービスを持たないNPOや社協等を主体とした中立的運営母体の確保。 2.中立性の確保について地域自立支援協議会において検討する。 3.窓口は、市町庁舎など公的な場所に設置する。 |
三障害以外も | 精神、知的、身体だけでなく、難病や発達障害等についても対応する。 | 1.高度な専門的知識を必要とする相談については県がバックアップすることとし、市町相談窓口との連携強化を図る。 (難病)佐賀県難病相談・支援センター (発達障害)佐賀県発達障害者支援センター、NPO法人それいゆ (精神)佐賀県精神保健福祉センター、精神障害者地域生活支援センターぷらっと 2.高度な専門的知識を必要とする相談についても、専門家の出張等によりその場で対応し、たらい回しをしない。 |
専門性の確保 | 相談支援の専門家が対応する。 | 1.専門的職員、専門性(経験)のある相談員配置。 2.職員の研修により専門性の向上を図る。 3.高度な専門的知識を必要とする相談については県がバックアップすることとし、市町相談窓口との連携強化を図る。 |
継続性の確保 | 相談者が常に新たな相談ができる体制を確保する。 | 1.相談者の情報の共有化により、応対する相談員が代わっても継続した支援ができるようにする。 2.専門的職員、専門性(経験)のある相談員が、可能な限り計測して勤務できる体制の整備。 |
がんばらんば宣言後の佐賀県の取り組み
がんばらんば宣言後6月には佐賀県として、図のとおり市町への指導方針を打ち出しました。地域療育等支援事業の相談部分が市町にシフトするなど、県としての指導が難しいタイミングとなってしまいましたが、県地域生活支援事業として準備された「アドバイザー事業」については10月にはスタートすることができました。
佐賀県では、経験豊富な相談支援のスーパーバイザーとして県外の方にアドバイザーをお願いしました。この県外アドバイザーについては、効果がある取り組みであるとして、国の障害者自立支援対策臨時特例交付金の「特別アドバイザー派遣事業」として採択され、全国展開されることとなりました。
特別アドバイザーの活動
特別アドバイザーについては、佐賀県では、滋賀県自立支援協議会事務局長中島秀夫氏・社会福祉法人オープンスペースれがーと施設長牛谷正人氏の2人に、主に自立支援協議会の設立・運営についてアドバイスをいただき、大村市社会福祉協議会事務局次長山下浩司氏に主に総合相談窓口における相談支援のあり方についてアドバイスをいただいています。
特別アドバイザー派遣事業の効果は大きく、相談支援のあり方やチームアプローチのための自立支援協議会の重要性について、初めて聞く人が理解できるように説明していただいています。長年の経験を重ね、障害者の地域生活を支援してきた実績のある方の言葉は重く、そして分かりやすいという評判を得ています。
アドバイザーの活躍により、佐賀県では、今年3月までには県の自立支援協議会に加え、県内全圏域に地域自立支援協議会を立ち上げ、今年度に入り実質の会議を重ねています。
ここに、特別アドバイザーからいただいた自立支援協議会立ち上げのポイントを列挙しますと、
1.各種審議会と同様に辞令書を発行し、謝金旅費をだすなどにより立ち上げるのはやめた方がいい。地域自立支援協議会は、障害者の地域ニーズに関する情報を持っている人たちが手弁当で集まり、情報交換をする実務者会議がベースであることが必要。形だけの会議を年1~2回だけ開いても何も生まれない。
2.地域自立支援協議会に情報提供するには、個別調整会議を頻繁に行う必要があり、そのことによって地域のニーズが明らかとなり、課題も見えてくる。また、適切な支給決定ができることから、個別調整会議は自立支援協議会の命綱であると言える。
3.地域自立支援協議会の立ち上げに当たっては、実務者会議に加え、決定機能を持つ代表者会議、専門機関の部会などにより構成し、小さく始めて、少しずつ大きくしていくのも一つの方法。最初からメンバーをがちがちに決めてしまわないでもよい。
などのアドバイスをいただき、早期の全圏域立ち上げにつながりました。
特別アドバイザーによる研修
現在、相談員のスキルアップのため、事実上の現任研修となる「スキルアップ研修」を特別アドバイザーを講師として実施しています。内容は「自立支援協議会の役割」「相談支援から支給決定まで」「個別調整会議の開き方」と開催し、年度内に「個別調整会議の実際」「地域移行における相談支援」などの研修を行う予定です。
また、OJT(職場内研修)として、特別アドバイザー参加による個別調整会議を実施したり、「一日相談員」としてアドバイザーがまる一日窓口で勤務し、一緒に業務をこなしながら指導するなど活躍していただいています。
よりよい総合相談窓口の確立に向けて
佐賀県では、相談支援がほとんど根付いていなかったため、地域生活を支援する事業者もなかなか育たない状況の中で障害者自立支援法の施行を迎えることとなりました。三障害に対応できる窓口を整備するためには、ワンストップ総合相談窓口の確立が必要であると判断し、大村市社会福祉協議会で確立されていた総合相談窓口を参考にしながら窓口設置を目指すこととしました。
その結果、複数の市町をエリアとしてNPOや社会福祉協議会が運営する窓口が1か所ずつできました。しかし、15か所できた窓口のうち、いまだ予算措置することなく、従来の窓口対応のままという市町もありますので、県自立支援協議会全体会でも予算措置の努力と中立的な窓口設置を決議しました。
窓口として中立を保つためには、相談支援事業の展開だけで事業所として成立できることが極めて重要ですが、現在の制度は委託料のみが財源とならざるを得ず、厳しい運営を余儀なくされています。相談支援事業の柱となる「個別調整会議」やモニタリング、ニーズの掘り起こしといった相談支援としてあるべき活動に対し、報酬が算定されるようになることも一つの方法として検討していいのではないかと考えています。
また、基金事業(障害者自立支援対策臨時特例交付金)でも相談窓口の立ち上げ支援や施設整備補助がありますのでそれを活用したハード整備を行い、可能な限り障害者に寄り添った相談窓口ができるように願っています。また、法人事務所内に窓口を置くのではなく、やはり、法人組織からも中立であるべきことを目指しています。
役所や法人にではなく、障害者やそのニーズに寄り添う窓口を目指していくことで、「がんばらんば宣言」や佐賀県の出した方針に少しでも近づけるのではないかと日々苦心しています。
佐賀北高校はこの夏の甲子園で全国制覇を果たしましたが、「応援」がものすごい力を出すことを証明しました。国民の「応援」が障害者の地域生活支援により多く向けられることを心から願っています。