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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号

1000字提言

ウサギとカメの話

紺野大輝

私は脳性マヒという障害をもって生まれました。生まれた当初は身体障害者手帳2級で、歩けるようになるのも厳しいと言われたほどでした。しかし、4年間の入院生活の末歩けるようになり、幼稚園より普通学級で生活するようになりました。

普通の人と一緒にできることは、とてもうれしい。そう思うようになり、どんなことも果敢にチャレンジしてきました。そして、いつしか「できない」という言葉を言わないようになりました。それは、「自分は健常者とは違う」と認めることになるから。それだけは、絶対に認めたくないと思うようになっていました。

この考え方が変わったのは25歳の時、心理学で「自己開示」を学んだ時でした。相手と分かりあおうと思ったら、まず自分が心を開くこと。自分が心を開いた分だけ相手も心を開いてくれる。自分が変わることなくして相手を変えることはできないという内容でした。

この話は私に大きな衝撃を与えました。私は障害をもっていることを認めていなかったので、障害について今まで話したことがありませんでした。しかし、私のもっている身体障害は目で見て分かるものだから、周りの人もあえて触れてくることはありませんでした。そこに見えない大きな壁ができあがっていました。もっといろんな人と分かりあいたい。そう思った時、自らこの壁を壊していくことを始めました。

私はまずは身近な人から今までの人生について話し始めました。うれしかったこと・悲しんだこと・苦しんだことなど時には涙を流しながら語りました。そうしていくうちに、相手との距離がどんどん縮まっていくのを感じました。自分が変わると周りも変わってくる。そのように変わり始めた頃、友人からこのような話を聞きました。「ウサギとカメ」の話です。

「ウサギとカメが普通に戦うとウサギが勝つ。それはウサギの得意な陸の上で戦っているから。カメの得意な海の中で戦えばカメが勝つのに。カメが陸の上で戦おうとするのはコンプレックスの裏返し。自分のことを認めたくないから。

紺野君は障害者。にもかかわらず俺は健常者と一緒なんだと叫びながら必死に生きている。陸の上で戦うより自分の海を見つけた方がもっと自由に幸せに生きることができる。もうそろそろ自分の海を探してみたら?」

自分の障害を受け入れよう。そう思えるようになりました。私は自分がコンプレックスを乗り越えた方法と心の悩みの解決方法は同じであると思い、メッセージを発信していくことを始めました。小さな海が見つかり始めました。自分の土俵では、ライバルは自分だけ。周りの視線はもう気にならなくなります。

あなたの海はどこにありますか?

(こんのたいき 笑顔配達人「笑顔がいいね」代表)