音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年1月号

国連障害者権利条約批准に向けての課題

トーマス・ラガウォル
(リハビリテーション・インターナショナル(RI)事務総長)

条約の制定に当たって

RIをはじめとする諸機関は長い間障害者権利条約を強く主張してきましたが、これに対して各国ならびに国連総会が極めて前向きに対応したことを大変喜ばしく思います。

RIの障害者権利推進活動の長い歴史が1931年の「障害児権利章典」までさかのぼるという事実はあまり知られていませんが、これは障害者の権利に関する最初の国際的な文書の一つと考えられています。

1999年の「RI2000年代憲章」は加盟国に対し戦略の鍵とすべく国連障害者権利条約制定の支持を求め、憲章は100か国以上の元首、政府首脳に献呈されました。

2001年にメキシコが権利条約の交渉開始を提案し国際的な障害者組織はこれを歓迎、RIはNYを本拠地とする唯一の国際的障害者組織として、2001年10月以来、国連総会第3委員会(人権を扱う委員会)の審議を注意深く見守り、参加してきました。

各国政府の多くが、新規の人権擁護手段の必要性に難色を示して既存の人権条約は障害者にも同様に適用されるので新しい条約は必要ないと主張したため、障害者コミュニティはこれらの主張が間違いであることを証明する必要がありました。

5年に渡る交渉の末、2006年12月13日国連総会は障害者権利条約を採択、障害者の歴史にとって画期的な出来事となったのです。

署名と批准

権利条約採択直後の半年間で100か国以上の政府が圧倒的な支持を表明しましたが、これは障害者に対する約束を遂行しようという各国の強い政治的誓約を表しています。

2007年12月初旬現在118か国と欧州共同体が条約に署名し、11か国が批准しています。短期間にこれほど多くの国が署名したということは、この条約が世界中の障害者の生活に決定的な重要な影響を与えるだろうという高い期待の表れです。私は日本の署名を祝うとともに批准までにあまり時間がかからないことを望みます。

条約は20か国が批准した時点から30日後に効力を発しますが、私は2008年前半に実現すると考えています。発効後批准国は専門家12人からなる委員会を設置し、特に条約批准国が提出する報告書を基に条約の履行状況を確認します。批准国が増えれば委員会の専門家数は18人に増員されます。

条約とRIの運動

RIは権利条約制定を積極的に推し進めながら世界的規模の権利擁護運動に着手しましたが、その目標は次の通りです。

条約に関する情報をアクセシブルな様式で提供する/障害者権利条約の署名、批准、履行を推進する/コスタリカ、エクアドル、メキシコの障害者組織と政府を支援し、現行法の見直しおよび条約遵守に必要な調整に関する分析を行う/障害者の権利擁護者、政治家、弁護士、司法官、および権利条約履行に関わる意思決定者の能力向上を図る

権利条約は政府に大きな責任を持たせており、最も困難な作業は批准後に始まります。つまり、崇高な理念が実践に移される時、次のようなさまざまな問題が提起されてきます。

いかに障害の異なる人たちに確実にインクルーシブ教育を実施できるか/いかに障害者の雇用を促進できるか/いかに何百万人もの人、特に資源が限られた地域に住む人たちに良いリハビリテーションを提供できるか/いかに古い歴史的建造物や社会をアクセス可能にできるか/いかに新しい技術が障害者のバリアフリーに役立てられるか/いかに障害者に、特に何世代にも渡って社会から認められていない人たちに、自らの権利行使能力を確保できるか

この権利条約はあらゆる種類の障害者のためのものなので、顧みられず取り残されることの多い慢性病患者も対象になります。

RIと障害者組織に対する課題

障害者コミュニティは各国政府および国際的・地域的組織と協力して運動の勢いを維持し、各国が確実に条約に署名し批准するように働きかける必要がありますが、それ以上に重要なのは関係者に条約履行に必要な措置を確実に講じてもらうことです。

RI所属の1000に上る加盟団体のネットワークは幅広く深い専門知識を有しており、さまざまな課題解決についてはすでに実績を築いています。RI関係者の多くは、法律、リハビリテーション、医学、建築などの専門分野に携わっていますので、鍵となるアクターである障害者組織、政府、国内人権機関やサービス提供者などと協力して、特に地方レベル(市町村など)で行動計画やプログラム、政策を開発する計画を立てています。さらにRIは条約の影響を評価するための統計や指標の収集を推し進めています。

RIは、条約が描く平等の世界の構築に取り組む過程で築かれる協働関係やパートナーシップに期待しています。互いに協力し合えば権利の履行に困難な問題が生じても障害者のQOL改善につながる解決策を見出すことができるからです。

貧困と障害には強い関連性があるので条約が成功しているかどうかはアフリカ、アジア、ラテンアメリカのスラム地区、農村地区を評価することによって判断できます。障害者もまた先進国では最貧困層です。私は多くの具体的な活動が世界中で早く行われることを期待しています。私の夢は条約が世界中に与えた成果を10年か20年後に私たちが胸を張って見届けることです!