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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年1月号

すべての障害者のあらゆる差別に終止符を!
障害者権利条約と今後の課題

キキ・ノードストローム
(WBU(世界盲人連合)前会長)

世界中で障害をもって生活している人の数は総人口の約10パーセントに相当する6億5千万人、そしてWHOはこの数字は人口増加、医学の進歩、高齢化の進行に従い増えていると報告しています。

国連開発計画(UNDP)によると、障害者の80パーセントは途上国に住み、学歴の低い人たちのほうが障害者になる比率が極めて高く、女性は男性より障害者になる割合が高いということです。これらを考えると障害者の人権を保障する条約の必要性は明らかです。

障害者権利条約は準備が整ったあと各国による署名・批准のために開放されました。法的拘束力があるこの権利条約は批准国では国内法となります。国連のシステムでは発効には20か国による批准が必要ですが、私は権利条約は2008年内の発効の可能性が高いと考えています。

障害者権利条約にはこれまでに118か国が署名し、11か国が批准しています。日本は署名はしましたが批准はしていません。

各国政府にはいかなる留保も付けることなく、選択議定書も合わせて障害者権利条約を早急に批准する責任があります。これまで選択議定書に署名したのは67か国、批准したのは6か国ですが、選択議定書の発効には10か国の批准が必要です。

障害者権利条約の選択議定書の重要性は、国が条約を遵守しない場合、もしくはあらゆる差別を禁止する法的措置を講じなかった場合、個人または集団が委員会に苦情を申し立てることができるという点にあります。さらにこれには、一般の人々にサービスを提供する民間分野も含まれていて、もしそのサービスを障害者が利用できない場合は差別と見なされます。しかしながら、選択議定書で次のように定めているとおり、まず初めに国内の法律や手順によってすべての可能性を尽くしている必要があります。

第1条〔個人通報についての委員会の権限〕

1 この議定書の締約国(以下「締約国」という。)は、障害のある人の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)が、当該締約国による条約規定の侵害の被害者であると主張する当該締約国の管轄の下にある個人若しくは集団により提出される通報又はこれらの個人若しくは集団のために提出される通報を受理し及び検討する権限を有することを認める。

第2条〔通報を受理できない場合〕

(d) 利用可能なすべての国内的な救済措置を尽くしていない場合。ただし、当該救済措置の実施が不当に遅延する場合又は効果的な救済をもたらす可能性に乏しい場合は、この限りでない。

「川島聡・長瀬修 仮訳(2007年10月29日付)」

障害者権利条約の発効と同時に監視委員会が設置されます。監視委員会は条約を監視し、個人や組織からの申し立てを受理するのですが、当該国政府が条約の選択議定書も批准していることが条件です。

障害者権利条約は社会的宣言でもなければ開発に関する条約でもなく純粋に人権に基づいた条約で、障害者が人類史上初めて人権という文脈の中で取り上げられています。障害者はもはや自分たちの権利を守るのに医療専門家や介護者の大義名分に依存する必要はなくなりました。現在まで施行された人権条約は8つ、障害者権利条約は9番目の人権条約となります!この権利条約は権限のない骨抜きの条約などではなく、すべての人権条約の中で最も強力な条約です!

障害者権利条約には障害のある女性を認めている条文があります。世界中で障害のある女性や少女がいかに放置され、忘れ去られ、社会から取り残されてきたかを考えると、これらの条文は特に必要とされるものです。第6条「障害のある女性」では、現実に複合的な差別を受けていることを認めています。また、第7条「障害のある子ども」では、他のすべての子どもと同様に完全で平等な人権を享有する、とうたっています。

障害のある女性や子どもは特に虐待の対象になりやすく、2004年にインドのオリッサで行われた小規模な調査でも、障害のある女性と少女すべてが家庭内で暴力を受け、知的障害のある女性の25パーセントがレイプされ、障害のある女性の6パーセントが強制的に不妊手術を受けさせられたことが分かっています。

最近、私はスウェーデンで調査報告書を出版しました。その調査では、障害のある女性が虐待を受ける割合は障害のない女性が虐待を受ける割合と同じであるとなっています。つまり、全女性の50パーセント近くが15歳から64歳までにさまざまな種類の暴力や虐待を受けているのです。しかも、加害者は必ずしも家庭内の男性とは限らず、介護者、医師、教師などの場合もあります。

UNICEFによるとホームレスの青少年の30パーセントが障害者と報告されています。またイギリスの国際開発省は、障害のある子どもの死亡率は、5歳以下の子どもの死亡率が20パーセント以下まで低下した国でさえ80パーセントになることもあると述べ、中には子どもが「雑草のように引き抜かれている」と思われる場合もあると付け加えています。

このような事実があるからこそ私たちは早急に障害者権利条約を発効させ、すべての国のすべての障害者に対するあらゆる種類の差別に対し、終止符を打たなければならないのです!

あと9か国による障害者人権条約の批准が「今」必要です!