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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年1月号

障害者権利条約の批准に向けて
―視覚障害者の立場から―

田丸敬一朗

障害者権利条約批准に向けて、日本が解決していかなければならない問題の中で、視覚障害者と関連の深いものは、第24条に規定されている教育と第27条の労働及び雇用です。他の障害者と同様、視覚障害者にとって現在のインクルーシブ教育は、制度的にも受け入れ環境に関しても、整備されているとはいえません。労働及び雇用については、従来の按摩・針・灸以外の職域拡大が課題といえます。障害者雇用率が伸びている昨今においても、視覚障害者、特に全盲の人たちの雇用状況はまだまだ厳しい状況です。どちらの問題も、制度の整備、合理的配慮による支援体制の確立などを目指していかなければなりません。

そして、私たちが普段の生活でもっとも多く直面する問題に関連した条文が、第9条のアクセシビリティです。9条では、公共設備のアクセシビリティ、サービス提供者に対する研修、情報アクセスへの配慮、一般的に使用される機器のアクセシビリティ促進などが述べられています。私たち視覚障害者にとって、このアクセシビリティに関する問題は、先にあげた課題とも関連しています。インターネットの普及や新しいテクノロジーの開発により、視覚障害者の生活も大きく変化してきています。しかし、人は文字情報に限らず、多くの情報を視覚から得ています。制度面の問題から日常生活に至るまで、私たち視覚障害者は多くの情報のバリアに直面しています。

日本における情報アクセスに関する課題の一つに、第29条にも述べられている政治参加のバリアがあります。投票所には点字の筆記用具が用意され、候補者の点訳リストが置かれているので、政治参加に制限が加えられているわけではありません。しかし、投票の通知、投票所や立候補者の情報など、多くの情報提供がなされておらず、アクセシブルな情報を得るのも困難です。また、視覚障害者の多くが点字を読むことができないため、係員に記入を頼むのを嫌がる人も多く存在しています。インターネットでの投票の導入を含め、広報・投票の方法について検討が必要です。

パソコンをはじめとしたさまざまなテクノロジーの開発により、私たちの生活は大きく変化しました。しかしその反面、タッチパネルで操作する機器の普及など、新たなバリアも生まれており、当事者によるユーザビリティの検証が不可欠です。代表的なものとしては、エレベーターや銀行のATMなどは公共性がかなり高いにもかかわらず、私たちにとって使いやすい機器とはいえません。視覚障害者に配慮されたATMの普及率はかなり低く、各銀行ごとに導入しているシステムも異なっているため、大変使いにくいものとなっています。そして、私たちの使用できるATMがどの銀行に設置されているのかについても知らされておらず、一人でATMを使用することが困難な状態です。その他、タッチパネルやボタンを押すたびに光が明滅する電気も、多くの建物で使用されています。いくら私たちにとって使いやすいシステムでも、それぞれの使い方が異なっていては私たち視覚障害者が使いこなすのは困難です。今後は、当事者も参加し、アクセシビリティに配慮した商品の統一規格を設ける動きが必要になるでしょう。

最近、駅などの公共施設や街中には、誘導ブロックや音声信号、触地図など、バリアフリーを意識した設備が増えてきています。しかし、その設置位置に関して、当事者の意見が十分反映されていません。たとえば、音声信号の場合、環境音が大きく、人も少ない、身近な音が聞き取りにくい道がもっとも必要な場所といえます。私たちが街を歩く際は、誘導ブロックや音声信号だけでなく、周辺の音や路地の数等を目安にしています。誘導ブロックが何本も道に引かれていると、逆に目印がつけにくくなってしまいます。このように、ただ誘導ブロックを引くことが良いわけではなく、その引き方によっては逆に歩く邪魔になってしまうこともあります。また、スクランブル交差点などは、人の流れがいくつもの方向に分かれているので、音声案内なしでは自分の位置を見失ってしまいます。バリアフリー施策に当事者の意見をいかに反映させていくかが今後の課題でしょう。

また、生活面では、ヘルパー派遣も重要な情報保障の一環として考えていく必要があります。ホームヘルパーは郵便物やマニュアルなど、さまざまな文字情報の支援という意味で、そして外出時には、単に目的地までのガイドヘルパーの役割にとどまらず、さまざまな情報源として、私たちの社会参加には不可欠な存在といえます。たとえば、お店の開店や閉店、お店に並んでいる商品の情報など、人を通じてしか得られない多くの情報が存在しているからです。さらに、自分や周りの人の服装なども、一人暮らしをしている視覚障害者には得にくい情報の一つといえます。このような情報提供を行っていく支援こそが、私たちの真の社会進出につながるでしょう。

このように、制度、テクノロジー、交通アクセスというハード面から、ヘルパーなど人の問題まで、私たちが何の不安もなく社会生活を送るために、以上のような課題を一つずつ解決していく必要があります。情報アクセスの観点から見ると、日本ではバリアフリー法の制定により、一定の基準作りがなされました。しかし、将来的には、エレベーターやATMなどのハード面のユーザビリティに関する法令整備も行っていかなければならないでしょう。他の制度整備も含め、当事者の声をいかに法律や制度作りの過程に反映させられるかが、今後の課題といえます。そして、そのような制度作りに私たちの声が生かされた時、真の社会参加が成し遂げられたといえるでしょう。

(たまるけいいちろう DPI日本会議)